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「図書館都市のリディア」~砂漠の王にさらわれて、陰謀渦巻く後宮へ~  作者: 高瀬さくら
2.ヴァルハラ宮編

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85.過去の世代


 ――それは、一部の者しかしらない秘匿された噂。


 ハラールの国王から妾腹の出の姫が友好の証として隣国に献上されました。その名はエーロ。本来は、そのように位の低い者が嫁ぐなどありえないこと。


 だが、その姫の見目、心の美しさは知れ渡り、ヴァハラの王の座を与える予言の乙女と請われてのこと。姫は十四歳で妃に次ぐ八嬪の一人として嫁ぎました。


 そしてすぐに懐妊、一人の姫を産み落としました。ただそれにはやや理解に苦しむことが噂されました。嫁いでからの産み月が早すぎる――早産と侍医は診断しました。


 けれど、市井では心無い噂が密やかに囁かれました。それはハラール姫の父親が好色だったこと。輿入れの前に既に懐妊していたのではないか、娘との同衾ではないかと。


 あまりにもおぞましい噂であるためどこからの圧力で一時は消されたものの、姫はもう一人皇子を設けたところで、妾へと降格され、自身の王宮、伯花宮へ幽閉されました。


 それは他の妃濱からの密告があったとのこと。予言の乙女を騙った罪、そして産んだ一の姫の父親がハラール現王ではないかという噂。


 姫の二人目の子、シヴァ皇子を含め親子三人が幽閉され伯花宮が荒れ果て廃宮と呼ばれる頃にはたくさんの妃嬪達が、ヴァルハラ国王の猜疑心により次々と幽閉されるため送られてきました。


 それを姫は心を尽くして世話をしました。色違いの目を持つファズーン皇子を産んだ”妾の女”、あちらこちらをひっかきまわす“ぬえ”、常に誰かの側につく“蝙蝠(こうもり)”。ここは女達の醜い争いの縮図。


 そして最後に起こったのが、現皇太后とエーロ姫たちとの事件。


「――何が起こったのかはわからない。けれど、妾の一人は出て行き立后され、恩赦でエーロ姫も解放され宰相に嫁ぎ二人の娘を設け、鵺も、烏も出て行った。残されていた子達の私やファズーン、シヴァは生き残り、解放されたあと伯花宮は解体された」


 ローゼの視線は一切リディアから外れない。まっすぐに強く見据えている。


「神にはそれぞれの領分(スペース)がある」


 淡々としていながら強い言葉。


「ここは第一師団の管轄で、私の“夫”は入ることができない。そして私も戻らないことを条件に出て行ったの。……だから、あなたを助けに来ることができなくてごめんなさい」


 “遅くなって”ではない。“できなくて”ごめんなさいだ。


「ここは、別の神のスペースという事ですか?」

「そう」


 グレイスランドには光の主(唯一神)が居て、その配下に四聖獣がいると聞いている。またそれ以外にも高位の存在がいる。それらはここの神のスペースに入れないのだろう。


「ローゼ。あなたはディアン達よりも知っていることがたくさんあるのね」

「……そうね。でもそれはあなた達でたどり着かなくてはいけない――」


 ローゼは一息ついた。


「この世界にはたくさんの物語がある。私のは別の物語。そして次は、あなた達の物語」

「……」

「あなた、ディアンから紅妃の元に潜入すると言われたでしょ。そして、頷いた」


 黄妃からディアンは、紅妃の好みだと聞いた。彼が何を探るのかはわからない、けれど潜入してもいいかと聞かれた。リディアは――「いいよ」と答えた。


 それどころか、「お願い」と言った。ここを抜けるために、ディアン達が力を尽くしてくれているから。


「あなたはいい子になりすぎ。嫌なら嫌と言わないと男は離れていくわよ」

「でも」

「アイツのことになると途端にあなたは弱気になる。譲りすぎて“好きでいてもらっている”、って気分になっちゃうのはアイツのせいね」

「……」


 どうしてなのかはわからない。


「いい、あなたはよく耐えている。ディアンに痛みを肩代わりさせる方法はあるんだけど、そうするとアイツが使い物にならなくなるし」

「……でもそれは仕方がない」


 ローゼはリディアをキッとみた。


「さっさとアイツを殺してやりたい。腹をかっさばけば同じ痛みになるんだけど。これが終われば、何回も何回も何回も毎日、痛みを味わせてやるから覚悟しとけってメールしたのにアイツ返事してこないし。娶るってこういう事なのに、その責任を負えなかった。だからアンタとの結婚は白紙よ、白紙! 手が届かないほどの王女様にしてやったから次は全世界の王子様と争わせてやる、あ、ファズーンは却下ね。ちなみに、この毒は二つの解毒薬を同時に準備しなきゃいけないから難しいの、ちょっと待ってね。痛みを他人に肩代わりさせる魔法は使えるくせに自分に肩代わりさせるのは苦手なんて何なんのよ、アイツ。自分で引き受けなさいよ」


 ディアンへの悪態が混じるから話を理解しようとする前に仰天する。リディアを王女様にした理由がそこではないかと思ってしまう。


 そして美女は立ちあがり、腰に手を当ててひねった。そのポージングは先ほどまでの悲しい過去などなかったかのように力に溢れ、美しかった。


「――さて。地下に行きましょうか」


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