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集灯町~白雪とぼくらの四季~  作者: パパパパーン


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第一章 春の朝と白雪の冷凍庫

薄暗い部屋の中。

 朝日が昇るにつれてぼくの部屋が段々と明るく照らされる。

 カーテン越しに差し込み太陽の薄い光が、ぼくの体の中に眠っていた【熱】をそっと揺り起こす。


 明け方の冷たい空気が、ぼくの肌に触れては、胸の奥の熱とぶつかって ジュッ!と小さく音を立てる。


 白雪のおかげで、ぼくは熱を克服する事が出来た。でもまだコントロールには程遠い。

 朝になるとぼくの体は自然に熱を帯び始める。まるで体の中に小さな太陽があるみたいに。

 

 遠くから聞こえる鳥の鳴き声が、ぼくの意識に舞い降り覚醒を促す。

 ぼくはスーピースーピーと寝息を立て、体温がジワジワと布団の中の空気を温めていく。


 ツーピー、ツーピー、起きろー

 ツーピー、ツーピー、寝るなー


 バサバサっと庭の木に舞い降りた妖怪シジュウカラ。綺麗で透き通る様な声で鳴き出し、お腹の模様がプクッと膨らみ顔になって野太い声で喋り出した。

 その瞬間。


ぼくの体の熱がボッ!と跳ね上がり、

掛け布団をドカッと蹴飛ばし、

ガバッと布団から飛び起きた。


そして勢いそのまま、目覚まし時計のスイッチをOFFにする。


「よし、今日も目覚ましより早く起きたぞ。」


小さくガッツポーズを決めて、

布団を手早くサッと綺麗に畳んで枕をぽんぽんと整える。


窓に近づき、迷いなく両手でカーテンをガバッと開けると、燦々と輝く春の光が部屋に飛び込んできた。


「うーん、眩しい。」


 太陽の強い光に思わず顔を顰めるけど、ぼくは手を止めず流れる様に窓を開ける。


サァーーーー


まだ冬の名残を抱えた冷んやりとした朝の空気が流れ込んでくる。


 その冷気がぼくの体に触れた瞬間、胸の奥の熱がジュッ!と音を立てて冷めていく。


 この空気の冷たさがぼくの体温を冷ましてくれて本当に気持ち良い。

 控えめに言って最高だ。


 ぼくは大きく深呼吸して、冷たい空気を体いっぱいに吸い込む。

 

 まだぼくの中の熱を上手くコントロール出来ないけど、朝の冷たさはぼくの味方だ。


 いっぱい吸い込んだ冷たい空気をぼくの熱に乗せて一気に吐き出しながら


「木の葉さーん。おはようございます!」


 窓の外にそびえる巨大樹【木の葉】に向かって、ぼくは今日もいつも通り力いっぱい挨拶する。


「木の葉さん、おはよー」

「おはようございます木の葉さん」

 

近所からも同じような挨拶が聞こえてくる。

集灯町の朝は、木の葉さんへの挨拶で始まるんだ。


よし、今日もぼくは元気いっぱいだ。


 部屋から飛び出したぼくは、目の前にあるパパとママの寝室のドアを勢いよくバァーンっと開け放った。

 

 薄暗い部屋の中でパパとママが幸せそうにスーピースーピー寝息を立てている。


「おはよう、朝だよ。」


 ・・・全く起きる気配がない。

 目覚まし時計を見てみると、セットすらされてない。

 

「よし、そっちがその気なら、こっちも本気だ。」


 ぼくは迷いなくカーテンを開け、窓をガラッと一気に開けた。


サァーーーー


 春の冷たい空気を部屋の中に向かい入れると一気に部屋の中の温度が下がる。


 うーん、空気が気持ち良い。熱いぼくの体を程よく冷やしてくれる。

 

 そして、待ってましたとばかりにカーテンをフワリと揺らし、部屋の中を縦横無尽に駆け回る。


 行け行けgo go!パパとママを起こしちゃえ!


 ぼくの気持ちに反応する様にパパとママの布団の上をヒューヒュー駆け抜けてから、寝室のドアを抜けてぼくの部屋の窓から帰って行く。


「起きてよ!」

 

