一歩ずつ
恋次郎が目を開けると、最初に感じたのは痛みだった。
耐えられないほどの痛みではない。
もっとひどかった。
全身が痛む。
肩。
背中。
脚。
脇腹。
存在すら忘れていた筋肉までもが、ここ数日の自分の行いを思い出させるかのように、激しく痛み出した。
彼は天井を見つめた。
「俺は17歳だ」と彼は呟いた。「もっと早く回復するはずなのに」
頭の中で女性の声が響いた。
「あなたの年齢は、あなたが体に与えた組織的な虐待を補うものではありません」
恋次郎は目を閉じた。
「おはよう、ヴィーナス」
「体温は平均よりやや高めです。右肩に腫れがあり、軽度の脱水症状が見られます。あと4時間ほど睡眠が必要です」
「私も、あなたから連絡をもらえて嬉しいです」
「喜びを表に出さなかった。」
恋次郎は起き上がった。
すぐに後悔した。
「うっ…」
「警告しただろう。」
「起き上がった後でな。」
「結果は私の予想を裏付けた。」
恋次郎は虚空を見つめた。
まだ慣れるには時間がかかった。
ヴィーナスはもはや、あの巨大で老朽化した機械の地下数百メートルにはいなかった。
今、彼女の一部が直接彼と繋がっていた。
彼女の姿は見えなかった。
しかし、彼女はそこにいた。
ずっと。
「君と頭を共有するのは、複雑になりそうだ。」
「同感だ。」
「君がこんなに早く同意するとは思わなかった。」
恋次郎は立ち上がった。
あまり眠れていなかったが、仕事を休むわけにはいかなかった。
長い間姿を消していた後、部屋に閉じこもることは、まさに彼が最も望まない結果を招くことになるだろう。
注目。
彼は鏡に映った自分を見た。
昨晩の入浴で、傷跡の汚れは洗い流されていた。
ほとんどは。
傷は別問題だった。
彼は傷を隠せる場所に包帯を巻いた。
顔の傷は小さかった。
肩は痛んだが、動かすことはできた。
脇腹は…
そちらはもっと難しいだろう。
「訓練してもいいですか?」
「ダメだ。」
「じゃあ、軽く訓練します。」
「それも訓練だ。」
「もう交渉中だ。」
「してない。」
恋次郎は制服を着た。
寮のドアを開けると、清々しい朝の空気が心地よかった。
何時間も傷跡の腐敗臭を吸い込んだ後では、近くの建物から漂ってくる朝食の匂いさえも贅沢に感じられた。
恋次郎は本館へと歩みを進めた。
彼は普段通りに振る舞わなければならなかった。
授業。
訓練。
食事。
寮。
そしていつかは、グレンデルを隠れ場所から連れ出さなければならない。
さらに、ヴィーナスのための材料をどうやって手に入れるかも考えなければならなかった。
そしてお金。
特にお金。
「一度にたくさんの心配事を抱えすぎよ」とヴィーナスが言った。
恋次郎は立ち止まった。
「俺の心も読めるのか?」
「直接は読めないけど、ある種の生理的変化は容易に読み取れるわ」
「それじゃ安心できない」
「わざとじゃない」
彼は歩き続けた。
その時、声が聞こえた。
「き、如月くん!」
彼は立ち止まった。
彼はその声をすぐに聞き分けた。
彼は振り返った。
リオラ・エリスが数メートル後ろに立っていた。
少女は彼に声をかけた直後、まるで考え直しているかのように立ち止まった。
彼女の長く明るいブロンドの髪が肩に柔らかな波のように流れ落ちていた。大きな青い瞳は明らかに心配そうな表情で彼を見つめていた。
彼女は両手をスカートの前で組んでいた。
「おはよう」と恋次郎は言った。
「お、おはよう」
沈黙。
リオラは少し視線を落とした。
そして再び彼を見上げた。
「あの…」
再び沈黙。
恋次郎は待った。
「どうした?」
「昨日…えっと…実は、その前から…」
二人の指がそわそわし始めた。
「気づかなかった」
「出かけなきゃいけなかったの」
「ああ…」
再び沈黙。
「でも…大丈夫?」
レンジロウは思わず「はい」と答えようとした。
その時、彼女が自分の顔の小さな傷を見ていることに気づいた。
「まあ、大丈夫。」
リオラの目が少し見開かれた。
「何かあったの?」
「大したことじゃない。学園の外を探索する許可をもらっていたんだ。ちょっとした事故があった。」
