泣き虫な少女
目覚まし時計が6時を告げた。
恋次郎は目を開けた。
彼は目覚まし時計を止めた。
そして次の5秒間、彼は世界を無視して再び眠りにつこうかと真剣に考えた。
体中が悲鳴を上げていた。
背中がこわばっていた。
脇腹が痛んだ。
右肩にはまだグレンデルの銃弾の痕が残っていた。
足でさえ、エーテルの傷の中を歩いた距離を記憶しているようだった。
「あなたの体調は依然として良くないわね。」
女性の声が、まるで彼の頭の中に直接響いた。
恋次郎は再び目を閉じた。
「おはよう、ヴィーナス。」
「挨拶じゃないわ。」
「そうだろうと思ったわ。」
彼はゆっくりと起き上がった。
目の前に薄暗い窓が現れた。
ヴィーナスシステム
同期率:3.9%
重傷:なし
身体的回復:未完了
―休養を勧めます。
―無理です。
―休めますよ。
―長い間姿を消していました。授業もサボったら、誰かに疑われるでしょう。
ヴィーナスは沈黙した。
―それは困りますね。
―まったくだ。
恋次郎は立ち上がった。
彼は傷跡から生還した。
今、彼はもっと危険なものに立ち向かわなければならない。
学校生活だ。
昨晩の入浴で、傷跡の臭いも泥も、そして目に見える痕跡もほとんど消えていた。
傷の手当てはもっと難しかった。
恋次郎は制服で包帯を隠した。
頬の傷は、どんな事故にも見えるだろう。
肩が……
急な動きは避けるしかない。
鏡に映った自分を見た。
17歳。
黒髪。
若々しい顔立ち。
その姿からは、この体で目覚めるまで60年以上生きてきた男の面影は微塵も感じられなかった。
ましてや、100年以上も生きている人工知能が彼の精神と繋がっているなど、想像もつかない。
「心拍数が上がりました。」
「ヴィーナス。」
「はい?」
「制限を設ける必要があります。」
「何について?」
「30秒ごとに体の報告を受ける必要はない。」
「あなたの体には監視が必要な欠陥が多数あります。」
恋次郎はため息をついた。
「心配しているふりをします。」
「それは誤解です。」
恋次郎は微笑んだ。
確かに、忍耐が必要になりそうだ。
彼は屋敷を出た。
王立エーテリア学院は既に目覚め始めていた。生徒たちが建物の間を歩いていた。
遠くの格納庫からは、エーテルフレームのエンジンやシステムがテストされている音が聞こえてきた。
すべてがごく普通に見えた。
奇妙だった。
数時間前、彼は異形の生物と有毒な廃棄物に囲まれていた。
今、彼は試験があることに不満を漏らす生徒たちを見ている。
恋次郎は、普通の悩みに少し懐かしさを感じた。
少しだけ。
「き、如月くん!」
彼は立ち止まった。
彼は振り返った。
リオラ・エリスが彼に向かって走ってきた。
あるいは、走ろうとしていた。
数メートル進んだところで、彼女は速度を落とした。彼の注意を強く引いてしまったことに、少し恥ずかしがっているようだった。
彼女の長く明るいブロンドの髪が後ろで揺れた。柔らかくウェーブのかかった髪が肩に流れ落ち、大きな青い瞳は恋次郎を見つめていた。
「おはよう。」
「お、おはようございます…」
リオラはスカートの前で両手を組んだ。
「あの…えっと…」
レンジロウは待った。
彼女は言葉を発するたびに抵抗しているようだった。
「昨日は会えなかったね。」
「ちょっと出かけなきゃいけなかったの。」
「あぁ…」
沈黙。
「具合が悪かったの?」
「ううん。」
リオラは安堵したようだった。
その時、彼女は彼の顔の傷に気づいた。
「怪我してる!」
「大したことない。」
彼女は少し近づいた。
「本当に?」
「うん。」
リオラは数秒間、彼を見つめた。
レンジロウは、彼女が自分の言葉を信じるべきかどうか迷っているのが手に取るように分かった。
「学術探査許可証をもらったの。」と彼女は説明した。「ちょっとした事故に遭ったの。」
それはいくつかの真実の上に成り立つ嘘だった。
ヴィーナスが口を開いた。
