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『仕置俱楽部』-Everybody Justice-  作者: 秋月夜雨
FILE-04『執行、セクハラ男を容赦なく仕置く!』
12/13

【PROCESS-A】依頼『ジャーキーの裏にある涙』

『安心・安全を謡う大手食品メーカ——ーだが、その内側は腐りきっていた。

 若手社員を狙うセクハラ上司。

 経費を使って私腹を肥やし、日々やりたい放題。

 社会の表と裏を擦り抜けてきたこの男に、ついに裁きのときが訪れる。

 今宵も仕置いてやりましょう、徹底的に——』

真夜中の街に、春だがまだ冷たい風が吹いていた。

ショットバー「NO-RESPECT」のカウンター席で、グラスを手にした一人の若い女性がいた。

真っ赤に晴れた目、乱れたメイク、擦れた声。


彼女の名は——真木しおり、25歳。

大手食品メーカー《リョウサンフーズ》に入社して3年目の総務部にいる社員だ。


「もう……嫌……やめたい」

しおりは震える手でグラスを煽る。

中身は濃いめのストレートのウイスキー。

すでに5杯目だ。


彼女は、大きな夢と希望を持って入社した。

大学時代は食品化学を学び、開発職につくことを志望していた。面接で「現場で消費者の声を反映させたい」と熱く語った。


なのに——配属されたのは、総務部。


しかも上司は、あの喜代端部長だ。

「……どうして? 面接のときはあんなに優しかったのに」

——喜代端(きよはし)裕善(ひろよし)。50代半ば。

見た目は温厚、物腰は柔らかく、上層部からの信頼も厚い。だがその実態は、《オフィスの帝王》と陰で恐れられるセクハラ・パワハラ常習犯だった。


配属初日から、しおりはその標的となった。

「お茶汲みの角度が足りないねえ」

「若いんだから、もうちょっとスカート短くてもいいんじゃない?」

「君の資料、ちょっと夜に二人だけでじっくり読んでみようかなあ」

とあるが——誰も助けてくれなかった。


ランチ休憩から戻ると、自分の椅子が妙に机に近づけられていて、腰を下ろすとすぐに背後から、「しおりちゃん、肩、凝ってない?」と囁かれながら揉まれることもあった。

会議では必ず隣の席に座り、膝やひじが偶然当たる回数がやたらと多い。

エレベーターでは、混んでもいないのにわざわざ密着して立ち、「香水、変えた?」などと耳元で囁くキモさ満載である。


それは小さな違和感の積み重ねではなく、確信犯的な侵入だった。


抗議すれば——「君が誤解しているんじゃないか?」とさらに詰め寄られる。

告発しようとすれば——「部長の私を敵に回す気かい?」と暗に脅される。


社員同士の会話はいつもピリピリしていて、誰も口を開かない。それどころか、しおりが席を外すとヒソヒソ話が聞こえてくる始末。

(逃げたい。でも、もう戻れない……)——しおりは限界だった。


そんな逃げられない状況を酒で誤魔化そうと、今夜もこのバーに来た。

それが、彼女の小さな逃げ場所だった。


そこに——「……ふおっふおっふおっ。お嬢さん。悩める子羊とは、そなたのことを言っておるのじゃのう」という渋く枯れた声が横から届く。

カウンターの隣にいつの間にか初老の老人が、グラスを片手に微笑んでいた。山高帽をちょこんとのせ、黒いスーツを纏った小柄な人の良さそうな顔。だが、その瞳は鋭く光っていた。

「あなたは、誰ですか?」

「ただの酔っぱらいじゃよ。まあ、人はジョニーと呼んでいるようじゃが」

ジョニーという名の男は、そう言ってグラスの赤ワインをグイっと飲んだ。


「そなた、見て分かるが、好きでもないキモい上司に日々セクハラをされて困ってる……と顔に書いておる」

「ど、どうしてそれを」

しおりは慌てて涙を拭き、服を整える。

「ふおっふおっふおっ。じゃから顔に書いておると言っておるじゃろうて」

「は……はい。その通りです。せっかくあこがれの会社に入ったというのに、希望する部署にはすぐには入れないとは分かっていても、どうして私ばかりあんな上司にセクハラばかりされるのだろうかと……これがもう2年以上続いてて……私、どうしたら……」