この言い訳には、それなりの真実が含まれていた。
彼は実際に許可を得ていた。
実際に外に出ていた。
それに、ちょっとした事故というのは…
かなり大げさな表現だった。
「事故?」
「転んだんだ。」
ヴィーナスがすぐに口を開いた。
「厳密に言うと、何度も転んだわね。」
沈黙。
リオラは彼に一歩近づいた。
「痛い?」
「大丈夫。」
「でも、まあまあ大丈夫って言ってたじゃない。」
レンジロウは瞬きをした。
リオラも自分が彼に反論したことに気づいたようだった。
「ご、ごめんなさい!そんなつもりじゃ…」
「謝らなくていいよ。」
「あぁ…」
彼女は再びうつむいた。
レンジロウはかすかに微笑んだ。
彼女は、彼が覚えているあのリオラのままだった。
しかし…
彼女はもう、以前の彼女ではなかった。
ゲームの中で、リオラはメインヒロインの一人だった。
優しい少女。
純粋。
最初は最も簡単なルートの一つだったが、後に最も感情を揺さぶられるルートの一つとなった。
マサトは、何が起こったのかを知っていた。
彼の選択肢。
親密度を高める贈り物。
彼は特定のバッドエンドを回避するために必要な答えさえ覚えていた。
しかし、それらはすべて画面上の出来事だった。
イラスト。
プログラムされた会話の羅列。
目の前の少女は、彼が廊下で誰かに大声で呼びかけただけで、緊張し始めていた。
そんなことはメニューには載っていない。
リオラはバッグに手を伸ばした。
「これ…」
彼女は小さな包みを取り出した。
レンジロウはそれを見た。
「何だ?」
「甘いパン。」
「見えるよ。」
リオラはさらに緊張した。
「もしかして具合が悪いのかと思って…それで…予備に買っておいたの。」
レンジロウは包みを見た。
そして彼女を見た。
「予備に?」
「ええ。」
「もしかして?」
「は、ええ。」
ヴィーナスが口を開いた。
「あなたの答えは嘘をついている兆候を示しています。」
恋次郎は笑いをこらえた。
こんなの嘘発見器なんて必要ない。
「君は?」
「ああ。」
彼はパンを受け取った。
「ありがとう。」
リオラの目が輝いた。
「どういたしまして!」
そして、少し興奮しすぎたことに気づいたようだった。
「だって…たいしたことじゃないんだもの。」
恋次郎は小さな包みを見つめた。
前世では、もっと高価な贈り物をもらっていた。
メダル。
ボトル。
腕時計。
仲間との思い出。
人生を共に過ごした女性たちから贈られた品々。
しかし、このささやかなパンは、彼に不思議な感情を抱かせた。
リオラは何も期待していなかった。
ただ心配していただけだった。
恋次郎は単純な決断を下した。
ルートを攻略する必要はない。
ビデオゲームの知識を使う必要もない。
今は…
彼女のことをもっと知りたい。
「リオーラ。」
彼女は顔を上げた。
「は、はい?」
「そう呼んでもいいですか?」
彼女は微動だにしなかった。
「リオーラ?」
「はい。」
彼女の頬がほんのりピンク色に染まった。
「は、はい…もちろん。」
「じゃあ、僕のことは恋次郎と呼んでください。」
「え?」
「僕たちはクラスメイトだ。そして、友達になりたい。」
リオーラの目が大きく見開かれた。
恋次郎は、もっと重大なことを提案したようだった。
「お、お友達?」
「君が望むなら。」
「はい!」
声が大きすぎた。
何人かが顔を背けた。
リオラは身を引いた。
「ええ…」彼女はもっと小さな声で繰り返した。
レンジロウはくすりと笑った。
「じゃあ決まりだな。」
リオラは彼の名前を呼ぼうとした。
「レン…レンジロウ…」
彼女はすぐに視線を逸らした。
「思ったより難しかったわ。」
「慣れてないの!」
「覚えておくよ。」
教室に向かって歩いていると、ヴィーナスが口を開いた。
「彼の心拍数がかなり上がっていました。」
「ヴィーナス。」
「観察結果よ。」
「観察結果の中には、誰にも言わない方がいいものもあるわ。」
「人間は有用な情報に関して、奇妙な基準を持っているものね。」
レンジロウは、これはほんの始まりに過ぎないと感じていた。
