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陛下はミシェルの叔父様


あっけらかんと言い放った莉央に、周囲の誰もがあんぐりと口を開けた。

でも、莉央はこの中の誰もが、他人としか思えないのだ。


国のため、家門のためになんか、生きられるわけがない。

莉央はずっと、自分のため、自分の大切なもののためだけに生きていたから。


「これまでの恩恵に応じた義務は果たしたと思いますし」


「しかし……むしろ、それは罰では」


「そこは価値観の違いということで。もし、冤罪で塔の牢に入れたことや、今後のことを懸念されているなら、それなりのお金をいただければ結構です」


「…………」


「お父様、お母様、すみません。でも、わたしは何も知りませんし、教育し直すのは手間だしお金もかかります。令嬢としても令息としても、わたしは家に貢献できません」


父母と兄姉は、しばらく無言でじっと莉央を見つめていたが、ややあって苦笑いを浮かべた。


「放逐なんて言い方をするから、何かと思ったら……好きなように生きなさい。ただし、住む場所や諸々は私たちに頼ること」


「えっ」


「おまえ一人くらい養えるが、働きたいなら好きにしなさい。でも、縁を切るのは頷けないな。放蕩息子でもいいから、私たちの子でいなさい」


「そうよ、それがいいわ。手助けするのは私たちの自由なんだから。あなたも私たちも、好きにしましょう」


「そうだな。王家も、それはもう相応の補填はするだろう」


呆気にとられる莉央をよそに、公爵夫妻からの視線を受けた陛下が仕方なさそうに笑う。


「もちろん、王妃と王子の私財から補填させてもらう」


「恐れながら、わたくしども教会からも、幾許か手助けを。よろしければまた講義にまいります」


「よろしくお願いします……?」


きょとんとしつつ、莉央は流されるように頷いてしまった。

いや、この世界についての理解が浅いので、助けてもらえるなら有難いもので。


────ねえ、ミシェル。意外と、捨てたもんじゃないみたいだよ。


莉央とミシェルが入れ替わったから、という理由もあるかもしれないが、たぶんそうでなくても救いの手はあった。

絶望の中では、差し伸べられる手に気づけなくても仕方ない。でも、いつかこのことが彼に伝わればいいと思う。


「何なのよ……」


不意に、恨みがましい声が聞こえて視線を向ける。

聖女候補という少女が、ふわふわの見目に似つかわしくないギラギラした目で莉央を睨んでいた。


「ここは私のための世界よ! 悪役令嬢は悪役令嬢らしく、惨めったらしく断罪されなさいよ!」


「ソフィア……?」


王子や令息令嬢たちが、一歩ずつ距離を取るのも気にかけず、少女の怒りは収まらない。


「悪役令嬢が男!? そんな設定ないし! なら、証明してみなさいよ! あんたはヒロイン(わたし)のために死ぬキャラなのよ! 勝手なことしないで!」


なるほど、少女は転生者らしい。莉央はふむふむと頷く。

可憐な聖女の仮面がすっかり剥がれきっているが、その辺りは大丈夫なのだろうか。


「落ち着きなよ、お嬢さん。せっかく可愛いのにもったいない」


「何よ、何なのよ! 私は王子と結婚するの、この人が推しなの! 邪魔しないで!」


「いや、結婚すればいいんじゃない?」


首を傾げると、少女は目を見開いて動きを止めた。

あれ。だめなの? というか、それしかないと思っていたんだけど。


「だってこの子、もう他の人と結婚できないでしょ。手を出したんだから、ちゃんと責任は取りなよね」


王子、ぽかんとしている場合じゃないでしょう。

こんな貞淑遵守な異世界で、うら若き乙女と濃密なラブシーンを見せつけまくっておいて、責任も取らないなんてありえない。


「し、しかし……」


「別に二人を邪魔する気ないし。そっちが言いがかりつけてきただけで、最初から何とも思ってない。結婚したらいいじゃない」


「…………」


「スペアはいることだしね」


浅はかすぎる王子をそのまま王座に据えて、貴族たちの傀儡にする方法もあるし、すげ替えるためのスペアはいる。

案外、この人でないといけない、なんてことはほとんどないものなのだ。世の中って割とうまくできてる。


そうだと思いついて、壁際に控えていた副隊長の元へと歩み寄る。


「副隊長さん、ナイフか何かある?」


「……何をする気だ」


「証明しろって言うから」


「やめなさい」


小声ながら、はっきり諌められた。何をするとは言っていないのに。

そのまま背中を押してやんわり促され、元の場所まで戻されてしまった。頭固いなあ。


「ここで脱ぐのはだめらしいので、証明は後で別室をお借りしますね」


「は!? いや、ミシェルが男であることは、私が知っている。証明は不要だ」


王様に、は? とか言わせてしまった。そんなに突拍子ないことを言ったつもりはないのに。

頭を抱えた陛下は、咳払いしてから場を仕切り直す。


「王子と聖女候補の処遇に関しては、議会と教会を交えて協議の上、決定する。ミシェルは一度公爵家に戻り、家族とよく話し合いなさい」


「承知しました」


「くれぐれも、一人で結論を出さないように。くれぐれも」


二回言われた。解せない。




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