「そうかそうか。そなたも大変な毎日じゃのう。よろしい。そなたの悩みにピッタリなところを教えて進ぜよう」

ジョニーという名の男はそう言って、しおりにA4サイズのチラシを手渡した。

「西新宿のコンビニエンスストア〈エブリデイ〉? コンビニが何を?」

「そこのコンビニはただのものじゃない」

「……そんな、コンビニで人生変えられるわけないでしょ」

「ふむ。では聞こう。そなた、今の人生が変わらん方が良いと言えるのじゃな?」


しおりは答えられなかった。


「まあ、騙されたと思って行ってみなされ。その際にレジの女の子に『国産ビーフジャーキー、辛口ありますか?』と聞いてみるのじゃ。そうすれば、そなたの人生の扉が開く」

「ではのう、ふおっふおっふおっ」と笑いながら、ジョニーという名の男はワインを飲み干して店を出ていった。


——翌日。

しおりは会社の休憩時間に、コンビニエンスストア〈エブリデイ〉という店の場所をスマホで調べていた。サイトによると小さな個人経営のコンビニ。何の変哲もない。でも、なぜか、気になって仕方がなかった。


昼休みが終わって、総務部に戻ると、例のあの男が待っていた。

「おかえり、しおりちゃん。あのさあ、ちょっとこの資料、部長室まで持ってきてくれないかなあ?」

その笑顔。その声。その目線——それが全身に拒絶を走らせた。

「無理です!」しおりは初めて、大声を出した。

周囲の空気が凍る。


喜代端は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐにニヤついた。

「……君さぁ、自分の立場、分かってるの?」

しおりは無言で立ち去った。

背後でざわざわと誰かが話していた。


——その夜。しおりはコンビニエンスストア〈エブリデイ〉の前に立っていた。

年季が入っているのか古びたガラス自動扉。

ガラスには様々なアーティストのライブチケットの案内のポスターが貼っている。


意を決して入り、中へ入る。


♪ポンピ~ン

「しゃせ~こんばんは!」

最近はルナがレジになっている(同時に仕置俱楽部の依頼の窓口でもある)。

「……あの~ビ、ビーフジャーキー……をください」

「ふ~ん、どの味を?」


(このまま潰れるより、イチかバチか。信じてみよう。ジョニーという人の言葉を)


「辛口で!」

「国産ですかあ? それとも海外産ですかあ?」

「国産のビーフジャーキー、辛口をください!」

ここまで言うのもしおりにとって、とても勇気のいることだろう。


レジ係のルナはニコッと笑ってゆっくりとうなずき、「かしこまり~では、バックヤードまでどうぞ~」としおりをエスコートした。

ルナはさらに、「あのバックヤードの先に、本当につらい現実をコテンパンに打ち砕く者たちがいますよ~。その名も仕置俱楽部」と案内。


バタン。


奥のバックヤードの扉が開いた。中は薄暗く、商品の在庫や巨大冷蔵庫などがあるのを通る。しおりは迷わず、先へと足を踏み入れた。


——ここからすべてが変わる。

彼女の苦しみも怒りも、その涙さえも、これから会う者たちに託されるのだ。


そして、再び夜が動き出す。

仕置俱楽部の、静かなる《裁き》のときが——迫っていた。

次回は、

FILE-04『執行、セクハラ男を容赦なく仕置く!』

【PROCESS-B】調査

『見せてもらおうか、そのセクハラ男の愚劣な実態を』

を投稿します。


書いていて、私も身の毛がよだつほどキモいと思いますが……ま、まあもうそんな人はいないと信じたいですが……いるんでしょうなあ。

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