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『仕置俱楽部』 -Everybody Justice-  作者: 秋月夜雨
FILE-02『執行、ニセ募金男を仕置く!』
5/5

【PROCESS-A】依頼『小銭じゃ救えん心がある』

『見た感じではとってもいい人。

 だが、どうしようもないクソ野郎な《ニセ募金男》。

 そのどうしようもなさを暴いてみせて——

 仕置いてやりましょう、容赦なく——』

——西新宿にあるとある商店街。


小さな雑貨店の前で、紙袋を胸に抱えた女性が、とても困った顔でうつむいている。

「ふおっふおっふおっ。お若いのどうやらお困りのようじゃな?」

声をかけたのは、どこからともなく現れた、小さな初老の男。黒い山高帽に黒いスーツ、ステッキをくるくる回していかにも怪しいようだが、なぜか不思議と話しかけたくなる雰囲気をまとっていた。

「……え、あの、あなたは……?」

「わしはこの西新宿あたりではジョニーと呼ばれている老いぼれじゃ」

戸惑う女性に、ジョニーという名の男はニヤリと笑う。


「察するにじゃが、そなたは人の優しさを利用したヤツに、さぞかし腹が立っているのじゃろうて?」

「ど、どうしてそれを?」

「そなたの顔にそう書いておる。まあ、わしも歳を取ったもんじゃ。人の表情を見たら、『あ、この人……困っておるのじゃな』と自然と分かるようになってきた。どうじゃ、図星じゃろう?」

女性は今の悩みをこのジョニーという名の男に言うしかないと思い、その詳細を事細かに話した。

「な~るほど。それは理不尽じゃのう。それではいくら悩んでも晴らしきれないぞい。よろしい、このチラシをそなたに進呈しよう」と言って、ジョニーという名の男はチラシ(コンビニの店舗案内と周辺地図が書いてある)を手渡した。


「西新宿のコンビニエンスストア〈エブリデイ〉……ですか?』

「そうじゃ、そこへ行くがよい。言ったらレジも『黒いチョコレートせんべい、こわれたやつ』があるかを聞くのじゃ。そうすれば、しかるべき者たちが話を詳しく聞き、悩み解決となるわけじゃ」

ジョニーという名の男はそう言うと、「ふおっふおっふおっ」と笑いながら背後の自販機の影にスッと消えた。

女性は呆然としつつも、その奇妙な男の言葉を信じようと思った。


数日後——西新宿のコンビニエンスストア〈エブリデイ〉。

女性がチラシを見ながらおそるおそる自動ドアの前に立ち、入店した。

♪ポンピ~ン

「いらっしゃいませ~こんばんは~」レジには屈強な体格の店長・執行がいた。


「えっと……これ、ありますか? 『黒いチョコレートせんべい、こわれたやつ』って」

執行はチラリと女性を見て、静かに口を開いた。

「……こちらへどうぞ」

言うが早いか、カウンター奥の扉を開け、バックヤードへ案内する。

「怖がらなくてよかよ。あんたの心は、ここに届いてるけん」


広いバックヤードの一角——仕置倶楽部のスペース。

執行、スナイパー、そしてハッカーの三人が、依頼者を出迎えた。

「……私、信じてたんです。あの男の言葉を」

名を『早川さとみ』という依頼者は、小さく息を吸い、語り始めた。

「『夏休みの子どもたちに、未来を』『支援の募金をお願いします』って……にこやかで、親切そうで、立て看板も写真も、本物に見えました……でも……」

声が震える。

「でも、全部ウソだったんです。その団体、存在しませんでいた。店頭に立っている募金箱も自作。近所の八百屋さんもクリーニング屋さんも、やられました……」

「金額の話やないとね」と執行がつぶやいた。

「違います。あんなヤツのせいで、本当に困っている人にまで疑いの目が向けられる。私たちが差し出した善意を、ただの小銭扱いされたことが——悔しくてたまらないんです!」


その言葉に、部屋の空気がぴたりと止まった。


「そうね。これは……やるしかないばい」執行の声が静かに響いた。

スナイパーは目を細め、「また悪質な人間広告塔か。人の心を《募金箱》ごと盗むようなヤツに、痛みを教えてやる」と言った。

ハッカーは「ふふん、じゃこっちはネットの海から情報を吊り上げるっす」と言ってノートパソコンを立ち上げながらニヤリと笑う。

「……いい人って、損ばっかです。でも……」

さとみは涙をこらえて微笑んだ。

「誰かが、あの人を止めてくれるなら、私だけじゃない。あの募金箱に、少しでも《気持ち》を入れた人たちのためにも……お願いします」


「奥しゃん、任せときんしゃい!」

「けど、さとみさん、ずいぶん冷静ですね」スナイパーがふと問いかけた。

「普通、怒鳴り込んでくる人も多いけど、あんな詐欺まがいなのにそこまで心を砕くなんて……何かあったんですか?」


さとみは少し迷ったが、やがて、ゆっくりと口を開いた。

「……昔、似たような募金活動を、私もやっていたんです。学生のころ、災害被災地の支援ボランティア。駅前で、大きな声出して、募金を呼び掛けて。そのとき、何人もの人が、わざわざ立ち止まってお金を入れてくれました。小さな子どもが『これで助かる?』って聞いたことも、忘れられません」

彼女の瞳が揺れる。

「だからこそ、許せないんです! あの瞬間を汚すようなヤツが、何事もなかった顔で、善意をかすめ取っていくのが……」


——沈黙が流れた。

ハッカーが小さく、指先をパチンと鳴らす。

「ならば、僕のターゲットも決まったっす。《心を盗むヤツ》には、デジタルの闇でお返しを、ってね」

「どんな募金詐欺でも、ひとつは裏口がある。SNS、動画、レンタル口座、使い回しの団体名……」

ハッカーの目が光る。

「ごちゃごちゃに隠したつもりでも、こっちは回線の裏から全部引っぺがすっす」

スナイパーも立ち上がった。

「俺は現場を押さえるよ。聞くところによれば、そいつ、よく週末に人通りの多い所で活動してっるって話だろ? ま、外見がにこにこ善人でも、中身は悪意のATMじゃあどうしようもないぜ」

「悪意のATM……」さとみがつぶやいた。

「本当にそれです」


執行も立ち上がる。

「標的の名前、怱々に覚えておかないといかんばい」

意気盛んになる仕置俱楽部メンバーに、さとみがふと身を乗り出して小さくつぶやく。


「あのう、ひとつだけお願いがあるんです」

「どげんしたと?」

「倒すとき……その男の目を、見てください。『誰かに見られてる』って、あの人にちゃんと分かってほしいんです。誰かを傷ついたことに、無関心なままじゃ、いけないと思って」

しばしの沈黙のあと——スナイパーがニヤリと笑った。

「任せてくださいよ。仕置俱楽部の目は、値段のつかないものにこそ厳しいんでね」

さとみは「ありがとうございます。そうなんです『小銭じゃ救えない、心がある』のですから」と言った。

「……よし、照準は合ったな」スナイパーが小さく、仕上げのようにつぶやいた。

その瞬間、部屋の空気がピンと張り詰めた。

誰かがやらねばならならない正義を、彼らは今日も名乗らずに果たす。

静かに、確かに。

次回——

FILE-02『執行、ニセ募金男を仕置く!』

【PROCESS-B】調査『募金箱の正体を暴け!』

をお送りいたします。


募金をそのまま自分のものにする。許せまんせんね。

次の調査で、その人物を徹底的に暴きます。

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