授業はいつも通りだった。
そしてレンジロウは、そのことに感謝した。
怪物、毒沼、崩落した橋、そして忘れ去られた機械との戦いの後、エーテル伝導システムの説明を聞くのは、むしろ安らぎさえ感じられた。
しかし、彼は以前よりもずっと真剣に耳を傾けていた。
黒板にエーテルフレームの図が現れた。
リアクター。
回路。
導体。
同期システム。
コア。
恋次郎は一つ一つの部品を丹念に調べた。
今、彼には学ぶべき別の理由があった。
ヴィーナス。
「はい?」
「コア?これらの部品は何か役に立つのか?」
沈黙。
「限られた量なら。」
その言葉に彼は興味をそそられた。
「既存のエーテルフレームの部品を使って修理できるのか?」
「一部の補助システムは流用できる。」
「では、メインシステムは?」
「いいえ。」
恋次郎は書くのを止めた。
「如月。」
彼は顔を上げた。
教授は彼を見ていた。
「何か問題でも?」
「いえ、ありません。」
彼はメモを取り続けた。
ヴィーナスは話し続けた。
「私の設計は、あなたが現在使用している技術とは完全には対応していません。」
「あなたが年上だからだ。」
「それに、違う。」
「だから、特別な部品が必要なのです。」
――その通りだ。
それは問題になりそうだ。
授業後、レンジロウは静かな場所を見つけた。
ほとんど使われていない古い練習室だ。
彼はドアを閉めた。
――よし。
彼は椅子に座った。
――具体的に何が必要なのか説明してくれ。
ヴィーナスは数秒間沈黙した。
すると、彼の目の前に淡いインターフェースが現れた。
ヴィーナスシステム
一般状態:危機的
同期率:3.9%
稼働可能容量:制限あり
レンジロウは両腕を膝の上に置いた。
「君が困っているのは分かっていたよ。」
「君には事態の深刻さが分かっていない。」
インターフェースが変わった。
格納庫で見た巨大な女性のシルエットが現れた。
その大部分は隠れていた。
「本体は、必要不可欠なシステムのみが稼働している。電源が供給されていない部分、回路が破壊されている部分、そして寿命をはるかに超えた部品がある。」
「修理できるか?」
「一部は。」
「残りは?」
「交換が必要だ。」
レンジロウは頷いた。
「では、何を買えばいいんだ?」
「そういうわけにはいかない。」
「もちろん。」
ヴィーナスは情報の表示を始めた。高純度エーテル結晶。
学生が通常使用するようなものではない。
彼は、はるかに高いエネルギー密度を維持できる結晶を必要としていた。
軍用グレードの導電性合金。
耐摩耗性材料。
それはエーテルの膨大なバリエーションだ。
神経リンクファイバー。
高度な同期システムに使用される部品。
秘術処理コア。
高性能機械に使用される機密技術。
そして、それはほんの始まりに過ぎなかった。
恋次郎は眉をひそめた。
「買えるのか?」
「一部はね。」
「それは心配だ。」
「基本材料は一定の条件下で合法的に入手できる。」
「残りは?」
「軍の許可が必要なものもある。入手が極めて困難なものもある。それに、私の構造物には現代では同等のものが見つからない部品もある。」
恋次郎は背もたれに寄りかかった。
「つまり、店にふらっと入って買えるわけじゃないってことか。」
「ああ。」
「買えるものだけを集めると、いくらかかるんだ?」
ヴィーナスが計算した。
数字が表示された。
恋次郎はそれを見た。
そして、再び彼女を見た。
「ゼロが一つ余分についているのか?」
「いいえ。」
「確認して。」
「もう確認した。」
「もう一度。」
「気に入らないからといって結果が変わるわけじゃない。」
恋次郎は頭の中で手持ちのお金を確認した。
彼は学生だった。
裕福な家庭の出身ではなかった。
金持ちではなかった。
エーテルフレームすら持っていなかった。
「貧乏だ。」
「君の経済状況はそう表現できるだろう。」
「ありがとう。」
「褒め言葉じゃないぞ。」
「分かってる。」
恋次郎は黙っていた。
お金は稼げる。
仕事。
報酬。
競技会。
任務。
