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ミシェルの秘密は火力高め


「あなたと聖女候補が恋仲だからって、なんでわたしが嫉妬しないといけないの」


「は? 何を言ってるんだ? おまえは婚約者候補の中で一番身分が高い、最有力候補だろ?」


呆けた王子に、鼻で嗤う。


「あなたこそ何を言っているの。わたしは、あなたの婚約者候補たちの相談役。体裁として婚約者候補を名乗っていただけなんだけど」


「は……?」




「  だってわたし、男だもの  」




しん、と場が鎮まる。

物音一つ、声ひと欠片、呼吸すらも止まったような空間で、公爵家の面々だけが落ち着き払っていた。


ミシェルの性別を知っているのは、公爵家の家族と一部の使用人、そして陛下だけ。

生まれる前、まだ腹の中にいたミシェルは、実際の性別に関わらず令嬢として育てられることが決まっていた。


ガタッと立ち上がったのは、王妃。わなわなと震える手から、扇子が落ちる。


「王家を謀っていたのねっ! 陛下、やはりあれは処するべきですわ!」


「ええ、そうよね。あなたは、きっとそう言うと思っていたわ」


応じたのは、王妹である母。ぎりっと強い目つきで睨みつけられた王妃は、びくりと肩を震わせた。


「昔から、あなたはわたくしを目の敵にしていたわ。癖の悪い令息をけしかけたり、夫を誘惑したり、夫との子を不義の子と呼んだり、ご苦労なことだわ」


「……な、にを、言うの」


「幸い、陛下も夫もわたくしの味方だったけれど、それも気に食わなかったのよね。ミシェルが男の子と知られるわけにはいかなかったのよ。わたくしの子までも排除しようとするあなたにはね」


「な……」


「わたくしの子には、継承権がある。公爵家の後継である長男と、嫁に出る長女とは違って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものね」


元侯爵令嬢だった王妃と元王女である母との確執は、幼少期まで遡るらしい。

常にライバル視され、蹴落とそうと画策しては退けられ、年々執着が増していたという。


とはいえ、政敵への陰湿な嫌がらせなどは、社交界ではあるある。うまく躱せない王女の方が分が悪い。

陛下と、強い後ろ盾のある王妃との婚姻は決定事項。嫁入りして格下となる母は、より狡猾にならざるを得なかった。


しかし、婚姻してすぐ子をもうけた母に、なかなか子に恵まれなかった王妃は嫉妬を増し、公の場でも幼い兄姉が冷遇されたりしたという。


だから、男児のミシェルを令嬢として育て、同時期に産まれた王子のスペアではないと示すことで守ろうとした。

ただ、公爵令嬢が婚約者候補でないのは不自然なため、体裁として候補にはしたが、そもそも同性なので選ばれるわけはない。


ミシェルはすべてを理解した上で、与えられた役割を果たすため婚約者候補たちの相談役として振舞ってきた。

王子と然るべき令嬢との婚約が成立し立太子したら、ミシェルは元の性別に戻るはずだった。


ちなみに、陛下と教会にはきちんと手続きを経て届出ているため、問題はないらしい。

割と何でもありだな。と、莉央は思ってしまったけど。

もしかしたら、本当にここはゲームとか物語の世界なのかもしれない。


「おわかり? 殿下。男のわたしは、あなたの婚約者になんかなれないし、最初からそのつもりもない。嫉妬なんかするわけないでしょ」


「……騙していたのか」


「それ、陛下に言ってます?」


「…………」


「聖女候補との見るに堪えない不純行為に物申したのは、一人の貴族として当然の義務。婚約者候補を差し置いて聖女候補を優遇する王妃殿下に、諫言を申し上げたのも同様です」


と、兄姉から聞いた。それっぽくしゃべってはいるが、莉央にその記憶はない。

ただ、ミシェルの努力をたくさん知り、とても誇らしいと思っている。


「残念だったわね、殿下。嫉妬してあげられなくてごめんなさい?」


意地悪く笑いかけると、歯ぎしりしそうに顔を歪めた王子に睨まれたが、もっと笑えてくるからやめてほしい。


だって、気づいてしまった。王子が本当は、ミシェルからの想いを欲していたこと。

憎らしいほど無関心なミシェルの視線を、忌まわしいほど反応のないミシェルの恋心を、この王子はひたすら欲しがっていた。


でも、手が届かないから。自分のものにはならないから。

いっそ、消してしまえとでも思ったのだろうか。


────ざまあみやがれってんのよ。


ミシェルが同じ性を持つと知ってなお、王子の瞳の奥に潜む恋慕は熱を保っている。

品なく声を上げて笑ってしまわないよう、莉央は必死に腹筋に力を入れた。




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