【PROCESS-C】仕置『偽りの募金男へ、善意の重さを知らしちゃるばい!』
今日は名もなき悪ですが、そのやられようを、とくとご覧ください。
良く晴れた週末——西新宿・再開発エリア前の広場。
陽差しの下、にこやかに立つ男がいた。白いシャツ、清潔な笑顔、首からぶら下げた名札には《未来子ども団体》と書かれている。
傍らには、プラスチック製の募金箱と、作りこまれた支援活動の写真を並べた立て看板。
「ご支援お願いしまーす! 夏休みの子どもたちに、夢を!」
男は通りすがりの人々に頭を下げ、時折、小さな女の子の写真を見せながら声を張り上げていた。
その姿は、まさに《善意の広告塔》。
だが——彼の背後、20メートルの距離で、高性能の双眼鏡を構えたスナイパーがいた。
「……確認した。例の募金箱、透明ケースの下に無線っぽい配線あり。中の硬貨もわざと多く見せてるフェイク詰め」
インカム越しに、ハッカーの声が返ってくる。
「よし、GPS信号もこっちでキャッチ済。あの箱、まるごと送信装置だな。盗聴機能付きの可能性高いっす」
執行が商店街のアーケード側から歩み進める。手にした買い物袋には、小さな箱型カメラと偽の財布。
「タイミング合わせて善意を届けるばい……」
執行はそのまま、男の前に立ち止まった。
「……あの、少しだけですが」そう言って財布から小銭を出す。
募金男は笑顔で募金箱を差し出した。
「ありがとうございます! 未来に繋がります!」
その瞬間——バン。
執行は募金箱の下部を指で弾いた。
小さな電子音が鳴り、募金箱の中から『ピーッ』という微細な警報が鳴る。
ハッカーが即座に対応。
「よし、解読信号追完了。GPSデータ書き換え、録音記録も回収。これで逃げられないっす」
男が一瞬顔をしかめるが、過ぎに笑顔を戻す。
「どうかされましたか? なにか?」
「いや……ただ、きさまの《目》が気になったとばい」
執行はまっすぐに男を見据えた。視線を外さず、そのまま言葉を続ける。
「その目は、誰かに見られているってこと、忘れとる目ばい」
「……は?」
「善意ってのはな、小銭じゃなかたい。人の祈りの塊とよ。それは騙して笑っとると……そのうち、目も逸らせんもんを見るごとなるったい!」
男が戸惑った瞬間、スナイパーがスーッと素早く近づき、男の背後に立つ。
その首元に、小型レシーバーをそっと差し込んだ。
「……聞こえるか? お前が奪った声よ」
レシーバーから流れるのは、依頼者・さとみの言葉だった。
『……これで助かる?』
『ありがとうございます、頑張ってくださいっていわれました』
『だからこそ、許せないんです……』
男の顔から笑みが消える。レシーバーを外そうとしたが、耳元で次の声が重なる。
『きさまは、見られているんだ。今、この瞬間も』スナイパーが低く囁く。
『善意を蹴った報いは、魂まで刻まれるばい』
募金音がふらつきながら立て看板を畳もうとした。
その瞬間——背後から、スッと影が現れる。
「……きさま、まだ気づいとらんようやな」
その声に振り返った瞬間、男の視界を覆うように、黒い影——執行が眼前に立っていた。
「な……誰だよ、あんた! なんなんだ、これ……!」
男が後ずさると同時に、後方からスナイパーがさりげなく逃げ道を塞ぐ。
ハッカーは広場の街頭カメラに接続し、記録モードへ切り替え済み。
執行は、一歩ずつ前へ進みながら、募金男の拳をグッと握った。
「人の善意ば、きさまは何やと思っとるとや?」
「えっ? な、なんだよ。お前は正義の味方気取りか?」
「なんば言いようとか、きしゃん。ワシらは……請負人ばい!」
「ひ、ひえっ……だ、誰か!」
——そこからが早かった。
秘技! 《慈悲無き昇天掌》
執行の右掌が、男の胸もとへスッと構える。
「この必殺技は、無償の善意を裏切った鉄槌ばい!」
次の瞬間、掌底が、ドン! と男の胸を撃ち抜くように命中。
「ぐ、ぐおっ」男の身体はふわりと浮き、2メートルほど後方に吹き飛んで、募金箱のパネルに激突。ボードが派手に壊れ、写真と小銭がぶちまけられる。
「う、うわぁぁあ~!」地面にへたり込む男。膝を抱え、涙目で訴える。
「や、やめて……もうムリ……善意とか、俺が間違ってた。や、やり直す。やり直しますってばぁぁぁ~!」
泣き叫ぶ男に執行はゆっくりと歩み寄る。
その顔に、憐れみでも怒りでもなく、冷静な《仕置き》の眼差し。
「誰かに見られてるって、きさまは言ったな?」
「う……うぅ……」
「今日この場には、本当の善意を信じてきた人の目が、ちゃんと来とるけん」
執行はポケットから、小さな紙きれを取り出した。
依頼者・さとみの手書きメモ。
『あなたの目で、見届けてあげてください』という一文が書かれていた。
「見たね? さとみしゃんの正義、ちゃんと届いたけんね」
「悪いヤツは、ワシらの手でやっつけるばい! シャキーン!」
(あ、またシャキーンって、また言ったぜ、ハッカー……)
スナイパーはそう声で言うが、ハッカーはわれ感ぜずだった。
(今回は見ているギャラリーもいないしね、シャキーンがむなしく響く)
——数分後。パトカーのサイレンが近づき、制服警官たちが男を引き取っていく。
「ごめん、本当にごめんなちゃ~い、俺がバカでしたあ~」と情けなく泣き叫ぶ声が消えていく。
翌日、早川さとみが〈エブリデイ〉に来店し、執行をはじめ仕置俱楽部のメンバーにお礼を言いに来た。
「みなさん。ありがとうございます。おかげ様で、お客様の誤解もとけてまた商店街がより一層盛り上がるようにがんばって! と言ってくれる人もいまして」と涙ぐむように。
執行は、「そうね。これであの募金男も反省してくれればいいっちゃけどね」と腕を組む。
ハッカーがディスプレイに並んだ裏アカ凍結ログを指さす。
「証拠はすべて海の底。何ひとつ表には残さない……けど、アイツのなかには残ったでしょうね」
スナイパーは依頼のときにさとみが言った言葉『小銭じゃ救えない、心がある』を思い出した。
さとみが去った後、ハッカーがつぶやく。
「いや~今回も、キレッキレでしたね。あの技、動画編集したらバズリそうっすな」
スナイパーが笑う。
「でも、慈悲無き昇天掌って、名前はどこで考えたんですか?」
「ふおっふおっふおっ。それは、企業秘密ばい」
「……ジョニーさんにそれしたら怒られますよ」
スナイパーが制すると、執行はわれに返り、咳払いした。
お読みいただき、ありがとうございました。
これから徐々に悪のやられ方が派手になっていきますよ~
次回は、
FILE-03『執行、とんでもなく容赦ない美人局を仕置く!』
【PROCESS-A】依頼『その子、本当は助けを求めていた』
仕置俱楽部……なんでもやるのね。