「『軽傷』という表現は統計的に疑わしい。
手伝わないで。」
リオラは視線を落とした。
「ちょっと心配だったの…」
レンジロウは耳を傾けた。
非難の気配はなかった。
過剰な詮索もなかった。
ただ心配だけがあった。
「ごめんなさい。」
「いいえ!謝る必要はないわ。」
その反応があまりにも早かったので、レンジロウは眉を上げた。
リオラは慌てた。
「だって…何も悪いことしてないし…その…」
彼女は急いでバッグに手を伸ばした。
小さな包みを取り出した。
「これ。」
レンジロウはそれを受け取った。
「パン?」
「具合が悪いのかと思ったの。」
「それで、食べ物を買ってくれたの?」
「別に!」
沈黙。
「もう一つ余分に買ったの。」
ヴィーナスが口を開いた。
「嘘をついている可能性:高い。」
「わかってる。」
「計算できる…」
「だめ。」
レンジロウはリオラを見た。
彼女はすでに顔を赤らめていた。
「ありがとう。」
リオラは微笑んだ。
小さな微笑みだった。
しかし、それは紛れもなく心からの微笑みだった。
「どういたしまして。」
二人は教室棟に向かって歩き出した。
レンジロウは彼女が誰なのかを完璧に覚えていた。
リオラ・エリス。
『ヴィーナス・プロトコル』の主要ヒロインの一人。
マサトは彼女のルートをクリアしていた。
何度も。
彼女の好き嫌いをいくつも知っていた。
彼女のイベント。
いくつかの重要な選択肢。
しかし、彼女の隣を歩きながら、レンジロウはゲームでは決して伝えられなかったことに気づき始めた。
リオラは、反対方向から誰かが歩いてくると、必要以上に離れてしまうのだ。
彼女は、誰かがほんの一瞬ドアを開けてくれただけでも「ありがとう」と言うだろう。
そして、誰かがじっと見つめてくると、目を伏せる。
「如月くん…」
「なあに?」
「ちょっと聞いてもいい?」
「もちろん。」
「すごく痛い?」
恋次郎は微笑んだ。
「どこに行ってたのか聞かれるかと思ったよ。」
「それは詮索しすぎだよ。」
彼女は本当にそういう人だった。
あまりにも純粋で。
あまりにも思いやりがありすぎる。
「大丈夫。」
「そう…」
二人は話を続けた。
恋次郎は決心した。
「リオラ。」
彼女は立ち止まった。
「え?」
「リオラって呼んでもいい?」
彼女の青い瞳が大きく見開かれた。
「あ、私の名前で?」
「もし嫌なら、エリーゼって呼び続けてもいいよ。」
「だめ!」
数人が振り返った。
リオラはすぐに身を引いた。
「いえ…気になりません。」
レンジロウは笑いをこらえた。
「じゃあ、リオラ。」
彼女の頬が赤くなった。
「わかった…」
「それから、レンジロウって呼んでくれていいよ。」
リオラはまるでレンジロウからとてつもなく難しい任務を課せられたかのように彼を見つめた。
「あ、レンジロウ…?」
「完璧だ。」
彼女はうつむいた。
「ちょっと恥ずかしいです。」
「すぐに慣れるさ。」
リオラは少しだけ彼の視線を上げた。
「僕たち?」
「友達になりたいんだ。」
沈黙。
今度は彼女の顔が輝いた。
「うん。」
短い返事だった。
しかし、即座だった。
彼らはそれ以上進まなかった。
「見て、誰が来たか。」
リオラは立ち止まった。
3人の生徒が脇の入り口付近に立っていた。
男子2人と女子1人。
レンジロウは彼らの誰一人として見覚えがなかった。
しかし、リオラは知っていた。
それは明らかだった。
彼女の表情が変わった。
「おはようございます…」
男子の一人が微笑んだ。
「エリーゼ。」
リオラは本を胸に抱きしめた。
「授業に行かなきゃ。」
彼女は通り抜けようとした。
男子が動いた。
彼は彼女の行く手を阻んだ。
「まだ時間はある。」
リオラは彼を避けようとした。
彼は再び彼女の前に立ちはだかった。
他の2人は笑った。
レンジロウは黙って見ていた。
「通してください…お願いします。」