 パパはさらに深く布団に潜り込み、ママは寝言で「冷凍おにぎり・・・」と呟いている。

 ふっ、甘いよ。本番はこれからだ。


 ぼくは三枝師匠みたいに両手を広げて叫んだ。

「春の空気の皆さん、いらっしゃーーい。」


 今度は春の冷たい空気が団体さんで、次から次へと寝室に飛び込み、寝室内をビュンビュン飛び回って、ぼくの部屋から抜け出して行く。


「パパママ!おはよーーー!」


ぼくは冷たくて気持ち良い空気を体いっぱいに受けながらパパとママに向かって元気いっぱい挨拶をする。


「寒っ・・・無理・・・起きれん。」

「あと10時間寝かせてぇー。」


 パパは片言で駄々をこね、ママは相変わらず意味不明な事を言っている。


「起きろーーー!」


 ぼくはそんな言葉を全部無視してバサァーーって布団を引っぺがした。


「「ヒョェーーー!寒ーーい。」」


 2人の声がピッタリ重なり、お揃いのパジャマを着たクマみたいに大きなパパと子リスの様な小柄なママが、寒そうにブルブル震えながら抱き合う。


「早く起きてよ。木の葉さんも待ってるよ。」

「寒くて無理だぁー。」

「お願いあと9時間寝かせてぇー。」


 ぼくはパパとママの戯言を無視して部屋から出ようとした瞬間、パパがヒョイっとぼくを持ち上げベッドに引き摺り込まれた。


「福大、カイロGETだぁー。」

「福大、あったかーい。」

「うわぁー、やめてよ。離してよぉー。」

「ガッハッハ、ほっぺがプニプニでぽっかぽかー。福大も一緒に二度寝だぁー。」

「お腹がポヨポヨでぬくぬくぅー。二度寝二度寝、最高ー。」

「「福大、あったかーい。」」


 パパとママに捏ねくり回され、身体中を弄ばれながらも何とかパパママ無限地獄から抜け出そうとするも、2人のパワーには抗えず。

 でも、ぼくはこのあと大事な約束があるんだ。こんな所で立ち止まってたまるか。


「止めろぉーーー!ぼくは白雪と約束があるんだぁーーー!!ボン!!!」


 ぼくの体温が爆発した。


「あちちちち!!」

「あっつーい!」


 パパとママがぼくを離した隙にスルリと2人の魔の手から抜け出す。

 パパとママが突然の爆発に呆然としている。


 パパは目覚まし時計を見て、

「ハッハッハ。福大、朝5時だぞ。」

 ママは布団の顔を埋めて、

「福大、朝早すぎるよぉ〜」

ぼくはビシッと指を3本立てて。

「早起きは三文の徳」

 と言って階段を駆け降りた。

 

 ツーピー、ツーピー、起きろー

 ツーピー、ツーピー、寝るなー


 妖怪シジュウカラが庭の木から大声で鳴いているのが聞こえてきた。

 

 

 リビングのドアを音を立てない様にゆっくりと開ける。

 ドアノブの『カチャリ』すら許されない。


 カチャリ


 ヒョエー!!

 心の中で悲鳴を上げ、ぼくの顔はムンクの叫びの様にひん曲がってしまった。

 

 ・・・リビングの中に耳を傾けるが、白雪は起きてない。

よし!セーフ。

 

 ぼくは気を取り直して、リビングの中に足を踏み入れ、朝の冷たい空気の中キッチンまで足音を立てずに、そろーりそろーりと歩く。

 

 冷蔵庫の前で一度深呼吸して気持ちを整えてからそーっと冷凍庫を開ける。


そこは冬の夜だった。


 冷凍庫の中は冬の夜の様に暗く天井には星々が煌めいている。

 その真ん中で白雪が雪の布団に包まってスヤスヤと眠っている。

 透き通る銀色の髪はサラサラで、頬はほんのりと青白くて、寝息は小さな霧になっている。

 

 白雪の寝顔を見た瞬間、ぼくの心臓が大きくドクンっと高鳴なり、顔が一気に熱くなる。


「・・・白雪、おはよう。」


 白雪がゆっくりと目を開けると、冷気がフワッと広がる。

 白雪はボーッとしながら目を擦り、無表情でぼくの首に抱きつく。


ボン!!!


