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緊張とか何それ美味しいの


ミシェルの家族は、両親と兄と姉。

莉央に以前の記憶がないことは、どうやら副隊長から報告がいっていたようで、それほどのショックを受けたのだと解釈されたようだ。


中身が別人であることは、たぶん伝えていない。莉央も、伝える気はなかった。

それでも、振る舞いや話し方で一目瞭然とは思うが、家族はただそのままでいいと笑ってくれる。

なるほど、ミシェルが守りたかったのはこの優しい人たちなのだなと、莉央は深く納得した。


そして、食事や睡眠や医師の診察による体調の快復を待ってから、莉央はミシェルとして登城することとなった。

事件の真偽や今後について、陛下と話すらしい。両親や兄姉は行かなくていいと言うが、そういうわけにもいくまい。


兄と姉に、付け焼き刃の知識とマナーを教わって、莉央は割と気楽に城へと向かった。

家族総出での謁見なので、あまり緊張はない。というか、相変わらず現実味が薄い。


謁見の間に入ると、玉座に向かい合うように家族横並びで立って礼をとる。


「よく、のこのこと顔を見せられたものだな!」


頭を下げた状態で、いきなり怒鳴りつけられた。陛下の御前だというのに、マナー知らずもいたものだ。

公爵家の面々は身動ぎ一つせず、そのまま陛下の言葉を待つ。


「黙っておれ! みな、顔を上げよ」


怒りを含んだ声に促されて姿勢を正すと、王家の人々はそれぞれ独特な雰囲気だった。

見覚えがないため『たぶん』と注釈はつくが、顔色の悪い王妃といきり立つ王子。そして、怒り心頭の陛下。


「ミシェル! おまえがソフィアを突き落としたのだろう! 早く罪を認めよ!」


「ミシェル様! 正直に話してくだされば、神もお許しになられます!」


王子の隣には、ふわふわと愛らしい顔立ちの小動物のような少女。どうやら、彼女が聖女候補の恋人のようだ。

王子と聖女候補の近くには、同年代らしき男女が数人。そして、壁際にはずらりと騎士たちが控えている。


────あ。副隊長さんだ。


全員プレートアーマーの騎士たちの中で、なぜか彼だと気づいて、莉央はつい口元が緩んだ。

軽く瞬きして合図すると、ほんのかすかに顎を引いたので、やはり合っていたようだ。


「黙れというのが聞こえぬか!」


「ひっ」


「公爵家のみな、すまないな。宰相」


陛下が視線をやった先には、片眼鏡の冷たい印象の男性。

小さく頷き、宰相がぐるりと周りを見渡した。


「この場は、事件の真偽を明らかにする場です。進行は私、稟議のため貴族議会と、教会の皆様にもお越しいただいています」


なるほど、王子たちとは反対側の白い服を着た人たちは、教会の人らしい。

それにしては、聖女候補を見る目が冷たい気もするが。


「まず、ミシェル嬢が聖女候補を突き落としたという件ですが、その場面を見たという証人が、こちらの令息令嬢です」


指し示されたのは、王子と聖女候補の近くにいた男女。どことなく居心地悪そうに身を縮めている。


「調査の結果、突き落とされたという日時、ミシェル嬢は公爵邸にいたことが確認されています。教育係の子爵夫人、また司教も証言しています。署名もここに」


「な……」


そうだったらしいよ。いかにもというふうに頷きながら、莉央は兄姉から聞いた話を思い出す。

ちょうど教義についての講義のため、司教が訪問していたらしい。タイミング悪すぎ。いや、良すぎなのか。


「さて、そちらの令息令嬢方。ミシェル嬢が聖女候補を階段から突き落とす場面を、本当に目撃したのですか?」


「あ、の……その」


「……殿下に、頼まれて」


「そ、そうだ。殿下とソフィア嬢に頼まれたんです!」


まあまあ。さっくり証言を覆した令息令嬢に、莉央は冷笑が漏れた。

実際、王子と聖女候補の逢瀬は見ていられないほど濃密であったというから、勢い余って突き落としても不思議じゃないと思っていたが、どうやら虚偽だったらしい。


「そっ、そもそも! ミシェルは、私とソフィアの仲を嫉妬し、あれこれと口出ししていた! 婚約者候補とはいえ、越権行為だ!」


「そうです! 私、もう怖くて怖くて……」


「おおかた、自分こそが王妃にと思っていたのだろうが、残念だったな! 母上もおまえを嫌っているし、私がおまえを選ぶことはない!」


わあ。びっくりするほどテンプレのお馬鹿王子だ。なんか楽しくなってきた。

莉央は、わくわくと口元を扇子で隠しつつ、状況を見守る。目元だけでも相当緩んでいたようで、隣にいる姉に肘でつつかれた。


「未来の王妃たるソフィアへの度重なる暴言だけでも、罰するに値します! 父上、あの女を処刑してください!」


「おまえは、本当に何を言っているのだ……」


「嫉妬深く陰湿な女など、塔の牢で死ねばよかったのだ!」


ぴくりと、莉央の眉が上がった。


ちら、と両親に視線を向ける。彼らは怒りの滲む表情で、しかし莉央に気づくと目を和らげて頷いた。

兄と姉を見る。しっかりと大きく頷かれる。陛下も、仕方なさそうに首肯した。


「先ほどから、嫉妬していたと言うけど」


莉央が声を上げると、あちこちで飛び交っていた会話が、ぴたりと止まる。

王子と聖女候補、そして虚偽の証言をした者たちを睥睨し、莉央はうっすら微笑んだ。




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