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「図書館都市のリディア」~砂漠の王にさらわれて、陰謀渦巻く後宮へ~  作者: 高瀬さくら
2.ヴァルハラ宮編

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66.呼ばれた、許された

「今回は、とりあえずいい、外にでる」


 外に出ると、眩しい日差しが刺さり、顔に手を翳した。


「お前は肌が白いからすぐに焼けてしまうだろう。そろそろ帰るか」

「いいえ、あの塔に行ってみたい。――行きたい」


 周辺の図書館群が高くて近すぎるし、街が無秩序だから塔が見えない。

 けれど、リディアは迷わず歩き出す。背後にファズーンを従えて先を行くと、彼が横に並ぶ。


「場所がわかるのか?」

「塔の方角を目指しているだけだけど」


 遠巻きに眺めてくる人からかばうように彼が肩をだいてくる。好意丸出しの相手じゃなくても、男性ならエスコートの意味でしてくるものだろう。何しろ人が多く危険だ。


 でも、ディアンに見られていると思うと微妙な気持ちになる。

 仕方がないと思ってくれている? それとも楽しんでいると思われている? 


 嫌いな相手ならば嫌悪感を抱くはず、なのに離してほしい、ぐらいの感情はどうなのだろう。


 なぜここまで自分は変わったの? 


「別に庇ってくれなくて平気」

「好きでやっている」

「私はそうじゃないの」


 いつもながらの堂々巡りの会話で、会話も終わりのない迷路だけど道も迷いそう。

 ただ、塔へ向かっている方向は間違いないのに、道が唐突に消えて戸惑う。


「そこの穴が、塔への道です」

「正式な通りなの? ただの近道とかじゃなくて」


 従者に示されたのは塀に空いた穴。まるで猫や子供が通る近道みたいだ。

 


 塔を目指しているけれど、ちゃんとした道ではなくて、時には水路上に杭と張った板で作った店のテラス席の合間が道だったりする。


「なんでこんな道なの?」

「塀が壊れ、時には増築したようです」


 綺麗に道を修復しなかったのかと聞くとヴァルハラとハラール、その時によって領土の主が違う事、繋ぐ道の占領国が異なるため修復計画が上手くいかず、突貫工事なったとか。


 それもまた雑多な街の文化の混じりあった魅力ともいえるがどうだろうか。


「――魔法師は、方角がわかるというのは本当だな」

「そうなの?」


 改めて立ち止まると、この迷路のような街でも東はどこかすぐにわかる。

 今はそのカフェの向こう側。


「星読みであるジャイフもそうだが、魔法師もそうだと聞いたことがある」

「そうなんだ」


 別に違和感なく方角がわかって歩いていたから、改めて魔法師の能力と言われても、そうなのか、としか思わない。

 魔法を使うのに方角が重要なんだろうか。


「ね、それならば私が魔法師であの人達の仲間だってことを認めるのね」

 

 魔法が使えない。仲間だと自分で言い切れない、自信がない。でもファズーンにはそう言ってみる。


「それはわかっている。が、今は俺の妻でメルクリッサの乙女だ」


 その称号を勝手につけるのはやめてほしい。そもそも、信仰心なんてなくて武力頼みの性格みたいなのに、なぜだろう。


「――あなたは、自分の武力しか信じない気がする。そんなに信心深いの? ただ私を口実にしていない?」


 立ちどまり声を低くして警戒を顕わにして見上げる。

 繰り替えされる称号。もはや乙女じゃなくて、後宮に入れた女。称号なんてあってもなくても構わないだろう。


「――神はお前を遣わした。神に感謝しているというよりも、俺の強運だと思っている」


 そっちならば、まだわかる気がする。


「ならば、私に王を選ばせるのはやめて」

「すでに俺は王だ、あやつらが騒いでいるだけ」

「――ならば、選ばなくてもいいのね」


 角を曲がれば、唐突に巨大な塔がみえてくる。その全貌はまだわからない。


(これが、ディアノブルの塔……)


 図書館都市のシンボルともいえるもの。中に入ることができないけれど、ようやく近くまで来ることができた。


「お前は、俺を選ぶだろう」


 先ほどの王の選択話にハッと意識を戻す。そう言えば、そんな話をしていた。


「やめて」

「……悪かった」


 肩に手を置かれて謝罪に目をあげれば、色違いの目が見下ろしている。

 ただ妙に冷静、気遣いとかリディアに悪いとか罪悪感はない。


「お前はあれで、怪我をしたんだ」

「違う、あのことがあったからじゃないの」


 最初は冷静に、けれど後半は強く声を発する。

 ジャイフの魔神に襲われたのをトラウマにしているわけじゃない。


「――誰かを選ぶとか。そんな他人の人生の責任を負えない、私の人生だけでも持て余しているのに」


 そう、人は他人の人生を負えない。王様や立候補した国の代表ぐらいだ。


 リディアは記憶がなく自分の今のことさえ、どうしていいのかわからないのに。


「王を選ぶ乙女は、正妻になれる名誉だ」


 いっそう顔をこわばらせてリディアは拒絶を示して、塔へと向かう。

 そう、“乙女”が嫌だと思った理由が明確になる。


「なりたいなら自分達で王座争いをして。ましてや国民の(いのち)まで背負わなきゃいけなくなる、私はそんな重すぎることはできない」 


 必ずしも最もふさわしいものが王になれるわけではない。けれど、一国を背負う者達が、なぜただの民間人の自分に選択を任せるのか。


「それに、出来レースなら、余計に私に背負わせないで」

「出来レース?」


 魔神がリディアに脅してきたことを、ファズーンは知らないの? いぶかし気な声を出した彼に、リディアはそれ以上追及しない。


 そして塔へと足を急がせる。この街は根を張り巡らせているようだと思っていた。


 その中心にある塔、何となくこの塔の根元は樹木根と思っていたが、塔を支える地面は思っていたのと違っていた。


(まるで、水晶?)


