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『仕置俱楽部』-Everybody Justice-  作者: 秋月夜雨
FILE-03『執行、とんでもなく容赦ない美人局を仕置く!』
10/12

【PROCESS-C】仕置「美人局野郎ども、成敗のときば~い!」

「さあさあ。今回は美人局集団をやっつけるば~い!」と執行が言っています。

「……そんじゃ、行ってきまーす」

スナイパーが黒いポタンシャツのボタンを弛めて、鏡の前で髪の毛を整えながらウインクを飛ばして出ていく準備をしていた。

「これこれは、ナルシスト様」とハッカーが茶々を入れる。

「アホ。これは演技ってヤツだよ、演技!」

スナイパーは言いながら、トレードマークの赤いジャケットを羽織ると、ポケットにマイク型の小型カメラを忍ばせる。


ハッカーが、「ターゲット、すでに店に入っているっす。今夜も先発登板らしいっす」とモニター越しに状況を伝える。

「お客役を演じて、例のシャワータイムに持ち込む。万が一のときは僕たちが出動するからご安心を。合図は《桃割れ》っすよ!」

「ハッカー……桃、好きたいねえ」執行は呆れ気味だった。


夜の新宿に、『シークレット・ピーチ』のネオンサインが柔らかく輝いていた。

待ち合わせはお店の近くの喫茶店でということで、スナイパーは少しの緊張と不安が交互に入り乱れていた。


——だが、これからの時間は、大きな罠が口を開けて待っている。

あらかじめハッカーがネットでルナを指名していて、『赤のギンガムチェックのスカートを履いて来ます』とのメッセージが来ていた。


スナイパーはアイスコーヒーをすすりながら待っていると、ルナが現れた。

「こんばんは……今日のお客さん、優しそう」

ふわりとした制服コス。茶髪でギャル系のメイク——けれど、その目が笑っていない。

(うわっ、この子がルナちゃん? まじでかわいい。この女の子!)


スナイパーはルナの美貌にうっとりしそうになるが、はっとわれに返る。


——これは、仕置だ。


「はじめまして。ルナちゃん。カフェよりホテル派なんだよねえ?」

スナイパーが柔らかく聞くと、ルナは一瞬だけ、目を伏せた。

「うん……そうね。いつも、そっちの方が『効率』いいから」

ルナの言葉で、スナイパーの胸に微かに痛みが走った。


(これは仕事だ。情に流されたら、彼女の芝居と変わらなくなる)

スナイパーは感情を押し殺し、演技に徹した。

それは、彼女が口にするにはあまりに冷たい単語だった。



移動してホテルの一室。

ルナは笑顔を作りながら、スナイパーをバスルームへ促す。

「じゃ、シャワー浴びてきて?」

「もちろんだよ」スナイパーはポケットから財布を取り出し、テーブルの上にわざとらしく置いた。

ルナは一瞬、視線を落とす。


——そのわずかな目の動きに、スナイパーは確信した。


スナイパーはバスルームに入り、シャワー浴びた風にお湯を流した。

カメラがとらえたのは、ルナがそっと財布に手を伸ばした瞬間——。


「……ルナちゃん、その財布には一円も入っていないよ?」浴室から響いた。

「……っ!」ルナの肩が大きく跳ねた。


その直後——ドアがけ破られるように開き、二人の大男がなだれ込む。

「てめえ、盗み見たな?」

「こっちにも被害届出せんだぞ? 示談にしろや!」


——まさに美人局の定型台詞。

そのうちの一人——刺青混じりの虎沼が、スナイパーの胸ぐらを掴む。

「おお? 女の子が困ってんだろ? しかもお金を持っていないとはどういうことだ? ナメたまねをしているなら、痛い目に遭ってもらおうか?」


スナイパーは平静を装っている(しかし、こんな大男が圧力をかけてきているのでビビッていない訳がない……本当は失神してしまいそうだ)。


虎沼がスナイパーを殴ろうとした、次の瞬間——。

「はいはい、みなしゃ~ん、そこでストップば~い」

ドアの外から気の抜けた声と共に、白い半袖Tシャツにジーンズ姿の影がスッと入り込む。

「お、おい、なんだお前……うぐっ!」

大男のうち一人が言葉を終える間もなく、執行の一撃必殺!『筋肉隆々エルボー』が顎に炸裂する。


その一瞬の出来事に、虎沼がうろたえるが、「お、お前よくも、よくもオレの仲間を~」とバタフライナイフをスッと出して構えた。

「お兄ちゃ~ん、そんな物騒なものを出してはいかんばい♡ 貴様はもうすぐワシにこの右手二本指で倒されるんだからじっとしとってぇ」と執行はいつになくかわいく囁く。

「な、なんだと! お前ナメてんのか」と虎沼が執行に向かって突進してきたが……執行の動きが断然速かった。右手をピースサインに変え、その二本指が虎沼の両眼にクリーンヒットする。

