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「図書館都市のリディア」~砂漠の王にさらわれて、陰謀渦巻く後宮へ~  作者: 高瀬さくら
2.ヴァルハラ宮編

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21.魔法師団

「魔法師は魔法を扱う人間のこと。魔法師には階級があって、上位の上級魔法師(マスター)、さらに上には特級魔法師、(グランマスター)、お姫様はそれだったってこと。詳しくは知らないけどな」


 なにそれ、というのが感想だった。けれど一番驚いた事がある。


「グランマスターだったのに、魔法自体も全く忘れたってことか」

「魔法って……“そんなもの”を私が使えたの?」


 ――魔法。

 不可思議で、特別な力。物語の中でしかわからない。けれどどんなものかは想像ができる。空を飛んだり、火を出したり、あとはなんだろう。

 ただし、そんな不思議な術を使えた自分が想像できない。出し方もわからない。


 呪文を唱え、手でも振ればいいのだろうか。そもそも、魔法を使える人が存在するなんて初めて知った。


「魔法なんてあるの?」


 彼は重症だなと立ち上がり、リディアの質問には答えず手をひらひらさせ背を向ける。


 そうして窓から出ていこうとする、たぶん引き留めるのをねらっている。


 ――リディアは背後に一瞬で詰めて、その腰からダガーを引き抜き、彼の頸部に切っ先を当てる。


「魔法は使えなくても、これぐらいはできるみたい」

「……降参」

 

 彼は、軽く手をあげる。触れた時に確かめた。自分の読みは間違えていない、自分が彼を捉えようとしたとき、既に彼は振り向いていたし、反応しかけた。


 荒事には慣れているし、たぶんリディアと勝負はできただろう。


 ただ、反撃しなかっただけ。


「俺はシヴァ」


 唐突な名乗りを無視する。


「何の用で来たの?」


 リディアは彼の頸部から剣を離して向かい合う。ただし警戒は解いていない。前に構えたままだ。


「お姫さんの仲間からの依頼。アンタを連れだしてこいって」


 リディアは構えたダガーを握り締める。

 あの時、全く覚えがなくて初めて会った人達だと思った、何度も記憶から探っても出てこない。


これ(ネックレス)は、ファズーンが持っているはず。なぜこれをあなたが持ってるの?」 

「その依頼主が渡してきた、それがお姫さんのものとな」


 よくわからない、リディアは首を左右に振った。シヴァに伝えたのではなく、思考を振り払うようにそうした。

 ファズーンが持っていて、取り返したいと思っていたのに別の人から渡されてしまった。


「……よく似たもの? それとも複製?」

「正真正銘、奴がファズーンから取り返したお姫様のもの。伝言は『俺を信じろ』。さあてお姫様はどうする?」

「あの人よね」

 

 奴は誰かすぐ分かった。あの黒髪の人だ。


 記憶がないのに、あの時見た彼の表情は既に目に焼き付いている。感情は顔に出さない人、けれどわずかな変化が自分にはわかる。驚愕と、怒り、それから哀しみ、苦しみ。


 あんな顔をさせたくない。見たくない、でも何度でも会いたい。思い出したい、思い出した時の自分への顔を見たい、安堵させたい。


「――会う。何度でも会う、思い出すまで」

「そりゃちょっと、無理な話だって。俺が依頼を受けたのは一回のみ」

「ちょっと、てことは、話次第では聞いてくれる、ということね」


 彼はリディアに応えなかった。


 かわりにリディアの手首を強く握って捻る。痛みに掌を開いてダガーが落ちかけると彼は足首でそれを蹴り上げて、自分の手で受け止める。


 まるで曲芸だ。彼もファズーンと同じくらい強い。やはりリディアに捕まっていたのはわざとだ。それに悔しさも沸き上がるが、感謝もする。


 あそこでリディアにまけずやり返して闘っていたら、二人のやり取りは長引いていただろう。と、思いかけておかしいと思う。


 そもそも彼が勿体つけないで本題から入ればよかったし、自分を試さなければよかったのに。


「美人には勝たない主義でね」

「そんな話はどうでもいい」


 一息入れる。そして彼を見返す。


「一回だけでもいい」


 彼は窓辺に足をかけて、背を向ける。既に奥のほうで侍女たちが起きる気配がしている。

 駆け引きはリディアの負け。どうするか選択をできるのは自分なのに、焦っている。行かないで、と思ってしまう。


「それで、どうすればいいの?」

「抜け出せば、お姫さんは折檻を受ける。――それでいいなら」


 口調を一変させ、真顔に変えたシヴァにリディアは迷わなかった。


「いいわ。連れ出して」


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