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9.過去 SIDE 女神様

ブランとの会話を終え、現世との繋がりを切る。繋がりを切ると言っても現世の状況は見ることができる。

どうやらブランは狩りに行くらしい。無理はしないで欲しいのだが、なまじ能力が高すぎるため苦労を苦労と思わないらしい。

多分自覚はないだろうが口角が少し上がっている。そんな表情をみるとついこちらの表情も緩む。


可愛いなぁと思いつつ、ブランの前世のことを思う。


ブランの前世は、ぱっと見他人から見れば恵まれていたと思えるような状況だった。だが、本人にとってはとても苦痛であっただろう。

もっと辛い人はごまんと居るといえばそうだが、幸せに生きれていない時点で辛いことには変わりない。


幼少の頃は体が弱く入院ばかりしていたため両親は特に期待することなく元気に育ってくれればいいと思っていた。

だが成長するにつれて体が大きくなり、強くなった。

そして勉強にしても運動にしても、他人より優れた結果を出した。本人にとっては今まで出来なかったことができるのが楽しいだけで、努力を努力とは思わなかった。


その後近所の友人に誘われ野球を始める。そこでも体を動かせるだけで楽しめる彼は、のめり込んでいった。


体を動かせるのが楽しい、出来ないことが出来るようになるのが楽しい、出来ないことをどうすれば出来るのか試行錯誤するのが楽しい。そうただ楽しかっただけである。


だが両親は違った。自分たちの息子がいい結果を残す、昔は何も期待していなかった子が素晴らしい結果を持ってくる。

そして周りはそれを褒める。そして自分たちのことも。

自分達が何もせず息子が結果を出すだけで褒められる事に快楽と優越感を見出した両親は、息子にあれやこれやと口をだすようになった。


彼は他人の気持ちや考えていることにとても敏感である。はじめはなぜ両親があれこれ言うのか理解できなかったが、両親が遠回しな言い方で自分のことを自慢し優越感に浸っているのを見て理解した、理解出来てしまったのだ。

彼が鈍感であれば気づかなかっただろうそれに気づいてしまったために、その後両親がまるで自分のためを思っているかのような言葉の裏が読み取れるようになってしまった。


その後は自分が結果を出すことが嫌になってしまったが、結果が出なくなったあとの両親は酷いものだった。

ドスドスと足音は威嚇するかのようにと大きくなり、食器を置く時はまるで叩きつけるような音がなる。言葉はいつもよりも遥かに少なくため息ばかりが聴こえてくる。

他人の気持ちに敏感なせいで気づいてしまう。

両親がわざとやっているわけではないこと。

ただ彼らは他人に自慢して優越感に浸れる機会がなかったがためにイラついているだけで、自分にその怒りの矛先を向けているわけではないこと。


彼は病弱な自分に対して優しくしてくれていた両親のことを覚えている。

ただ楽しそうにしている自分を見て笑ってくれていた両親の顔も。


そして自分が結果を出し続ければ家の雰囲気は良いままだという結果にたどり着く。


その後の彼の人生は酷かった、他人から見れば、今まで通りたのしんでただ努力をしているようにしか見えないように振る舞う。

勉強も運動もただひたむきに、そうすれば良い家族でいられるのだから。


中学に上がっても結果を出し、推薦をもらい高校生になる。

その間も努力をし続ける。勉強では学年でもトップクラス。運動もなんの種目をしても活躍する。部活でも1年から結果を出す。


他人からの嫉妬なども沢山あったが、彼がただひたむきに誰よりも努力しているのは明らかだったため、少しづつ声は少なくなる。


家族の雰囲気は良かった、だが周りのレベルは上がり努力し続けても調子の波はある。結果を出し続けることができなくなっていった。


努力しても努力しても結果が出ない時はある。


努力しても努力しても家族の雰囲気が悪い日が生まれる。


結果彼はより量を質を求めて行った。





怪我をした。




疲労による骨折だった。骨折が治るまで家の雰囲気は最悪だった。

表向き自分のことを労るようなことを言う両親のことなの裏に、自分が試合に出れない間、誰かが結果を出し、褒められる様子を見てイライラを募らせていることが分かる。


怪我が治り、リハビリを終えレギュラーに戻ると、雰囲気が戻る。


それ以降怪我をしても誤魔化してやり続けた。


痛みがあるならどうすれば痛みなくやれるのか工夫した。そうすれば別の場所に負担が掛かり別の場所が痛くなる。ならばとその場所をかばえば別の場所が痛くなる。

このままでは堂々巡りになることはすぐに分かった。


ならばと、いつどのタイミングでどの程度の痛みが来るかわかっていればそのタイミングで耐えればいいと思った。


元々長いことハードな努力をし続けても怪我がなかった体の使い方と、元のタフネスの高さだ、それで出来てしまった。


出来はしたが、無理はしている、心も体もより消耗していった。


段々と普段の集中力が散漫となり、テストの点数が下がった。このままではまた家族の雰囲気が悪くなると睡眠時間を削って勉強をした。


悪手ではあったが、元の能力が高いゆえかどうにかなってしまった。休み時間は寝ることが多くなったが、それだけでどうにかなってしまった。


だが限界は来る。夜練を終え自転車で帰る途中意識が遠くなっていく。平衡感覚がおかしくなり、


倒れる。


頭も体も地面に強打したはずなのに痛みを感じない。


そのまま意識が途切れる。


そして白い空間に来た。



そんな前世だ、彼の器がとても大きかった理由は元の才能に加えて、頭を使い努力をし続けた結果だ。


他人の表情や仕草などから何を考えているか察する能力が高いことは役に立つが、彼にとっては呪いのようなものだろう。


生き物の類に好かれるのは、自己犠牲をいとわない彼の優しさを動物たちは理解していたからだ。人には理解されなかったというのに、言葉の伝わらない動物達だけが理解していた。


そんな彼には幸せになって欲しかった。そのために最高神様に頭を下げた。

他の上位神にも頭を下げいくつか仕事や面倒事を押し付けられたが彼のスペックをオーバーにすることの許可を得た。

このまま行けば彼は、いや彼女は確実に神の領域まで成長するだろう。既に半分神の領域に入っているのだから。

そうなれば役目を終えても彼女は私の目の届く範囲にいることになる。私の侍従のひとりにしてもいい。


誰にも理解されないまま死んだ彼女の為ならちょっとした苦労など苦労ではない。


女にしたことについても彼女は文句を言っていたが、彼だった頃を思い出さないようにするために必要だったのだ。


記憶の中にその時々の自分の感情などがないことに違和を感じないようにもしておいた。


自己満足と言われればそうかもしれない。


でも、今彼女が元気に幸せそうに生活してくれればそれでいい。後で恨まれようともそれで。









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