3☆高橋公園
「多恵子さん」
呼び止められて、翔子は立ち止まり、振り向いた。
高橋山のすそにある高橋公園の散歩中だった。
仔犬を連れた親子連れが親しげに近寄ってきた。
「こんにちは」
「こんにちは。最近姿見なかったけれど元気でした?」
若い母親が尋ねた。
幼い子ども二人が「多恵子姉ちゃん遊んでー」とせがんできた。
翔子は今まで子どもと触れあう機会がほとんどなかったので、どう対応していいか躊躇した。
子どもたちはなんとなく違和感を感じたのか、多恵子から離れて遊びだした。
「どうかしたの?今日はちょっと大人しいわね」
「大人しい?」
「ええ。・・・いつもだったらあなたの方が子どもにちょっかい出してわあわあ大騒ぎするのに」
「そう・・・だったかしら。ちょっと今日は調子が悪くて」
「あら?そう?お大事に」
若い母親は子どもたちの遊んでいる砂場の方へ仔犬を連れて歩いて行ってしまった。
「多恵ちゃん、こっちおいで」
白髪頭のおばあちゃんがベンチから呼んだ。
翔子が近づくと、
「たい焼きあるよ。太ったってかまうもんかね。おたべ、おたべ。おいしいよ。・・・食べ物をおいしく食べられるってだけでもありがたいことじゃないか」
「ありがとうございます」
おずおずとたい焼きをもらって食べる。小豆の甘味が口の中に広がってとても美味しい。
「本当に・・・なんておいしいんだろう・・・」
翔子は多恵子の姿でむせび泣いた。
味覚が発達しているのか、翔子の体で食べるよりもなん十倍もおいしく感じられた。
「やだよ、多恵ちゃん、泣くことないじゃない」
おばあちゃんがけらけら笑った。
木漏れ日が差して、まるで夢の中にいるようだった。
幸せだ。と翔子は全身で感じた。