「どうしてそんなに緊張しているの?」
女子はリオラを見た。
「いつも泣きそうな顔をしてるね。」
リオラはうつむいた。
「泣かないよ。」
「本当に?」
もう一人の少年は微笑んだ。
「もう少し静かに話した方がいいかもね。未来の偉大なパイロットを怖がらせたくないし。」
笑い声。
リオラは本をぎゅっと握りしめた。
レンジロウは彼女の指が震えているのに気づいた。
「わかった…」
彼の声は小さすぎた。
「何?」
「放っておいて…」
「聞こえなかった。」
リオラはもう一度言おうとした。
「言ったんだ…」
彼の声が震えた。
少女は微笑んだ。
「本当?」
リオラは瞬きを繰り返した。
一筋の涙が浮かんだ。
誰にも見られないように拭おうとした。
しかし、もう遅かった。
「泣いてる!」
「そんなに簡単?」
「ただ話しかけてるだけだよ。」
その言葉は事態をさらに悪化させたようだった。
リオラの頬にまた一筋の涙が流れ落ちた。
「わ、違う…」
「もちろんそうだ。」
「エーテルフレームを操縦したいのか?敵が現れたらどうするつもりだ?敵が去るまで泣き続けるのか?」
リオラはうつむいた。
涙がとめどなく溢れ出した。
レンジロウはゆっくりと息を吐いた。
もう十分だ。
彼は二人のほうへ歩み寄った。
「下がれ。」
少年は振り返った。
「何?」
「聞こえただろう。」
「お前は一体何者だ…?」
彼は少年の正体を知っていた。
「ああ、如月。」
少年は微笑んだ。
「役立たずのEランク野郎だ。」
レンジロウは反応しなかった。
「ああ、そうだ。」
少年は吹き出した。
「完璧だ。泣き虫と役立たず。」
他の者たちも笑った。
リオラは顔を上げた。
「彼には言わないで…」
彼女の声はまた震えた。
少年は彼女を見た。
「何?今度は彼のために泣くのか?」
レンジロウはもう一歩踏み出した。
「興味深いな。」
「何が興味深いんだ?」
「3人だ。」
彼は一人一人を見た。
「あんな奴らは、自分たちと対峙しようともしない女の子を泣かせるのに3人も必要だ。」
笑顔が消えた。
「何て言った?」
「分かりきったことだと思うけど。」
レンジロウはリオラを指差した。
「奴らは彼女を邪魔して、侮辱して、泣かせたことに満足しているんだ。」
彼は肩をすくめた。
「臆病な男はたくさん知ってるけど、あんたたち、基準が低すぎるわね。」
生徒が一歩踏み出した。
「気をつけろ。」
恋次郎は微動だにしなかった。
「さもないとどうなるんだ?」
少年は制服を掴んだ。
ヴィーナスがすぐに口を開いた。
「右肩はまだ怪我してるわよ。」
「分かってる。」
「使わないように。」
「分かってる。」
生徒が押してきた。
恋次郎は動いた。
力任せではなかった。
技だった。
彼は胴体を少しひねった。
重心を移動させた。
手が彼の手首を掴んだ。
彼の足が彼の進路を阻んだ。
ひねり。
少年は壁に押し付けられた。
「何だよ!?」
恋次郎は関節に軽く圧力をかけただけだった。
関節を折る必要はなかった。
ただ、自分ができることを示すためだった。
「第一のレッスン。」
少年は動こうとした。
痛み。
彼は動きを止めた。
「次に何をするか分からない時は、決して人を掴んではいけない。」
「離せ!」
「第二のレッスン。」
恋次郎は顔を少し近づけた。
彼の声は落ち着いていた。
「人の優しさを弱さと勘違いするな。」
彼は少年を離した。
少年は後ずさりした。
クラスメイトたちはもう笑っていなかった。
恋次郎は彼らを見つめた。
「さあ、君には二つの選択肢がある。」
沈黙。
「授業に行くか…」
彼は最初の選択肢を見た。
「…それとも、君にどれだけの訓練が必要か、引き続き見極めるか。」
その必要はなかった。
彼らは去っていった。
リオラは泣き続けていた。
恋次郎は彼女を見た。
「彼らはもういない。」
「わ、わかってる…」
涙が止まらなかった。
「だから…」
「できない止めて!
