アドリアーノ
夜の学校にて。
保健室は明かりがついていた。
そこには藤川 唯子と石田 玄三がいた。
「どうやらメガスコルピオンも倒されたらしい。まさかあのメガスコルピオンが倒されるとはな」
玄三が苦しい顔をした。
「それで、次はどうするつもり?」
「あー、あー、辛気臭いねー!」
そこに一人の男が現れた。
髪はつんつんとしており、スーツを着崩している。
「アドリアーノ(Adriano)……」
玄三が男の名を言った。
「要は次は誰が青き狼のところに行くのかって話だろう? いいぜ、俺が行ってやるよ」
「アドリアーノ、あなたは……」
「へへっ、ここ最近退屈していたんだ。英雄様が相手とは腕がなるねえ」
「どうするの、玄三?」
唯子が玄三の方を向いた。
「……いいだろう。次はおまえを送り込む。いいか、やる以上はセリオン・シベルスクの首を取ってこい。失敗は許されんぞ?」
「わーってるって! 俺に任せときな。クックック、それにしてもあの伝説の英雄と戦えるなんて、こんな機会はめったにあるもんじゃねーからな」
アドリアーノは玄三と唯子に背を向けて保健室から出て行った。
次の日、マリヤは「アベ・マリア」に出勤した。
今日はレジの仕事と陳列の仕事がある。
まずは商品を段ボールから出して陳列する仕事だった。
マリヤは棚にカップラーメンを入れていく。
「ちょっと、いーですかい?」
「はい、何でしょうか?」
そこに一人の男が現れた。
髪はつんつんしており、スーツを着崩している男だ。
「すいませんねー。アイスを買いたいんですが場所がわからないんですわ」
「はい、ではご案内します」
マリヤは男をアイスクリームコーナーまで案内した。
「ありがとーござーす! あと、少々聞きたいことが」
「はい、何でしょうか?」
マリヤは男の顔を見た。
その瞬間だった。
男の目が妖しく光った。
それはアドリアーノによるマインドジャックだった。
「よしよし、これでこいつは俺のマリオネットだな。クックック、さあ、青き狼さんよ、どう出る? ククククク……クハハハハハ!」
その日の夜、境木家の姉妹たちはマリヤの帰りを待っていた。
「マリヤ、遅いね……?」
冴子が沈んだ声で言った。
「マリヤがこんなに遅いことなんて、まずなかったのに……」
とセラ。
「このままじゃ、料理が冷めちゃうわよ?」
と綾女。
「残業でもしてるんじゃないかしら?」
と良子。
「それでももう八時よ。遅すぎるわ。電話をかけてみましょう」
セラがスマホを取り出して、マリヤに電話をかけた。
「はいよ、坂木家の皆さん。初めまして。俺はアドリアーノと申します。失礼ですがセリオンさんはいますかね?」
「あなたは誰ですか!? マリヤとはいったいどんな関係なの!?」
セラがアドリアーノに怒気を込めた。
「あんたらがそれを知る必要はないですな。マリヤさんはこちらで預かっておりますよ。ところで青き狼さんは今、どこに?」
セラはセリオンの顔を見た。
それから考えこんでから、自分のケータイをセリオンに渡した。
セリオンはそれを取ると。
「もしもし、俺がセリオンだ」
「よう、ようやく会えたな。セリオン・シベルスクさんよ」
「俺に何の用だ?」
「へっへっへ! 女はこちらで預かっている。返してほしければ山頂にある狐の社まで来な。俺を倒せたら女は返してやるよ」
「わかった。すぐに向かう」
セリオンがそう言うと着信が切れた。
狐の社――ここは昔風に言うなら神社と言える。
カミガミへの信仰は失われても、カミガミは動物となって生き続けた。
つまり「霊獣」となって。
狐は稲穂を司る霊獣でコメと結びついている。
狐の社へは長い登り階段を登っていくと着く。
セリオンのブーツが音を響かせていた。
セリオンの目にはマリヤを助けるという強い意思が宿っていた。
