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『仕置俱楽部』 -Everybody Justice-  作者: 秋月夜雨
FILE-01『執行、万引き議員を仕置く!』
4/5

【PROCESS-C】仕置『本日は特別セール中ばい!』

議員先生の堂々たる悪行を仕置俱楽部の三人が『お仕置き』します。

(最初なので、軽めにね……)

——日曜。快晴である。

朝から客が押し寄せる、地元密着型のスーパーマーケット《ナカムラストア》。

目玉商品は、精肉コーナーの黒毛和牛特売——なんと、通常価格の半額である。


その混雑の中に、ターゲットはいた。

執行、スナイパー、ハッカーの三人は、それぞれ一般客として店内に潜んでいた。

執行は相変わらずの白Tシャツにエコバックを肩から提げ、買い物メモを手にしていた。

ハッカーは、やはりジャージ姿のまま、誰よりも浮いていた。

「ねえ、ほんとにこの格好で尾行するんすか?」耳元にイヤホンマイク。

「ハッカー、文句を言わず目を配れ。議員様、肉コーナーの裏手に来たぞ」スナイパーの声が飛ぶ。

「そっちは? 客多すぎて見失いそうだ」

「今、死角に入ったっす。例の総菜側の横……」

ハッカーが少しずつ距離を詰めながら、スマホに仕込んだ簡易カメラで議員の動きを記録する。


ターゲットの男——例の地元の国会議員は、今日も変装なし。

シャツにネクタイ、ジャケットを腕に抱えて、完全に《普通の客》を演じている。

「……こりゃあ、今日もやるばい」執行がつぶやいた。


議員は惣菜棚の一番奥、視界の届かぬスペースで、鮮やかに指を動かす。パック詰めの高級寿司を、他の商品で目隠しするようにして手に取り、大きな黒いカバンに滑り込ませた。そのまま立ち止まらず、すぐに隣の飲料コーナーに移動。

「コイツ、完全に癖が染みついとるたい」執行が静かに口を開いた。

「スナイパー、次のポイント。非常口前の棚。議員様の導線に入るはずばい」

「任しといてください!」スナイパーは手に持った買い物メモを折りたたみ、すれ違いざまにターゲットを確認した。


——その瞬間だった。

議員が棚に手を伸ばした刹那、スナイパーが小声で囁く。

「そのポケット、少し膨らみ過ぎじゃないですか?」

議員がピクリと肩を揺らした。

「え、何のことかな……」

「あなた、国会議員の中縞要丞(なかしまようすけ)さんですよね。噂、聞いてますよ」

スナイパーの目は笑っていない。

そのままハッカーが近づき、スマホを議員の顔に向けて一枚撮った。

「データ保存完了。中縞先生の《お買い物風景》バッチリっす!」


議員の顔から血の気が引いていた。そして次の瞬間、中縞はスーツの膝をつき、情けなく手を合わせた。

「も、もうしません……許してください! お願いですから……このことは」


中村がやってきて、引きつった笑顔を保ったまま、頭を下げた(あっけない)。

「先生、今回で初めてじゃないでしょう? 私、知っているんですから。警察を呼びます。あなたは外面だけ良くしていれば良いでしょうが、うちはここで一生懸命に商売をやっているんです!」

その言葉に、中縞は涙を浮かべてわなわなと震えていたが、引きつった顔をして中村に向かってしゃべった。

「ヒヒヒ。わ、私を誰だを思っているんだ? 私は次期大臣を約束されている国会議員・中縞要丞様だぞ。貴様ごときにそんなチャンスが無くなってたまるかってんだ。ようし、分かった。貴様がそこまで言うのなら、講演会を呼んで貴様の店をぶっ潰すよう圧力をかけてやるぞ」


「言ったな~。確かにそう言ったな~?」スナイパーが言う。

「ほう。なら、今周りにいる有権者のみなしゃんが、こぞって今貴様が言ったことを動画に収めていることも含めてそう言うんだな?」と執行が低い声で言う。


「え?」中縞は辺りを見回すと、買い物客がみな中縞要丞の一部始終をスマホで撮っていた。


「あ、これSNSに投稿したら大バズリだ!」

「へえ、この人、実際はこんな感じだったんだ。失望した」

「私、この人にこの前入れたけど……入れるんじゃなかった」


——な~んてね。


「おい、中縞要丞議員先生様。それだけじゃないっすよ」ハッカーがそう言って人を呼んだ。


そこにはその議員の後援会の人たちがどしどし現れて「先生、これどういうこと?」「見ていて呆れましたな」などと怒号が飛び交った。


「これでもう、きさまの人生が終わったな。猫の皮を被ったハイエナよ。いやそれは、ハイエナに失礼に当たる。貴様にはもうチャンスはなかばい!」


しばらくすると、複数人の警察官がやってきて、その議員先生万引きの常習犯として現行犯逮捕された。

辺りは騒然としたが、「さあみなしゃん、これで心置きなく買い物をできるばいよ~」の執行の一言に拍手と歓声が湧いた。

「……仕置き、完了ばい!」

執行はそう言うと、右手を上にあげ、「悪は必ず叩く! シャキーン!」とポーズ。


「……あ、今、執行さん自分で『シャキーン』って言ったっすね?」

ハッカーが少し間をおいて言ったが、スナイパーはわれ関せず。

執行は肩をすくめ「言って何が悪い!」ハッカーに責める。

「いや、悪くないっすけど、ちょっと恥ずかしくないっすか?」

そんなやりとりの中、スーパー内は騒がしい特売の館内放送が響いた。


——数日後。

中村が再び西新宿のコンビニエンスストア〈エブリデイ〉に差し入れを持って来た。

「ほんとに、ありがとうございました。中縞は初犯で不起訴になりましたが、離党勧告を受け、議員を辞職しました。ですが……」

「ですが? どげんしたとですか?」


「ウチの店の前で演説を始めたのです……『このお店はすばらしい!』『このお店はおいしい!』って毎日朝から晩まで……でも、おかげで売り上げが上がったので良かったですけど」

ハッカーが吹き出す。

「逆に宣伝になったと。ま、それもお仕置きの一環っすね」


中村が帰ったあと、執行たちは夕暮れのオフィスで一息ついていた。

ハッカーが「……それにしても、中縞のしおれたと思いきやの逆ギレがなかなかの情けなさだったっすね」と言って缶コーヒーを開ける。

「カメラの死角に逃げ込んでも、こっちの真実の射程に入ってるからやな」

スナイパーが鼻で笑った。

執行は「ばってん、どんなにバレんようにやっても、いつか誰かが気づくもんよ。今回のようなアイツみたいに」と言って椅子を座り直す。

「正義って、気づいたもん勝ちっすかね?」とハッカーが問題提起する。

「違う。正義は……動いたもん勝ちばい!」と執行がつぶやいた。

沈黙の中、蛍光灯の音だけが唸っていた。

——闇の中で光る、もう一つの正義。誰にも知られず、誰かを救うために。

仕置俱楽部は今宵も営業中である。

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は

FILE-02『執行、ニセ募金男を仕置く!』

【PROCESS-A】依頼『小銭じゃ救えん心がある』

というお話です。

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