22.シリル
ドアが開いた瞬間と同時に構えた。動きは見えない、気配だけ。
殴られてやろうとは思っていた、だが来たのは頬ではなく顎だった。
下から上への右ストレートの強烈な顎へのパンチの衝撃に脳が揺さぶられる、即座に身体が勝手に動き右手で次の攻撃を抑え動く。
が、額には銃口が突き付けられていた。
「シリル……」
呻いて、ディアンは降参を示すため諸手をあげる。
パンチをしたと同時にディアンの右手をかいくぐり、左手で三十八口径の銃口を突き付けるシリル。
その右手には既にもう一つの銃が握られていた。ただし、そちらは斜め後方に、照準は後ろに立つディックだ。
絶対に死に追いやる眉間に当てられた銃口、それからはひやりとした冷たさと鉄と火薬の匂いがした。
そして後方に控えたディックの方は見てもいないが、そちらも外すことはないだろう。狙いは、アイツの股間。男にとってさんざんな場所だ。
今回残存員として基地にいたシリル・カーは凄腕のスナイパーだ。遠隔はもとより至近距離でもその射撃の腕はディアンでも敵わない。
二週前に砂漠へと旅立った自分達だが、リディアとキーファの二人とはぐれた。
とりあえずディアンは他の仲間たちと教授を連れて都市へ向かったが、ディックは二人の救援のために砂漠の奥へ向かった。
そしてディックが見つけた頃に、ディアンも神殿へと折り返し追いついたが、見つけたのはキーファのみ。
彼は、重傷を負いながらもリディアを探し、生き延びていた。
ディアンの増員要請は都市に着いた頃、通常ルートで十日かかる。彼女だけ他の団員より先行したのだろう、その脚力には舌を巻く。
そして、その再会の挨拶がこれだ。
「おい、団長サマとやら。リディがああなった顛末、どう責任取ってくれんだ?」
「……」
幹部であるシリルには情報を伝えてあった。言い訳をするつもりはなかったが、開きかけた口を黙らせるようにぐいっと銃口を強く当ててくる。
「ああ、まさか死んで責任を取るなんていうなよ。そんなんじゃ足りねえ。アンタがいくつ命を持ってるか知らねえが、百ぐらい殺しても、リディが受けた苦しみには足りないね」
「……おい、シリル」
「そっちの玉なしは黙ってろ。あとで本当の玉なしにしてやる」
ディックも両手をあげて降参を示して、一歩も動けずにいる。
「私が弾倉を“作れんのは”知ってるだろ。で、いくつ頭を吹っ飛ばされたいか?」
ぐっとグリップを握る前腕の筋肉が盛り上がる。ディアンはわずかに顔をしかめた。シリルは銃の使い手だが、銃には弾丸がいるというその弱点も克服してる。
それは、自身で作れるということ。
しかもマンガンの装填にかかる時間は,003秒。
そのスピードは人間技じゃない。
しかも彼女が魔法で作る弾丸は、装甲が厚い対魔獣専用のため戦車さえも貫ける。それが今自分の眉間に当てられている。
――勝負できないわけじゃないが、かなり消耗する。それに、ここで争う気はない。全面降伏をいい渡す。
「わかった。確かに俺の失態だ」
「んなの、言われなくてもわかってんだよ」
ようやく銃を収めたシリルが、乱雑に椅子を引いて片膝を抱えながら座る。
「リディアの解毒剤は?」
「まだまだだよ、クソヤロウ」
普段はボスと呼んでくるシリルだが、そう呼ぶ気はなくしたらしい。ショートパンツにタンクトップ。垣間見える肉体すべてが筋肉に覆われていて、ディアンよりも発達しているぐらいだが、女だ。
自称、リディアの親友。
リディアに好意があり、過去に告白したと耳にはしていたが、リディアが断りそれ以降は友人。の、はずだが、たまにそれ以上のボディタッチをしていて、いつかリディアがヤラレルんじゃないかと気になる時もある。
当のリディアは暢気にふんふんと仲良くしているし、とりあえず要チエックに留めている。
それは、シリルがリディアを自分と同じくらい大事にしているからだ。傷つけることは絶対にしない。
「アンタからの“黄金の秘密、黄金の鍵”の知らせが本部に来たのが昨日だぜ。作れっかよ」
「……第三師団への問い合わせは?」
できれば内輪で解決したかったが、第一師団は攻撃専門。第三師団は防御に強く、そちらの方が詳しいのではないかと情報を求めた。
シリルは鼻にしわを寄せ、歯をむき出しにしてディアンを威嚇した。
「解毒剤もねえし、毒消しの治癒魔法師でもむりだってよ。すぐに協力して作るって言ってくれたがな」
そして続ける。
「名は伏せたが、すぐにリディのことだってバレたよ。アンタとリディを離婚させて切り裂いてやるって熊夫婦からの伝言だ」
第三師団団長のワレリー・ヴァンゲル、通称熊親父と副団長のローゼは自称リディアの親代わりだ。リディに関しては、あっちも我を忘れる。
今回に関しては、ディアンは反論も言い訳も何もできなかった。




