第4話 傭兵の覚悟
第4話 傭兵の覚悟
ここは鬱蒼とした森林地帯。
生い茂る木々の隙間に、ジメジメとした不快な暑さと腐葉土の生臭い臭いが淀んでいる。
クライアントからの要請により、俺たち傭兵寄合部隊には、この鬱陶しい森の中での待機命令が下されていた。
「おい。なんでこんな湿気た森の中にいなきゃならねえんだよ。これじゃあ戦のあとの略奪行為が何一つできねーじゃねーか!」
苛立ちを募らせた相棒が、地面の木の根を蹴りつけながら思わず口から毒を吐き出す。
「仕方ないだろ、傭兵寄合所の斡旋なんだから。……多分、本隊側は勝ち戦だから、俺たちみたいな雇われのクズどもには美味い手柄をやれんって腹づもりなんだよ」
「くっそー! こんな端金で命を張ってられるかってんだ!」
「そんなに文句があるなら、自分で傭兵団でも立ち上げたらどうだ? まとまった金も手に入るし、上手くいけば貴族に拾われて騎士様だぜ?」
「ハッ、俺がそんなリーダーの柄だと思うか? 面倒くさいから寄合所で駄弁って、適当に斡旋してもらった方が楽なんだよ。戦況が悪くなったら、すぐに逃げても文句言われないしな」
「確かに。言えてる」
ゲラゲラ笑って談笑を繰り返していたが……。
ガサガサっ。ゴゾゴソっ。
不意に、生い茂るシダ植物の奥から複数の不穏な足音が響いた。
さっきまで軽口を叩いていた相棒の顔から一瞬で笑みが消える。流石は修羅場をくぐってきたプロだ。一気に身体が張り詰めた警戒モードへと切り替わる。全員が息を殺し、茂みの向こうを睨みつけた。
「クソっ……外れクジを引いたみたいだぞ」
木々の隙間から姿を現したのは、宗教正規軍の一団。
周囲を警戒しながら、綺麗な散開隊形をとりつつ、確実にこちらへと向かってくる。
数はこちらの圧倒的劣勢。
しかもこちらは、もともと寄合所で暇を潰していただけの有合の部隊だ。
士気など最初から底を突いている。誰もこんなところで命をかけたくはない。
「よ、よし……。お前ら、気づかれる前に今のうちに逃げ――」
その言葉を、相棒が最後まで紡ぐことはできなかった。
どこから現れたのか、生い茂る木々の影から巨大な『黒い影』が爆速で交錯した。
次の瞬間、森の静寂を切り裂いたのは、宗教正規軍の兵士たちが放った凄惨な絶叫だった。
一瞬だった。
本当に、何が起きたのか視覚が追いつかない。
目の前にいた敵兵たちが、肉を引き裂く鈍い音と共に、ただの『元・人の形をした肉袋』へと次々に変えられていく。
真っ二つに叩き割られた巨木から赤黒い血が派手に飛び散り、まるで至近距離で大砲の爆撃でもあったかのような、ズドンッ!という凄まじい衝撃音とともに【そいつ】が中から姿を現した。
異質。
その二文字しか頭に浮かばない。
敵である正規軍の服装ではない。
俺たちと同じ寄合部隊の目印が、その剥き出しの肩の布に確かに付いている。
だが、その見た目は鎧ではなく、ただの圧倒的な『筋肉の塊』そのものだった。
「……後ぅ……」
地鳴りのような低い声で、何かをボソッと呟いたかと思うと、その異物は一瞬にして森の奥へと、風のように消え去っていた。
「あ、あ、あいつは一体何なんだ……?」
正規軍との死闘を覚悟していた。
だが、人間とは根本的に違う『何か』を目の前で見せつけられた俺たちに、生き残った安堵など微塵もなかった。
体の震えが止まらない。
敵の姿はどこにもない。
残されたのは、真っ二つの木々と、肉袋だけ。
あれは、同じ味方の印をつけた。
純粋なる死神への恐怖だった。