恋次郎は瞬きをした。
リオラは必死に涙を拭った。
「泣き始めると…本当に止められないの。」
「あぁ。」
「あぁって言うな!」
恋次郎は笑いをこらえた。
「笑ってないよ。」
「笑いたいんでしょ。」
「ちょっとだけ。」
「恋次郎!」
彼女はまた涙を拭った。
「意地悪…」
ヴィーナスが言った。
「脅威は去ったのに、彼女の感情の反応は高いままなの。
彼女は敏感なのよ。」
「過敏すぎるくらい。」
「ヴィーナス。」
「それは必ずしも批判じゃない。」
恋次郎はハンカチを取り出した。
彼はそれを彼女に差し出した。
リオラはそれを受け取った。
「ありがとう…」
「お礼なんて言わなくていいよ。」
彼女は涙を拭った。
「そして、ごめんなさい…」
レンジロウは指を一本立てた。
「だめだ。」
「何?」
「謝る必要はない。」
「でも、私のせいであなたはトラブルに巻き込まれたじゃない。」
「トラブルに巻き込まれたのは私の方だ。」
「でも…」
「リオーラ。」
彼女は黙った。
レンジロウは彼女をじっと見つめた。
「泣くことは弱いことじゃない。」
彼女の目はまだ潤んでいた。
「私みたいな人間はパイロットにはなれないって言われたの。」
「それに、私の制服を掴むのが良い考えだと思ったらしい。彼らの判断力はあまり当てにならないみたい。」
リオーラは小さく笑った。
そして、また泣き出した。
レンジロウは目を開けた。
「今度は何をしたんだ?」
「わからない!」
リオーラは涙を拭いながら笑い始めた。
「たくさん泣くと…もう、何にでも泣いちゃうんだ。」
レンジロウは首を横に振った。
「君に慣れるには、相当時間がかかりそうだ。」
リオラはレンジロウを見つめた。
「それって、まだ私の友達でいてくれるってこと?」
その質問があまりにも真剣だったので、レンジロウは一瞬ためらってから答えた。
「もちろん。」
リオラは微笑んだ。
「私も。」
その日一日、レンジロウはその会話を何度も思い出した。
生徒を動けなくしたからではない。
それは些細なことだった。
問題はリオラだった。
ゲームの中では、彼女の恥ずかしがり屋で繊細な性格は、ヒロインの魅力的な特徴だった。
しかし、その世界では、それらは重大な結果を招く。
言葉は彼女を傷つける。
彼女は不安を感じる。
彼女は泣く。
それでも、彼女はパイロットになりたがっていた。
彼女は成長したかった。
彼女には、主人公が自分のルートを選ぶのをただ待つためだけに存在する夢ではなかった。
それが恋次郎を悩ませ始めていた。
リオラではない。
彼女自身の考え方だ。
彼女はこの世界に、人々を分類する目的でやってきた。
ヒロイン。
脇役。
敵役。
NPC。
ルート。
イベント。
しかし、日を追うごとに、それらのレッテルは役に立たなくなっていった。
リオラはルートではない。
彼女はリオラだ。
そして恋次郎は、彼女を知りたいと思った。
その夜、彼は寝室のドアを閉めた。
「さて、二つ目の問題ができたな。」
「二つどころじゃないわ」とヴィーナスは答えた。
「二つ目の問題は、私が解決したいの。」
恋次郎は腰を下ろした。
「君の回復だ。」
ヴィーナスの表情は見えなかったが、その沈黙は十分だった。
「すぐに全力を取り戻せるとは思えない。」
「分かっている。」
「私の本体は100年以上も劣化してきた。エネルギーで再起動できるシステムもあるが、物理的な再構築が必要なシステムもある。」
「では、できることから始めよう。」
インターフェースが現れた。
金星系
状態:危機的
稼働システム:4.1%
待機システム:17.6%
