【PROCESS-A】依頼『小銭じゃ救えん心がある』
『見た感じではとってもいい人。
だが、どうしようもないクソ野郎な《ニセ募金男》。
そのどうしようもなさを暴いてみせて——
仕置いてやりましょう、容赦なく——』
——西新宿にあるとある商店街。
小さな雑貨店の前で、紙袋を胸に抱えた女性が、とても困った顔でうつむいている。
「ふおっふおっふおっ。お若いのどうやらお困りのようじゃな?」
声をかけたのは、どこからともなく現れた、小さな初老の男。黒い山高帽に黒いスーツ、ステッキをくるくる回していかにも怪しいようだが、なぜか不思議と話しかけたくなる雰囲気をまとっていた。
「……え、あの、あなたは……?」
「わしはこの西新宿あたりではジョニーと呼ばれている老いぼれじゃ」
戸惑う女性に、ジョニーという名の男はニヤリと笑う。
「察するにじゃが、そなたは人の優しさを利用したヤツに、さぞかし腹が立っているのじゃろうて?」
「ど、どうしてそれを?」
「そなたの顔にそう書いておる。まあ、わしも歳を取ったもんじゃ。人の表情を見たら、『あ、この人……困っておるのじゃな』と自然と分かるようになってきた。どうじゃ、図星じゃろう?」
女性は今の悩みをこのジョニーという名の男に言うしかないと思い、その詳細を事細かに話した。
「な~るほど。それは理不尽じゃのう。それではいくら悩んでも晴らしきれないぞい。よろしい、このチラシをそなたに進呈しよう」と言って、ジョニーという名の男はチラシ(コンビニの店舗案内と周辺地図が書いてある)を手渡した。
「西新宿のコンビニエンスストア〈エブリデイ〉……ですか?』
「そうじゃ、そこへ行くがよい。言ったらレジも『黒いチョコレートせんべい、こわれたやつ』があるかを聞くのじゃ。そうすれば、しかるべき者たちが話を詳しく聞き、悩み解決となるわけじゃ」
ジョニーという名の男はそう言うと、「ふおっふおっふおっ」と笑いながら背後の自販機の影にスッと消えた。
女性は呆然としつつも、その奇妙な男の言葉を信じようと思った。
数日後——西新宿のコンビニエンスストア〈エブリデイ〉。
女性がチラシを見ながらおそるおそる自動ドアの前に立ち、入店した。
♪ポンピ~ン
「いらっしゃいませ~こんばんは~」レジには屈強な体格の店長・執行がいた。
「えっと……これ、ありますか? 『黒いチョコレートせんべい、こわれたやつ』って」
執行はチラリと女性を見て、静かに口を開いた。
「……こちらへどうぞ」
言うが早いか、カウンター奥の扉を開け、バックヤードへ案内する。
「怖がらなくてよかよ。あんたの心は、ここに届いてるけん」
広いバックヤードの一角——仕置倶楽部のスペース。
執行、スナイパー、そしてハッカーの三人が、依頼者を出迎えた。
「……私、信じてたんです。あの男の言葉を」
名を『早川さとみ』という依頼者は、小さく息を吸い、語り始めた。
「『夏休みの子どもたちに、未来を』『支援の募金をお願いします』って……にこやかで、親切そうで、立て看板も写真も、本物に見えました……でも……」
声が震える。
「でも、全部ウソだったんです。その団体、存在しませんでいた。店頭に立っている募金箱も自作。近所の八百屋さんもクリーニング屋さんも、やられました……」
「金額の話やないとね」と執行がつぶやいた。
「違います。あんなヤツのせいで、本当に困っている人にまで疑いの目が向けられる。私たちが差し出した善意を、ただの小銭扱いされたことが——悔しくてたまらないんです!」
その言葉に、部屋の空気がぴたりと止まった。
「そうね。これは……やるしかないばい」執行の声が静かに響いた。
スナイパーは目を細め、「また悪質な人間広告塔か。人の心を《募金箱》ごと盗むようなヤツに、痛みを教えてやる」と言った。
ハッカーは「ふふん、じゃこっちはネットの海から情報を吊り上げるっす」と言ってノートパソコンを立ち上げながらニヤリと笑う。
「……いい人って、損ばっかです。でも……」
さとみは涙をこらえて微笑んだ。
「誰かが、あの人を止めてくれるなら、私だけじゃない。あの募金箱に、少しでも《気持ち》を入れた人たちのためにも……お願いします」
「奥しゃん、任せときんしゃい!」
「けど、さとみさん、ずいぶん冷静ですね」スナイパーがふと問いかけた。
「普通、怒鳴り込んでくる人も多いけど、あんな詐欺まがいなのにそこまで心を砕くなんて……何かあったんですか?」
さとみは少し迷ったが、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……昔、似たような募金活動を、私もやっていたんです。学生のころ、災害被災地の支援ボランティア。駅前で、大きな声出して、募金を呼び掛けて。そのとき、何人もの人が、わざわざ立ち止まってお金を入れてくれました。小さな子どもが『これで助かる?』って聞いたことも、忘れられません」
彼女の瞳が揺れる。
「だからこそ、許せないんです! あの瞬間を汚すようなヤツが、何事もなかった顔で、善意をかすめ取っていくのが……」
——沈黙が流れた。
ハッカーが小さく、指先をパチンと鳴らす。
「ならば、僕のターゲットも決まったっす。《心を盗むヤツ》には、デジタルの闇でお返しを、ってね」
「どんな募金詐欺でも、ひとつは裏口がある。SNS、動画、レンタル口座、使い回しの団体名……」
ハッカーの目が光る。
「ごちゃごちゃに隠したつもりでも、こっちは回線の裏から全部引っぺがすっす」
スナイパーも立ち上がった。
「俺は現場を押さえるよ。聞くところによれば、そいつ、よく週末に人通りの多い所で活動してっるって話だろ? ま、外見がにこにこ善人でも、中身は悪意のATMじゃあどうしようもないぜ」
「悪意のATM……」さとみがつぶやいた。
「本当にそれです」
執行も立ち上がる。
「標的の名前、怱々に覚えておかないといかんばい」
意気盛んになる仕置俱楽部メンバーに、さとみがふと身を乗り出して小さくつぶやく。
「あのう、ひとつだけお願いがあるんです」
「どげんしたと?」
「倒すとき……その男の目を、見てください。『誰かに見られてる』って、あの人にちゃんと分かってほしいんです。誰かを傷ついたことに、無関心なままじゃ、いけないと思って」
しばしの沈黙のあと——スナイパーがニヤリと笑った。
「任せてくださいよ。仕置俱楽部の目は、値段のつかないものにこそ厳しいんでね」
さとみは「ありがとうございます。そうなんです『小銭じゃ救えない、心がある』のですから」と言った。
「……よし、照準は合ったな」スナイパーが小さく、仕上げのようにつぶやいた。
その瞬間、部屋の空気がピンと張り詰めた。
誰かがやらねばならならない正義を、彼らは今日も名乗らずに果たす。
静かに、確かに。
次回——
FILE-02『執行、ニセ募金男を仕置く!』
【PROCESS-B】調査『募金箱の正体を暴け!』
をお送りいたします。
募金をそのまま自分のものにする。許せまんせんね。
次の調査で、その人物を徹底的に暴きます。