「うぐぅ」虎沼はあっけなく崩れ落ちる。

「ね。だから言ったばい。貴様はワシに瞬殺されるって♡」

「うわ~ん! おかあちゃ~ん……痛いよう、つらいよう」


悪党の二人は苦痛でじたばたし、大人げなく泣き叫びながら執行たちに許しを乞う。


その一部始終を見ていたルナはベットの隅にうずくまり、呆然とそれを見ていた。

「え、なに……あんたたち、誰?」

「こんにちは、ルナさん。お初にお目にかかりますばい。われらは仕置俱楽部ばい」

執行が軽くお辞儀をする。

「え? なんであたしの名前を?」ルナは目をぱちぱちさせる。

「詳しいことは、また後にするばい。今から、あんたのお店に突入して、お店ごとぶっ潰すことにするけん!」


——直後、シークレット・ピーチに突入。

「システム全部、今ハッキング中っす。桃の缶詰に毒仕込んだ甲斐あったっすわ」

ハッカーは端末を操作しながら、バックヤードの裏金データを逐次抽出した。

石動善治のLINE履歴から、ルナへの脅迫文面が多数確認された。


《辞めたらネットにバラすぞ、写真あるからな》

《分かってんだろうな。お前は俺の言うことを聞いていればいいんだ》

《やらなきゃ路上行きだぞ》


「うわわ……こんなの、表に出せんくらいの証拠ばい。ルナしゃん、あんたよう耐えとったたい」

執行が吐き捨てるように、ルナには同情を込めて言った。

直後、警報が鳴り響く。


店舗スタッフたちが裏口から逃げるようとしたが——。

「はい、そこでお縄だ」スナイパーが冷却ガススプレーを撒き、非常口を封鎖。

「行政ホットラインへ正義のログ送信っと……桃缶、お届け完了っす♪」

屈強なスタッフ数名が「ああああ……たすけてぇ~」と泣き叫びながらうずくまる中、最後に現れたのは石動善治だった。

「おい、お前ら、何者だ!」

「おっと、ここでラスボスのお出ましたいね。しかしねえ石動ちゃん、立場を忘れとらんか? 貴様が《桃泥棒》の頭って、しっかりデータに残っとるばい」


執行が一歩前に出る。

「その子らを商品にして、金稼ぎして、壊れたら捨てる……その罪、数字じゃ割り切れんばい!」


石動が逃げようと身を翻した瞬間、執行の柔道技・内股が入り、あっけなく床へ落ちた。そうして、抑え込みに入り、直接、頸動脈洞を圧迫し、そして頸動脈反射を起こし、脳に酸素が行き届かないようにした(これを、頸動脈洞性失神という)。

石動は意外と弱かった。投げ技からの抑え込みにより口から泡が吹くほど失神した、


その夜、シークレット・ピーチは行政指導と警察介入によって即閉店。

系列店舗や親会社も芋づる式に摘発された。

「……ほんとに、全部……終わったの?」

ルナが、廃屋になったビルの屋上でつぶやく。

「いや、これは始まりばい」執行が隣に立つ。

スナイパーがそっと、「ルナちゃん、終わったんじゃない。君の人生は、これから名前のある道になるんよ」と言う。

「でも……あたし、どこにも行く場所がなくて」

「あるさ」ハッカーが笑う。


こうして、ルナは——紹介されたジョニーという名の男のもとへ。

「ふおっふおっふおっ。まあ座りなされ。ルナちゃんというやら。人生というものはの、遠回りしたほうが実はおいしいところもあるんじゃよ」


「……あたし、高校生なんです。でも、最近訳あって行けてなくて。あたし、両親がどこにいるかも分からないんです。失踪ってやつで。だから、高校にも行かず新宿でフラフラしていたら、石動に呼び止められて。アイツ、最初は優しかったんです。でもだんだん荒々しくなって。ひどいこともされました。あたしの人生、終わったかなと思ったんですけど、みなさんが助けてくれて。本当にありがとうございます。あたし、本当は高校行ってちゃんと卒業したいんです」


「ふむふむ。そなたは大変なことを経験したんじゃのう。ようし! いいじゃろう! わしらが仕置俱楽部が全面的に卒業までをバックアップするぞい。高校くらいはちゃんと出ておきなさい。学費が滞納しているのなら、わしが出そう。ちゃんと高校卒業のためにうんと勉強しなされ。ただしじゃ……」


「ただし……何ですか?」

「その代わり、このコンビニ〈エブリデイ〉でレジ係でバイトをしなさい。そうして、晴れて卒業したら……仕置俱楽部の一員になってもらうぞい!」


ルナはぽか~んとしたあと、静かに涙を浮かべて、そして確かにうなずいた。



——夜、仕置俱楽部のスペースにて。

「しかし、今回もスッキリ決まったっすね!」

「うむ。ばってん、この手の案件は桃案件だけじゃなく、氷山の一角やけんな」

スナイパーが伸びをしながら(あ、そろそろ執行さんのアレが始まるぞ)とつぶやいた。

「悪い者は、この仕置倶楽部がコテンパンにやっつけるばい!」

(ん? そしてそして……?)

「シャキーーーン!」

執行は拳を上げて勝利のポーズ(古くさい)。

「出た出た、決まり文句!」とハッカー。


「今日は、ルナちゃんが初めて聞くから『ー』が2つほど多かったですね。はいはい。お疲れさまでした~」とスナイパーは呆れている。


「ねえねえ、おじさん、どこの出身の人?」とルナが不思議そうに話す。

「ワシは地元を愛する福岡県民・バリバリの博多っ子ばい!」

ルナがそれを聞いて、「……ちょ~新鮮! なんかイイかも♡」と手を組む。

「え?」


今回も仕置俱楽部の夜は静かに幕を下ろした。

次なる《咎》が、また夜の街のどこかで育っていることを、彼らは知っていた。

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は、小休止。

EX-FILE『ルナ、高校卒業。そして仕置俱楽部に加入する』

番外編をお送りします。

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