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第63話『教祖ロニ・ラヴ』

しばらくユエ視点が続きます


「――そういうわけには、いかない」


 そう、わたしはあの赤コートの男と、もう一度合間見えないといけなくなった。

 わたしが赤コートに騙されていたと気付いたのは、それから数日後のことだった。


 センパイから学園関係者について、調査に協力するように頼まれて3日。調査の結果、完全な骨折り損であったことが発覚した。

 センパイたちの力になれなかったという無力感――それは想像以上にわたしに重くのしかかった。


 魔獣化の後遺症が少し残っていたのだろう。その無力感をきっかけに、例の不安感と孤独感が蘇ってきた。

 わたしはそれに耐えられなかった。センパイと顔を合わせるのも気まずかったわたしは、赤コートに渡されたミサンガのことを思い出し――


「――栄光、あれ」


 その直後、わたしの意識はグチャグチャになった。

 不安感とか孤独感なんて通り越して、憤怒、絶望、焦燥、復讐心……色んなものがごちゃ混ぜになった「何か」がわたしを支配した。


 混乱と錯乱と狂乱――その末に、わたしは無意識に呟いていた。



「マグダラ教会に、栄光、あれ……」



 ミサンガはいつの間にか姿を変え、赤と黒という不気味な配色のスズメバチのような虫に変化していた。

 だが、その時のわたしにとってそんな事はどうでもよかった。まるで、最初からそうなることがわかってたみたいに。


 わたしの意識がハッキリとしたのは、その翌日の夕方。

 保健室のベッドの上で、そのすぐ側では九頭龍センパイがわたしのことを見守っていてくれていた。


――つまり、図書室での一件の直後。


 そこでわたしは知った。

 わたしにかけられたアレが、何かしらの洗脳だったこと。

 あの赤コートがマグダラ教会の手先だったこと。

 その口車に乗せられていたこと。

 その結果、わたしが色んな人を傷つけたこと。


 なんてわたしは馬鹿なんだ。色んな人に迷惑をかけて、そのせいで思い悩んで、その結果また迷惑をかけた。

 自分で自分が許せない。わたしの傲慢は善い罪? 神様は赦してくれる? そんなわけがない。わたしはどうしようもない極悪人だ。


 こんな極悪人を赦すとしたら。

 それどころか歓迎さえするとしたら。


「マグダラ教会……!」


 責任転嫁するつもりはない。わたしがやってしまった事に関してはわたしが悪い。

 ただ、それ以上に許せない奴らがいる。自分たちの吐き気のする罪を、都合のいい主張で赦されるものにしようとしてる外道がいる。


 許せない。絶対に許さない。でも、これ以上わたしには何もできない。

 もしかしたら、またセンパイを危険な目に遭わせてしまうかもしれないから。それが悔しい。わたしはシーツを握りしめて己の無力さを恨んだ。


「センパイ……教えて、ください……最高の復讐って、何なんですか? わたしがなにもしないのが、最高なん、ですか? わたしは……」


 何もできない。

 何もしちゃいけない。

 けど何かしていたい。

 力になりたい。

 それでも、何をしても無駄なんて。


「わたしは、どうすればいい、の……?」




『――簡単なことですよ。アナタの成したい事を成せば良い』




「――ッ!?」


 いま、声がした……!? しかも間違いなく、あの赤コートの男の声! あの骸骨みたいな凶相が目に浮かぶようだ!

 どこから!? どうやって!? 殺す! 殺す殺す殺す!!


『クハハッ、相変わらず心地の良い殺気ですねぇ』


「どこ! 出てこい!!」


『出てくるも何も。血戦技能ブラッド・スキルの残滓を通して、脳内に直接語りかけていますので』


 そんな馬鹿な。ここは何重にも結界が貼ってあるし、物理的に近付くのだってできないはず。

 洗脳だってセンパイや医療魔術師が解いたのに。どうしてまだ……!?

 

『ただの魔法や呪術で完璧に取り払えるほど、ワタシの能力はヤワではありませんので。まぁ、洗脳自体があれほどアッサリ解除されるとは思いませんでしたがねぇ』


「何が、目的……! お前は誰だ……!!」


『そういえば名乗っていませんでしたね。ワタシの名はロニ・ラヴ。マグダラ教会の……なんと教祖! トップですよ!」


「……ッ!?」


『ククッ……宿敵と呑気にお喋りしてたと知ったご感想はぁ? クハハハハッ!!』


「教祖……お前が……お前の……お前のせいでぇぇぇぇぇッ!! 殺す!! 殺してやる!! 今すぐ! ズタズタに引き裂いて! 脳ミソ全部抉り出してやるッッッ!!」


『クハハッ……アハハハハハッ!! いいですねぇ! 実際にこうして怨嗟の叫びを聞くと、何とも形容しがたい快感ッ!! いやはや素晴らしいッ! アハッ、ハハハハッ!!』


 教祖の笑い声を聞くたび、わたしの細胞ひとつひとつが沸騰するような感覚を覚える。

 その不快な声を発する喉を引き裂いてやりたい。醜悪な骸骨面を叩き潰してやりたい。殺すだけじゃ足りない! もっと、もっと、もっと――!!


『ワタシを殺したいですかぁ? 殺したいですよねぇ! この3年間ワタシを殺すためだけに費やしてきたんですからねぇ!! ……その健闘を讃え、アナタにそのチャンスを差し上げましょう!』


「……! ぐっ……!?」


 教祖の声が頭に響いた直後、わたしの脳内に強烈に「何か」のイメージが刻み込まれた。

 ガツンと一気に叩き込まれた情報を、少しずつ整理しながら紐解くと――それは「ある場所」を指していた。


『それが我々マグダラ教会の本拠地……と、そこまでの道筋です。罠だと思うのならご自由に。ククッ……いつでも待っていますよ?』


 教祖は「そうそう」と付け加え、


『来るなら1人で来ること。先に言っておきますと、この血戦技能ブラッド・スキルの残滓を通していつでもアナタを監視できますからね? もし1人で来なかった場合……アナタのお友達の無事は保証できません』


「ッ! センパイ達に手を出すなッ!!」


『それはアナタの行動次第です。我々の力を持ってすれば、アナタのお友達など簡単に始末できることをお忘れなきよう……』


「……ッ、わかった、お前を殺すなら、わたし1人で十分だ……!」


『よろしい。あぁ、それともう1つ。我々の本拠地は禁域にありますから、身の危険は保証しませんよ。辿り着く前に魔物に殺された、なんてオチは……クハハハッ! それはそれで何とも愉快ですがねぇ!!』


「……ッ!!」


『ガッカリさせないでくださいね、悲劇の復讐者気取りのお嬢さん。ククッ……アハハハハハッ!!』


「……ロニ・ラヴゥゥゥゥゥ!!」


 ロニの笑い声を塗りつぶすように叫んだ。

 そして病室から笑い声が消えた直後、わたしはベッドから降りて立ち上がった。


 罠かどうかなんてどうでもいい。罠だったら罠ごと踏み潰せばいいだけだ。

 あちらから復讐の機会を与えてくれるなら好都合。お望み通りお前を■■してやる!


 首を洗って待ってろ、ロニ・ラヴ――!!



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