ルナの卒業
今回は、番外編……
美人局集団の囚われの身だったルナが、晴れて卒業し、仕置俱楽部に加入するまでのお話。
春の風が、街のあちこちに咲くチューリップを静かに揺らしていた。
「……なんか、あっけなかったなあ」ルナがつぶやいた。
卒業式は、ついさっき終わった。
体育館での答辞は形式的で、写真撮影はクラスメイトのほとんどがSNS用に夢中だった。
でも、ルナにはその輪に加わる気にはなれなかった。
(そもそも、あたし……ちゃんと高校生活送ったっていえるかな)
新宿の夜の底で過ごした数カ月。石動善治という男に利用され、心も身体もすり減らすような日々を送っていた。あのとき助けてくれた仕置俱楽部がいなければ、今ここに立ってなどいなかったはずだ。
手にした卒業証書の筒を抱きしめる。
『証』というには、あまりにも軽い。けれど、自分の人生にとっては重みのある一歩だった。
そこへ、背後からひょっこり現れたのは黒いスーツに赤シャツ、白いネクタイのスナイパーだった。
「卒業、おめでとうさん!」
ルナは驚きと同時に、ふわっと笑みを浮かべた。
「え、なんでここに? 尾行……?」
「いやいや、今日は『保護者』としてお祝いにしに来たんよ……で、その『本題』も兼ねて、ね」
スナイパーはそう言って、手にした紙袋を差し出す。中には、安物ではなさそうな黒のパーカー。
「これは?」
「ようこそ、仕置俱楽部へ。これが制服みたいなものさ。ウチへの入部祝いってところかな」
「え、あたし……正式に入っていいの?」
「そりゃあ、あの件で大活躍したろ。ジョニーさんも執行さんも、俺もハッカーも全員一致で満場可決よ」
「……!」
風がまた吹き、卒業証書の筒がコトリと鳴った。
ルナは小さくうなずき、「……やる。あたし、ちゃんと誰かの力になりたい。今度は自分の意思で、誰かを守るために動きたい」と言った。
「それでこそ、仕置俱楽部のメンバーやな」スナイパーが手を差し出す。
ルナもそれをしっかりと握り返した。
「ところで……ルナの学校女子校やったんやな。めちゃかわいい子ばっかやん」
「それは知らん!」ルナは握った手を振り払った。
——数日後の夜。
西新宿のコンビニエンスストア〈エブリデイ〉内の仕置俱楽部のスペース。
ルナは新メンバーとして、四人目の椅子に座っていた。
「なんか……まだ信じられないっていうか」
「ルナ、肩の力は抜いてやるっす」
ハッカーがカップラーメンをすすりながら言う。
「でも、指示はちゃんと聞いてくださいっす。現場は命がけだから、独りよがりな行動は禁物っすよ」
「ルナは過去のことを聞いたが、全国の弁論大会で優勝するほどの実力があるたいね。それだけの実力があれば肝も座っとるけん。実際にはスナイパーと潜入をしてもらうことになるやもしれんばい」
執行がいつものようにプロレス雑誌を読みながら言った。
「あたし、分からないことだらけだけど……がんばる!」
「潜入はハッカーの言うように命がけだから。でも、信じて。俺たち三人がそばに絶対にいるから。何かあったら助けを求めていいからな」
「……あたし、誰かに助けてもらうことなかったから、うれしいかも」
ルナは生まれて初めて人の温かさを知ったのだろう。感慨深いものがあった。
「ようし! じゃあ、ルナの初任務いってみようか!」
スナイパーがルナに書類を手渡す。
そこには、さっきジョニーという名の男から送られてきたある女性のプロフィールと手書きの手紙が挟まっていた。
《依頼者:真木しおり(23歳)》
《職業:大手食品メーカー・総務部3年目社員》
《内容:職場のセクハラおよび配置差別について》
「食品メーカー……あれ? この社名ってよくCMでよく見る……」
「そうたい。日本中でおなじみの大手さんばい」
「でもその裏では、こんな腐った上司がおるってことっす」
「特に問題なのがこの人物……総務部長・喜代端裕善。表では温厚な管理職。裏では……」
ハッカーが画面を切り替える。
そこには社内のパワハラ報告書らしき資料の写し、そして匿名掲示板の暴露投稿が並ぶ。
《部長にだけは近づくな。気に入られたら最後》
《配属希望ガン無視で総務。女の子はお茶係》
《クラブ接待費を経費で落としまくってるの、社内じゃ有名》
「こんなヤツ、ワシらの手でビシッと成敗せんといかんばい」
——ルナ。初任務・潜入捜査役。
「うわっ……潜入捜査ってもう、本格的なヤツじゃん」
「ルナ、ここからが本番っすよ。心してかからんと返り討ちにあうっす」
「みなしゃん、よかね? 今回もいっちょ、いくばいよ~」
執行が立ち上がる。ルナは少し緊張しながらも、しっかりとうなずいた。
仕置俱楽部は新たな咎へと向かって動き出す。
この春、四人になった正義のチームが——また一人の悪を裁くために。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回は、
FILE-04『執行、セクハラ男を容赦なく仕置く!』
【PROCESS-A】依頼『ジャーキーの裏にある涙』
上司の力を利用してセクハラし放題の男をやっつけます。