 ぼくの胸の奥の熱が一気に跳ね上がり、白雪の冷気とぶつかって白い霧が弾けた。

 そして小さく耳元で呟いた。


「・・・おはよう、福大」


白雪の頬がぼくの頬にそっと触れる。

 白雪のほっぺは、マシュマロの様に柔らかくて、冷たくて、ぼくの火照った顔をジューって冷やしていく。

 ぼくの顔は一瞬でりんごの様に真っ赤になった。


「・・・福大。」

「なっ、何?白雪?」


 上目遣いで白雪に見つめられ、ぼくの心臓がズキュンズキュンと胸から飛び出しそうに跳ね上がる。


「・・・かき氷、ふわふわで甘ーいかき氷食べたい。あと・・・。

「・・・あと?」

「福大のほっぺ。」

「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくのほっぺぇー!?」


白雪は無表情のまま耳だけ赤くしている。


「好き・・だから」

「え!!ぼ!ぼ!ぼっくっもっ!!!白っっっ雪っが!!!ぼくぼくぼくも!!!」


 ぼくの体が熱くなり、

 頭の先までカァァァーっと火照っていく。


「うわぁーーー!!!」


 ぼくを見つめ続ける白雪の視線に耐えきれず、リビングにの窓をガラッと開けて庭に飛び出す。


「ぼくも白雪が大好きだぁーーー」


 真っ赤になった顔からは湯気を立てながら、巨大樹【木の葉さん】に向かって叫んでいた。


遠くに見える木の葉さんの葉がザワザワと揺れている。


ダダダダーっと白雪の元に戻り


「白雪、ぼくと結婚しよう。」

「それは・・・嫌。」


再び、庭に戻りぼくは思いっきり叫んでいた。


「木の葉さーん!!!また振られたよぉーー」


妖怪シジュウカラは楽しそうに鳴いている。


ツーピーツーピー 振られた

ツーピーツーピー 青春だー


こうしてぼくの101回目のプロポーズは失敗した。


「・・・眠い・・・かき氷・・・後で」


白雪は無表情のまま雪の布団に包まり、冷凍庫のドアはフワッと閉まる。


 なんの変哲もないぼくの朝が今日も始まりました。


「食べ終わったら食器は洗ってよー!」

「出る時は電気と鍵ちゃんと閉めてね!昨日トイレの電気つけっぱなしだったよ!」

「燃えるゴミはぼくが出すから大丈夫!」


 ぼくは玄関から大声でリビングに向かって叫ぶ。

 ぼくの後ろで、白雪が眠そうにボーッと立っていて、

服の袖をぎゅっと掴んでいる。


「……眠い」


白いワンピース姿の白雪はぼくよりお姉さんの小学6年生ぐらいの姿をしている。無表情なのに一つ一つの仕草が可愛らしく、見ているだけでドキドキして胸が熱くなる。


「ポケットに入って寝ていいよ」


 白雪は必ず小学校に着いてくる。手のひらサイズまで小さくなってぼくのポケットで寝てるだけなんだけどね。

 ママがそんなぼく達を見て


「きゃー、南くんみたい!恋人?私あのドラマ好きだったんだぁー。」


と、キャーキャー言ってた。

ぼくは南くんじゃなくて福大くんだよ。まったく。

 

ぼくは白雪の前に屈んで胸ポケットを差し出すと白雪はこくりと頷き、雪の粒みたいに軽く、冷んやりした体でそっとポケットに潜り込んだ、


『……あったかい』


ボン!


 その一言でぼくの胸の熱は跳ね上がり、白雪の幸せそうな顔を見るだけで顔から火が出るくらい真っ赤になる。

 毎朝これだもんな。ぼくの心はジェットコースターみたく熱が上がったり下がったりするんだ。

 愛はジェットコースターなんだって、キンキにいるキッズが歌ってたって、よくママが言ってたっけ。


そこへママがトテトテと走ってきた。


「待って待って、白雪ちゃんはいこれ!」


 白雪がぼくの胸ポケットから顔だけポンと出す。

ママは白雪の頭をそっと撫でて、大きな赤いリボンを丁寧に結んで満足そうに笑っている。

 白雪は目を細めて嬉しそうにしている。


「なんで赤いリボンなの?」


「白雪と言えば姫でしょう。姫と言えば姫ちゃんでしょう。姫ちゃんと言えばリボンでしょう。決まってるじゃない」


「そうなの?まあ・・・。」


 白雪をチラリと見るけど、あまりの可愛さに恥ずかしくて目を背けてしまった。

 赤いリボンが白雪の銀髪に映えて、まるで本物のお姫様みたいだ。


「・・・すごく可愛いからいいけど」


白雪はほんのり頬を赤らめる。


『・・・嬉しい』


「白雪・・・可愛いよ」


『・・・ありがとう』


ぼくと白雪はお互い顔を赤らめて見つめ合ってしまった。


「はいはい、朝からイチャつかないの!」

「ちょっとママ。ぼ、ぼくイチャイチャなんかしてないよ」

「そう?」


 むむむむむ、なんかママのニヤニヤした顔が無性に腹が立つ。絶対にからかってるでしょ。

 

「ガッハッハ!福大、もう行くのか。いつも早いな。」


 パパがパンを齧りポロポロと溢しながら玄関に出てきた。


「パパ、食べながら喋らないでよね。それから、パン溢してるからちゃんと掃除しといてね。」


「ガッハッハ。分かった分かったお任せとけ。白雪ちゃん、福大をよろしくな。」


 白雪はポケットの中からそっと手を出して親指を立ててグーサインで応えている。


「パパ、絶対掃除してよね。それから電気も消してよ!」

「ガッハッハ、任せろ任せろ。」


 はぁ、パパの『任せろ』は全然任せられないんだよな。うちのパパは大雑把過ぎるし、ママは適当過ぎる。大丈夫か?うちのパパママは?

 

「白雪行こう」

『うん。行こう、ポコ太』

「僕はポコ太じゃないよ!福大だよ!!」

『ポコ太、うるさい』


パパとママは笑いながら手を振る。


「「いってらっしゃーい!」」

「行ってきまーす。」


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