ストーカー
「マリヤを助けてくれたことは感謝しているわ。でも、私はあなたを信用したわけじゃないから。そこのところよろしくね、セリオンさん?」
「……ああ」
セリオンと綾女は綾女の職場「桃木幼稚園」に向かう途中だった。
綾女の職業は「保母さん」だ。
セリオンは綾女から男性全般に対するアレルギーのようなものを感じ取った。
このことをセリオンは冴子から聞いていた。
桃木幼稚園は坂木家の家から15分くらい歩いたところにある。
ゆえに二人は歩きで幼稚園に向かっていた。
職場につくと園児たちは綾女の周りに集まってきた。
「綾女先生、おはよー!」
「綾女先生、おはよーございます!」
園児たちがこぞって綾女にあいさつする。
「ねえねえ、先生? この人は誰?」
「あー、先生の彼氏だー!」
綾女は腰に手を当てて。
「変なこと言わないの! この人は見学希望者よ! 先生の彼氏ではありません!」
「えー-? 金髪だあ!」
「見て見て、この人目が青いよ!」
「もう! さあ、早く建物の中に入りなさい! 今日から簡単な絵本を読みますからね!」
綾女は園児たちを引率した。
「セリオンさん、あなたのことは園長先生に伝えておくから。とりあえず、まず園長先生に見学の許可を取ってね?」
「ああ、わかっている。案内してくれてありがとう。……それとなんだが?」
「何?」
「視線を向けられている」
それを聞いて、綾女はものすごく嫌な顔をした。
よくも悪くも、綾女は思っていることが顔に出るタイプだった。
「また、あの人ね……」
「知っているのか?」
「このところずっとよ……」
男は陰から綾女を見ていた。
男は自分の存在が気づかれているとは思っていなかった。
男の名は「スサノ」。
大柄の男で筋肉はありそうに見えたが、見かけ倒しだった。
げたをはいており、スキンヘッドで、あごひげがあり、道着を着ていた。
「何をしているんだ?」
「わしは綾女ちゃんを見ているんじゃ。ああ、いいのう……あんな子にわしの『母』になってもらいたいのう」
「そのために待ち伏せているのか?」
「そうじゃ。わしはあの子を自分の物にするまでここを離れんぞ」
「そういうのを『ストーカー』というんじゃないのか?」
「わしはそんなもんじゃないわ」
「ここは日本国だ。日本国の法律が適用される。おまえのやっていることは犯罪だぞ?」
「わしは国や国の法律よりも偉いのじゃ。そんな法律など知ったことでは……!? なんじゃ、おまえは!?」
「ようやく気が付いたか」
背後からスサノに話かけたのはセリオンだった。
「俺はセリオン・シベルスク。坂木家で世話になっている。あんたはいったい何なんだ?」
「わしはスサノ! 綾女ちゃんをわしのものにするつもりじゃ!」
「綾女はおまえの顔を見るのも嫌そうだったぞ?」
「それはわざとじゃ。本当はわしに好意を持っているに違いない」
「そこまで都合よく解釈できるのか。まあ、いい。いいか、綾女に付きまとうのはやめろ。彼女は嫌がっている」
「それをなんでおまえごときに決められねばならんのだ?」
「俺は彼女を守る。綾女の視界に映らないところまでうせろ」
「ふざけるな! この若造が!」
スサノはキレて右手で殴りつけてきた。
スサノのパンチだ。
「遅いし、軽いな」
「なっ!?」
セリオンはスサノのパンチを片手で軽く受け止めた。
「本当のパンチとはこういうものをいう」
セリオンはスサノにパンチを繰り出した。
それはスサノの腹を深くえぐった。
「ぐぎゃああああああああ!!??」
スサノがさけび声を上げる。
スサノは道路の上をゴロゴロと動き回った。
「む? 少しやりすぎたか?」
セリオンは手加減したつもりだった。
これはスサノの筋肉が予想以上に貧弱だったからだ。
「きっ、きさま! よくもこのわしを! くっそー! おぼえておれ!」
スサノはげたの音を響かせて逃げ去った。
「……いったいあいつは何なんだ?」
セリオンには疑問が浮かんだ。