セリオンは頂上まで着くと、そこには横になっているマリヤを見つけた。
「マリヤ!」
「おっと、そこを動くなよ?」
「!? おまえがアドリアーノか?」
アドリアーノは社の屋根に座っていた。
「なぜ、マリヤをさらった? おまえたちはいったい何がしたいんだ?」
セリオンがアドリアーノを見上げた。
「へへっ! 俺たちは大いなる目的のもとに行動しているんだ。坂木家の姉妹たちは霊媒として魅力的でね」
セリオンは目を細めた。
「おまえたちの目的は何だ?」
「ククク、それはなあ、『邪竜王ザッハーク』の復活だよ」
「ザッハーク?」
「まあ、あんたが知らなくても無理はないな」
アドリアーノが屋根から跳び下りた。
「あんたの存在はザッハーク様の復活に邪魔になるんでな。ここで死んでもらうぜ?」
アドリアーノが愛用の電磁ロッドを出した。
セリオンも大剣を出した。
アドリアーノは一瞬でセリオンの背後に移動した。
あのセリオンがあまりにたやすく背後を取られた。
しかし、セリオンは的確に対処した。
アドリアーノが電磁ロッドを振り回す。
セリオンはそれをすべてガードした。
「へっ、やるじゃねえか! 俺の攻撃についてこれるとはな!」
アドリアーノは回転し、足払いをかけてきた。
セリオンは軽くジャンプしてそれをかわす。
アドリアーノはロッドに雷電をまとわせた。
そしてセリオンを狙って雷電の攻撃を放った。
「雷電衝」である。
セリオンは大剣から白銀の光を出した。
この白銀の光は神剣が持つ、「魔力を斬る」能力だ。
この力はすべての魔法攻撃を無力化することができる。
ただ一太刀だった。
セリオンがアドリアーノの雷電衝を斬り裂いた。
「そんな攻撃は俺には通じない」
セリオンが冷厳に言い放つ。
「チッ! 俺の攻撃が斬られるとはな……だが、俺の攻撃はこんなもんじゃねえ! これでもくらいな!」
セリオンはアドリアーノに向けて大剣を構えた。
セリオンはその時何か攻撃が来る気配を感じた。
セリオンはとっさに回避行動を取った。
セリオンの背中を電磁ロッドがかすった。
「うっ!?」
さすがのセリオンも電磁ロッドの威力には膝をついた。
「あれをかわせる奴がいるとはな……驚きだぜ……」
「今の攻撃……いったい何をした? いきなり背後から攻撃された……つまり、空間制御か?」
「へえ……あの一撃でそれを見破るとはね……恐ろしい相手だぜ、あんたはよ。だが、次はかわせるかな!」
アドリアーノが再び空間を越えて攻撃してくる。
セリオンは一瞬にしてアドリアーノとの間合いをつめた。
そして大剣でアドリアーノを貫いた。
「があっ!? ウソだろ……? この俺が負けた? ……」
アドリアーノは倒れると赤い粒子と化して消滅した。
「マリヤ! 大丈夫か?」
セリオンはマリヤをゆすった。
アドリアーノを倒した今、マリヤへの術は解けているはずだ。
「ん? ……セリオン? 私は?」
「君は悪魔に狙われたんだ。だが、安心していい。その悪魔はもう倒した。さあ、みんなも心配している。いっしょに帰ろう」
「ええ、そうね。ありがとう、セリオン」
この時、マリヤのほおが少し赤みを帯びていることにセリオンは気づかなかった。
ある学校の保健室にて。
「……どうやら、アドリアーノまでやられたらしい。忌々しい! おのれ! セリオン・シベルスクめ!」
玄三は怒りをあらわにした。
「まあまあ、落ち着きなさい」
唯子が玄三をたしなめる。
「これが落ち着いていられるか! 今回の事態はザッハーク様復活に重大な支障をきたす!」
「でもね、アドリアーノがやられたことを私たちは出発点にすべきよ。セリオン・シベルスクは強い。それも恐ろしく強い。それを私たちは認めなければならないわ」
「くっ! これでは送り込んだ者たちが返り討ちに合うだけではないか……おのれ……」
玄三が歯をきしませた。