 塔を支える基盤は水晶が四方から生えていて、その鋭い牙に守られているかのようだった。


「これって、水晶?」

「いや、何の物質か不明だ」


 魅入られたかのようにリディアは近づく。

 その水晶に囲まれている塔は、上になるにつれて石造りになっていく。


 よく見ると、一つ一つの重ねた石は滑らかなのに凹凸があって、崩れないのが不思議だ。


 ところどころ、バルコニーのような、もしくは外階段のようなものもあって、城壁にも見える。ただ階段の手前には内側と繋ぐ窓らしきものもない。どこから出るのか、それともただの飾りなのか。

 外周を測ろうとすると終わりがない、空からもメーターが誤作動を起こし測れない、謎の建物。外観も円筒形のようでいて、横にまわると立方体にも見える。かと思えば後ろの方は三角錐とも。大きさも、高さも、形状も不明な産物。


「たしか、最初に塔があって、そこから図書館都市になって、そのあとにヴァルハラ国が建国されたのよね」


 ファズーンや侍女たちに聞いた話だ。

『すべてが、塔を中心にできた』という。もしくは、『はじめに塔がありき』と。


 塔を調査するために入ることはできない。――智を求める者だけが入ることが許されるという塔。


(入ってみたい)


 興味だけじゃない、あそこには何かがある。


 ――行かなきゃいけない。


 許可はされていない、けれどリディアはその入口を目指して歩む。ファズーンは何も言わずについて来た。ファズーンの姿をみても、門衛は動かない。儀仗の矛先は立てたままで彼らは目も向けてこない。施錠はされていないという。


 招かれない限りは、扉を引くことができないからだ。


 扉は精緻な絵が刻まれていた、なんの絵だろう。観光客のように何もわからず、ただ見事な細工だなとしばし眺めてみる。そう思い、眉をひそめた。


 それから一歩引いて足もと、それから外壁を見る。


「ここって、誰が修繕しているの?」

「なんだ?」


 傍のファズーンを背に、呟くように質問した、いや答えはわかっていた。


「塔は俺の国もハラールにもない、独立している。だから――」

「誰も、修繕していないのね、建立されてから」

「……おかしいと思ったか。我々にとっては産声を上げた時から周知の事実だからな。誰にも立ち入らせないかわりに世話もさせない。気位の高い姫だ」


「何年前にできたの」

「建国より前、少なくとも千年前。大戦で資料はないが」


 人類は千年前に大戦を起こし、資料も大半が紛失、文明も退行した。それは記憶にある。地図は覚えていない、歴史の常識はまばらにわかる、いや思い出してきている? 

 なんなのだろう、この記憶喪失は。


「塔について他には?」

「征服したいとは思ってるがな。――ハラールも同じだろう」


 ハラールの動きを警戒しているファズーン。それは塔を含めて図書館都市全体の攻略だろうか。領土としては少ないが、神秘の都だ、その価値は高い。


 ――他に情報を持っていそうなのに、うまく訊けない。シヴァもファズーンからも、それを聞きだせない。


 塔の入口までの灰色と黒のマーブル模様の階段。磨かれたように美しいガラスのような側面。そして硬化した木材のような材質の扉に彫られた絵。


 掃除をされ綺麗に磨かれていても、修繕されないまま保っているなんてありえない。


「……それって、魔法?」


 扉の模様をなぞる。円、花、蔦、鳥、のようなもの。他にもさまざま。全て抽象化されて似ているだけ。


「我が国には魔法はない」

「あなたがここに入ったことはあるの?」


 塔を守るのは、図書館都市の自衛兵だった。ハラール国と、ファズーンには敬意を示しているけれど。


「……ない。呼ばれぬ者は入れない」


 少し間があった気がしたけれど、それは矜持が傷つけられたからか。王という地位でもあるのに、何かを極めていないとその知識を与えるに値しないと判断されないと聞いた。


 許されない。認められない。


「王様でもそうなのね」


 ディアン達から聞いた簡単な塔の情報だ。呼ばれぬものは入れないディアノブルの塔。図書館都市の神髄。その中の不可思議さよりも、リディアは中に惹かれていた。


 最初はその中にある書物に興味があるからだと自分で思っていた。今は違う気がする。


 何か――入らなきゃいけない気がした。


 材質が不明という扉の柄に触れた。扉はその材質からも重たくて引くことができないはず。動かないとわかっていながら、引いてみたらすっと動いた。


「え?」


 リディアが引くと簡単に扉は開いた、同時に友人に腕を引かれたように、内部に足を踏み入れていた。油断してというより、自分でも力を抜き、引かれることを許していた、そんな感じだ。


「碧妃!」「リディア!!」


 ファズーンの声と、もう少し遠いのはディアンのもの。


 焦っている声が外から聞こえてきたけれど、あっさりと足を踏み入れてしまい扉が閉まり、闇の中の静寂の中に佇む。


「うそ!? え?」


 叫ぶ自分の声が思った以上に大きくて慌てて口を閉ざす。何がいるかわからないから刺激してはいけない。


「え? え?」


(わたし。はいれた、の?)


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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
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