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第5話 戦場の花


※本作はカクヨミでも同時連載中ですが、そちらの方が数話ほど物語の更新が先行しています。


ぜひ先行しているカクヨミ版のページでも一気読みしてみてください!

 

▼カクヨミ版『戦場に降り立った死神』

https://kakuyomu.jp/works/11054822662901128946





貴族とは、戦の務めを果たさなくてはならない。




なぜなら、民衆は血汗を流して貴族を支え、貴族はその圧倒的な武力をもって民衆を守らねばならないからだ。




それが、血統に課せられた絶対の義務である。





……建前は、いつの時代だって美しい。





勝ち戦。


それは、戦場に出てほんの少し叩くだけで、容易く手柄が手に入ってしまう『上質な飲み物(スイーツ)』のようなものだった。




「ふふふっ。戦場とは、聞いていたよりも大したことはないのー」




本陣の豪華な椅子に深くふんぞり返り、品のない笑みを浮かべているのは、領主の長男であり次期当主となる男だった。


初の戦場で最初は少し落ち着かない様子であったが、いざ蓋を開けてみれば、自分がほんの少し指図しただけで敵の軍勢が面白いように敗走していくではないか!




「くくっ、見ろ! 家畜どもが蜘蛛の子を散らすように逃げていくぞ。本当に根性のない奴らだ。おい! 全軍に追撃を命じろ!」




「……本当に、よろしいので?」




傍らに控える、数々の死線をくぐり抜けてきた軍司令官が心配そうに眉をひそめて次期当主の顔を覗き込んだ。


長年の勘が、この異常なまでの敵の引き際に奇妙な違和感を覚えている。




「相手が完全に弱腰になっているのだ、今叩かずしていつ叩く。教本通りに動くならば、ここは追撃の一手だ!」




「しかし……敵の殿に、妙な伏兵がいる可能性も否定できません。この森はあまりに鬱蒼としすぎている」




「いいから四の五の言うな! 突撃の号令を出せッ! これは次期当主である私の命令だぞ! 森に待機させているあの端金の寄合傭兵どもに、美味い手柄を分けてやる必要などないのだ!」




「ぐっ……。はっ、畏まりました。……おい! 聞いたな。全軍へ追撃の伝令を出せ!」




「はっ!」





号令により、貴族軍は一斉に追撃を開始した。




逃げ惑う宗教軍を一人たりとも逃がすまいと、手柄に目を眩ませた兵士たちが全力で追いかける。




だが、不可解なほどに相手の逃げ際が早い。




深い森の奥へとがむしゃらに突き進む追撃により、貴族軍の戦列は次第に長く伸びきり、気づけば誰がどこにいるのかすら分からぬほど統率が取れなくなっていく。




ちょうど、日の光すら遮る鬱蒼とした森林地帯の深部へ、全員が完全に差し掛かった頃だった。





「「ギャァァァーーーッッ!!」」




「「グァァァァァーーーッッ!!」」





突如として、森の奥から地獄の底のような絶叫が木霊した。




逃走していたはずの宗教軍が、一瞬にして反転を遂げたのだ。




そこに現れたのは、教本通りの美しい『密集陣形』。




一斉に長く鋭い槍を隙間なく構えた槍衾が、勝利を確信して勢いよく突っ込んできた貴族軍の兵士たちを、自重で突き刺しにしていくではないか。




「罠だ! 全軍、停止しろ! 引けッ!」




異変に気づいた前線の現場指揮官たちが大声で停止の指示を出すが、鬱蒼とした森林の闇から容赦なく放たれた無数の矢に射抜かれ、次々と戦死していく。





本陣からの追撃命令の取り消しは届かない。





前線の指揮系統は完全に崩壊した。





引き返そうとする後続と、突き刺される前線が狭い森の中で押し合い、そこはただ、死だけを機械的に量産していくだけの逃げ場のない『牢獄』へと囚われてしまった。





――その時だっ!





パァァァァァァンっ!!!





鼓膜を爆破するかのような凄まじい衝撃音が響き渡り、宗教軍の堅牢な陣形の一画が、白い煙とともに弾け飛んだ。




爆心地となった赤黒い点を中心に、あたりに撒き散らされるのは人間の残骸、引き千切られた血と臓物。


あまりの理不尽な光景に、貴族軍も宗教軍も、等しく呆気にとられて硬直する。





立ち込める硝煙の向こうから、ゆっくりと姿を現した『異物』。




その筋肉の巨体は、浴びた返り血によって全身が悍ましく赤黒く染まっていた。





そしてその手に持つものは、ただの大剣ではない。見る者すべてに『死神の鎌』を幻影させる、巨大な鉄板の塊。






次の瞬間――その巨体が、視界から消えた。





ドゴォンっ!という地鳴りのような轟音とともに、近くにいた宗教軍の兵士たちが、文字通り『消える』ように肉片へと変わる。


さらに近くに居たはずの宗教軍の分厚い陣形も、また一瞬にして轟音と共に消え去る。




貴族軍の誰もが、目の前で起きている事象の意味が分からず、ただただ恐怖に歯を鳴らした。








味方だ。








あいつは、俺たちの味方であってくれ。








でないと――俺たちは今ここで、恐怖だけで全員心臓が止まってしまう。







◇







後に、全滅の危機に瀕していた貴族軍を救ったと記録されたその影は、彼らが「端金」と見下して森に放置していた、あの傭兵寄合部隊に所属する男だった。




名は、ドナン。




経歴も、年齢すらも一切が不明。


わかっているのは、その悍ましい筋肉の貌と、ソイツが持つ規格外の武器のみ。




こいつが現れる戦場では、いつも等しく、美しくも残酷な血の花が咲き誇る――。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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(次回も、楽しみにお待ちください!)


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