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チート勇者よ。死ぬのはお前だ  作者: 渡良瀬 イノリ


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魔王と第三十代勇者

 3


 大陸の北──その果ての果て。

 魔王城と呼ばれる城の最奥、玉座の間に三人の人型がいた。


 全身真っ白な鎧と、玉座に座るローブの男、その隣に控える片眼鏡《モノクル》の男。

 三人は一様に空中へ映し出された映像を見守っている。


 ──隠れ里の魔族が蹂躙される映像を。


「第三十代勇者殿。あなたは“魔族が手を出さなければ共存できる”と信じて一年間の停戦協定を結んだ」


 玉座の隣に控えた男、片眼鏡《モノクル》をした魔王の側近が厳《おごそ》かに告げた。


「しかし、あなたと魔王様が停戦協定を結んでから一ヶ月でこのありさまです」


 第三十代勇者と呼ばれた全身鎧の人物は、映像から目をそらしてうつむく。

 側近は更に厳しい事実を重ねる。


「この魔王城へ辿り着いたのは、歴史上、初代勇者と三十代勇者であるあなたのみ。だからこそ、その栄誉を称え魔王様はあなたを信じた」


「……理解しているつもりです」


 三十代目勇者は絞り出すような声で言った。フルフェイスの中で微かに反響した声は深い悲しみとやるせなさに満ちていた。


「あなたたち魔族が世界中の人間に対し一切の手出しをせず、勇者という恐ろしい存在である僕をここに滞在させ共に暮らさせていたことも、すべては互いの信頼があって成り立っていたこと……」


 玉座に座る男──魔王が重い口を開く。


「勇者よ。お前たち人間は“弱い者、自分たちとは違うもの”に対してどこまでも残虐になれる生き物だ。お前はこう言ったな。『人間だけでなく、魔族にとっても平和な世の中を目指している。魔王軍が手を出さなければそれが叶うはずだ』と」


 三十代勇者が拳を強く握りしめた。


「その結果がこれだ。お前が魔王城に辿り着いた瞬間、女神アースラは欲望のままに三十一番目の勇者を異世界から召喚した。そして奴らはたった一ヶ月で平和に暮らす魔族たちの村を滅ぼした」


「女神アースラ……いや、あの邪神は人間の欲望を満たして得られる魂のエネルギーを欲しているだけ。この世の平和、まして魔族の生死など眼中にもないのです」


 魔王と側近は事実だけを淡々と述べる。それらは虚偽でも誇張でもない。だからこそ三十代勇者の胸に深く突き刺さった。


「今、見せたのも氷山の一角だ。そこら中で、おとなしくなった魔族狩りが始まっている。これが機とばかりに、人間はおとなしい魔族から順番に殺し始めたのだ」


 平和を望んでいるのは人間──三十代勇者はそう思っていた。

 それは、ただの思い込み。夢物語だったのだ。

 人間こそが魔族の平和を脅かす、害獣だった。


「どうするのだ、第三十代勇者よ。今ここで私たちを討つか?」


「……いや──人間たちが勝手なことをして、すまなかった……」

 三十代勇者は胸に手を当て、魔王に向かって頭を下げた。

「人間の罪は人間である僕の手で償う」


 白い鎧は二人に背を向け、歩いていく。


「勇者よ。どこへ行く」


「──無論。僕たち人間が生み出した汚点を、消し去りに」


 三十代勇者の腰にある聖剣にはめ込まれた青色の魔石が強い輝きを放った。


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