損傷/応答不能システム:78.3%
恋次郎は口笛を吹いた。
「見た目より状態が悪いな。」
「今は君の姿を視覚的に捉えることができない。」
「言いたいことは分かるだろう。」
「ああ。」
恋次郎は数字を見た。
「魔法が役に立つと言ったな。」
「エーテル。ああ。」
ヴィーナスのシステムの一部はまだ無傷だったが、エネルギーが不足していた。
エーテルを安定的に供給できれば、徐々に覚醒し始めるだろう。
「私のエーテルを分けてもいい?」
「ええ。」
「問題があります。」
「あなたのエーテルの蓄えは極めて少ないです。」
恋次郎は遠くを指差した。
「私もそう言おうと思っていました。」
「先に言われてしまいましたね。」
「ありがとう。」
しかし、ヴィーナスは重要なことを説明した。
彼女は毎日恋次郎からエーテルを吸い取る必要はない。
それは逆効果だ。
彼自身も体を鍛え、強化するために魔力が必要だ。
彼女は眠る前に少量しかエーテルを転送できない。
ヴィーナスはそれを蓄える。
ゆっくりと。
非常にゆっくりと。
「十分な魔力があれば、すべて回復できるのですか?」
「いいえ。」
恋次郎はそれを予想していた。
「エネルギーでは破壊された部品を修復することはできません。」複数の名前が表示された。
高純度エーテル結晶。
軍用グレードの導電性合金。
同期神経繊維。
高度な秘術処理コア。
その後、いくつかの不完全なフィールドが表示された。
材質:現代における同等品なし
構成要素:不明
システム:データ不足
恋次郎は眉をひそめた。
「一部の部品に必要な材料すら知らないのか?」
「記録が破損しているんだ。」
「完璧だ。」
「そうじゃない。」
「皮肉だよ。」
「分かってる。」
その言葉に恋次郎は驚いた。
「勉強中だな。」
ヴィーナスはその言葉を無視した。
「基本的な材料はこの世界で手に入る。」
「店で?」
「いや。」
「もちろん。」
高純度結晶は高価だった。
特殊合金は規制されていた。
同期ファイバーは主に軍用または高性能エーテルフレームに使用されていた。
先進コアはすべてもっとひどい状況もあった。
それに、一部の材料は一般市場では入手不可能だった。
「それなら、金とコネが必要だ。」
「それに、アクセスもね。」
「そして、おそらくルールを破る必要もあるだろう。」
「最後の部分は目標にしない方がいい。」
恋次郎は微笑んだ。
それから彼らは価格を確認した。
それは間違いだった。
恋次郎は最初の水晶の価格を見た。
それから自分の所持金を見た。
そして、もう一度価格を見た。
「金星だ。」
「はい?」
「通貨システムに欠陥がある可能性は?」
「ない。」
「売り手は?」
「ない。」
「君は?」
「ない。」
恋次郎はうなだれた。
「俺は貧乏だ。」
「その通り。」
「そんなに早く答えるな。」
しかし、それは同時に彼に新たな目標を与えた。
彼には金が必要だった。
階級を上げる必要があった。
入手困難な素材を手に入れる必要があった。
そして遅かれ早かれ、金では買えないものが存在するかもしれない場所へ足を踏み入れなければならないだろう。
明日ではない。
必ずしも来週ではない。
少しずつ。
「転送を試してみよう。」
恋次郎は目を閉じた。
ヴィーナスが彼を導いた。
彼女は彼の体内に小さなエーテルの貯蔵庫を見つけた。
真に才能のある生徒たちのものと比べれば、それは取るに足らないものだった。
しかし、それは確かに存在していた。
彼は息を吐いた。
彼の指の周りに淡いピンク色の光が現れた。
「無理に流さないで。」
「やってるよ。」
「力を入れすぎている。」