ゲームの知識を活かすこともできる。
しかし、すぐには手に入らない。
それに、これはあくまでお金の話だ。
希少な素材となると話は全く別だ。
「完全に回復するにはどれくらいかかる?」
ヴィーナスは沈黙した。
「それはお答えできません。」
「1ヶ月?」
「いいえ。」
「6ヶ月?」
「あり得ない。」
恋次郎は眉を上げた。
「1年?」
「可能性はある。」
「もっと?」
「それもまた。」
恋次郎は息を吐いた。
これは重要なことだ。
彼はヴィーナスを見つけたのは、明日目覚めたら無敵の武器を持っているためではない。
彼が発見した機械は、ほとんど死にかけている。
それを回復させるには時間がかかるだろう。
「でも、別の可能性もあるわ」とヴィーナスは言った。
恋次郎は顔を上げた。
「聞いている。」
「エーテル。」
「魔法?」
「簡単に言うとね。」
ヴィーナスは、システムの一部は破壊されていないと説明した。
単に、長期間にわたって十分な電力が供給されていなかっただけだ。
エーテルを安定的に供給してもらえれば、徐々に蓄積して、特定の内部プロセスを覚醒させることができる。
レンジロウは理解し始めた。
「私の魔力を分けてあげよう」
「ああ」
沈黙。
ヴィーナスは付け加えた。
「ただし、使える量は微々たるものだ」
「こうなると思っていた」
「君のEランクは意見ではない」
「続けてくれ」
「君が毎日蓄えの一部を移してくれれば、保管できる」
「そして、回復できるのか?」
「非常にゆっくりとだ。エネルギーはシステムを再起動させることはできるが、もはや存在しないものを物理的に再構築することはできない」
レンジロウはインターフェースを指差した。
「そのためには、材料が必要だ」
「その通りだ」
シンプルなシステムだった。
覚醒させる魔力。
再建のための資材。
回復のための時間。
「回復すればするほど…?」
「私の能力は高まる。」
「そして、あなたは私にもっと力を貸してくれる。」
「可能性はある。あなたの体が耐えられる限りは。」
恋次郎は微笑んだ。
「つまり、私たちは同じ問題を抱えているということか。」
「違う。」
「私たちは壊れている。」
「私の問題は技術的なものだ。あなたの問題は、肉体的、神秘的、そして経済的な欠陥を含む。」
恋次郎は彼女を見つめ続けた。
「あなたは間違いなく、人をやる気にさせる方法を学ぶ必要がある。」
その日の午後、彼はグレンデルを取り戻した。
彼は古い整備棟の近くに誰もいないことを確認するまで待った。
彼はプレートを外した。
防水シートはまだそのままだった。
その下には巨大な黒いライフルが置かれていた。
恋次郎はそれを持ち上げた。
「まだ重すぎる。」
「昨日から何も変わってないな。」
「ただの観察だった。」
「なぜ私の機体が君を苛立たせるのか、今ならわかる。」
レンジロウは微笑んだ。
「君も成長しているな。」
ヴィーナスは分析を行った。
ARX-13 グレンデル
構造健全性:64%
コアエネルギー:14%
スタビライザー:損傷
光学システム:非作動
エーテルコンバーター:作動
バヨネット:作動
レンジロウは損傷した金属部分に手を触れた。
「これも特殊な材料が必要なのか?」
「ああ。」
「当然だ。」
「だが、技術レベルは私のものよりかなり劣っている。修理はもっと簡単だろう。」
「やっと良い知らせが来たな。」
「安くはないと言っている。」
恋次郎はうなだれた。
「撤回する。」
その夜、彼は自室に戻った。
グレンデルを再び隠した。
夕食を済ませた。
リオラと少し話をした。
そして、奇跡的に、彼を逮捕しようとする者は現れなかった。
「おやすみ。」
恋次郎はドアを閉めた。
ベッドに腰掛けた。
「やろう。」
「本当にいいの?」
「どれくらいの魔力が必要なの?」
「自分の状態を損なわずに転送できる分だけ。」
「では、始めよう。」
ヴィーナスは説明した。
それは呪文ではなかった。
言葉さえ必要なかった。
ただ、あの世界の住人が幼い頃から知っていた感覚を探し出すだけでよかった。
彼らのエーテル。
恋次郎にとって、それは常に微弱なものだった。
微かな流れ。
学生に匹敵するものは何もない
才能がある。
彼は目を閉じた。
彼は呼吸をした。
彼は彼女の存在を感じた。
「さあ、絆に導かれるままに。」
彼の手の周りに微かな光が現れた。
ピンク色。
光は震えた。
そして、徐々に消えていった。
恋次郎は疲労を感じた。
痛みはなかった。
まるで長時間の訓練を終えたような感覚だった。
光は消えた。
彼は目を開けた。
「うまくいったのか?」
沈黙。
小さな窓が現れた。
転送完了
エネルギー回復:0.003%
恋次郎はその数字を見た。
「…」
ヴィーナスは沈黙した。
「0.003。」
「正解。」
「それだけか?」
「君の予備エネルギーは少ない。」
「言うまでもないだろう。」
恋次郎は背中を後ろに倒した。
彼は天井を見つめた。
このままじゃ…
「いつまで経っても終わらないぞ。」
「その見積もりは厳密には正確じゃない。」
「ただの比喩だよ。」
「分かってる。」
恋次郎は顔を上げた。
彼の返事の仕方に何か変化があった。
ほんのわずかだが。
確かに変化はあった。
「ヴィーナス。」
「はい?」
「昨日、君はゴミの山の下に埋もれていた。」
沈黙。
「私の状況を不必要に単純化した表現ね。」
「でも、本当だ。」
「ああ。」
恋次郎は片手を上げた。
「そして今日、君は0.003%増えた。」
ヴィーナスはすぐには返事をしなかった。
「それも正しいわ。」
「じゃあ、明日はもう少し増えるだろう。」
数秒が過ぎた。
ヴィーナスはついに尋ねた。
「なぜ?」
「何が?」
「私を元に戻すには、あなたが今持っていない資源が必要です。時間、お金、入手困難な材料。それに、必要な部品の中には、もう製造できないものもある可能性が高いのです。」
恋次郎は天井を見つめた。
「分かっている。」
「では、なぜそれをやろうとするんだ?」
彼は明白な答えを言うこともできたはずだ。
「君の力が必要だからだ。」
そしてそれは真実だった。
如月恋次郎を殺害するはずだった攻撃が迫った時、ヴィーナスの存在は生死を分けるものだった。
しかし、それだけではなかった。
彼は暗闇に置き去りにされた巨大な女性の姿を思い出した。
100年以上。
待ち続け、
朽ち果て、
忘れ去られ、
「私たちは取引をした。」
「それだけでは、あなたの決断を完全に説明できない。」
恋次郎は微笑んだ。
「それなら、残りのことはじっくり時間をかけて探せばいい。」
沈黙。
「その答えは苛立たしい。」
「君から学んだんだ。」
恋次郎は目を閉じた。
明日は訓練だ。
それから勉強だ。
お金を稼ぐ方法を見つけなければならない。
高純度の結晶の入手先を探さなければならない。
グレンデルを修理するための道具を見つけなければならない。
あの体を強化しなければならない。
乏しい魔力を増強しなければならない。
そして、場合によっては普通では手に入らないような材料を手に入れなければならない。
奇跡的な変化など起こらないだろう。
明日目覚めたら、エーテリアで一番強い男になっているわけではない。
ヴィーナスも、失ったもの全てを突然取り戻すわけではない。
時間がかかるだろう。
おそらく苦痛を伴うだろう。
そして、間違いなく二人が想像していたよりもずっと複雑だろう。
しかし、正人は生涯を通してあることを学んでいた。
不可能と思える作戦は、たった一度の大きな行動で成し遂げられることは滅多にない。
小さな前進を積み重ねることで成し遂げられるのだ。
一つずつ。
蓮次郎はその小さな数字を思い出した。
0.003%
ばかげている。
取るに足らない。
しかし、ゼロよりは大きい。
彼は微笑んだ。
「一歩ずつだ。」
彼の心の奥底からヴィーナスが答えた。
「一歩ずつだ。」
そして、それは100年以上ぶりに、ヴィーナスがほとんど気づかれないほどゆっくりと…
回復し始めた最初の夜だった。
第12章 終わり
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