「前世ではこんなことしたことなかった。」
沈黙。
恋次郎は目を開けた。
しまった。
ヴィーナスは数秒後に反応した。
「最初の人生?」
恋次郎は微動だにしなかった。
喋りすぎた。
「表情がおかしいな。」
「そうは見えないけど。」
「転送に集中しろ。」
ヴィーナスは沈黙した。
しかし恋次郎は、彼女がそのことを忘れていないことをすぐに悟った。
もっと慎重にならなければならない。
彼は再び目を閉じた。
今度はうまくいった。
リンクの中の小さな光が消えた。
インジケーターが現れた。
転送完了
予備エネルギー受信:微量
恋次郎は片目を開けた。
「微量?」
「パーセンテージでいいか?」
「いや。」
「0.003%。」
「いやだと言っただろう。」
「精度が重要なんだ。」
恋次郎はベッドに崩れ落ちた。
「これには何年もかかるだろう。」
「可能性はある。」
奇跡は起こらなかった。
新たな能力も現れなかった。
ヴィーナスが突然10%回復したわけでもない。
恋次郎も自分のEランクが消えたとは感じなかった。
彼らは…
少しだけ成功しただけだった。
「明日またやってみよう」と恋次郎は言った。
「まずは君の予備力を補充する必要がある。」
「それから明日の夜だ。」
ヴィーナスは黙っていた。
「材料が必要だ。」
「手に入れるさ。」
「お金も。」
「それもだ。」
「制限された技術へのアクセスも。」
「何とか方法を見つける。」
「もう存在しないかもしれない部品も。」
恋次郎は目を閉じた。
「一つずつだ。」
ヴィーナスはためらいながら答えた。
「あなたの自信は、今のあなたの資源に見合っていないように見えるわ。」
恋次郎は微笑んだ。
「もっと少ない人数で作戦を始めたこともある。」
沈黙。
「17歳にしてはまた奇妙な発言だな。」
恋次郎は片目を開けた。
「おやすみ、ヴィーナス。」
「話を避けているな。」
「その通り。」
眠りに落ちる前に、彼はリオラのことを思い出した。
彼女の目には涙があふれていた。
彼女のぎこちない笑顔。
彼女が、まだ友達でいたいのかと尋ねた時のこと。
恋次郎は、これらの人々を知っているつもりでその世界に入った。
今、彼は自分が知っているのは、ビデオゲームが彼に見せたバージョンに過ぎないことに気づき始めていた。
もしかしたら、それは良いことなのかもしれない。
なぜなら、初めて彼はガイドに従っていなかったからだ。
彼は選択肢を選んでいなかった。
彼は親密度ゲージを上げていなかった。
彼はただ、泣いている少女を助けただけだった。
そして彼は、彼女と友達になりたいと思ったからこそ、そう決めたのだ。
恋次郎は自分の手を見つめた。
ほんの一瞬、小さなピンク色の火花が散った。
ヴィーナスは力を取り戻すには程遠かった。
彼はまだEランクだった。
グレンデルはまだ壊れていた。
彼らには金がなかった。
材料もなかった。
そして、恋次郎が決して忘れることのないあの日まで、残された日数は少なかった。
本来の如月恋次郎が死ぬ日。
やるべきことが山積みだ。
あまりにも多すぎる。
恋次郎は手を握りしめた。
「一つずつ解決していこう。」
ヴィーナスは答えた。
「今回は、私も賛成よ。」
恋次郎は微笑んだ。
それもまた、進歩だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回の章はいかがでしたか?感想や考察、ご意見など、ぜひお聞かせください。
もし物語を楽しんでいただけているようでしたら、評価をいただけると、続きを書いてほしいかどうかの判断材料になりますので、大変参考になります。




