第61話『有言実行』
啖呵を切った俺に、マグダラ教徒たちは覆面の奥で嘲るような笑いをこぼした。
「おいおい……たかが学生のくせに随分と威勢がいいじゃないか」
「その威勢がいつまで続くか見ものだな!」
3人が一斉に発砲。サブマシンガンから放たれるのはもちろん解魔加工の弾丸だ。
俺はそれらを躱すこともなく、全身を貫かれながら特攻する。俺にとってこんなものは何のダメージにもならない。
「こいつ――!?」
「まずは1人」
マグダラ教徒の1人の懐に入り込み、顎をかすめるように拳を放つ。
脳を揺らされ男はたまらずダウン。それを見届けることもなく、隣の男へと襲いかかる。そいつは慌てたように銃口を俺に向けるが、もう遅い。
向けられた銃口を素手で掴んでから、振動魔法で銃そのものを破壊。そのまま回し蹴りで男の横っ面を蹴り飛ばす。
「がぁッ!?」
「2人目」
「クソ! このガキ!!」
最後の1人はヤケになったように銃を乱射した。
しかしそんなロクに狙いも定めていない弾が当たるはずもなく、俺に掠りもしないまま弾切れを迎えた。
「3人目」
「ひ……ぎゃあッ!」
そいつの頭を鷲掴み、隣の壁に顔面を叩きつける。男はピクリとも動かなくなった。
わずか10秒ほどの戦闘……いや、蹂躙。苦戦するどころか傷一つ負うことがなかった。
だからこそ、確信が持てる。
「お前ら、何企んでやがる……?」
わざわざ俺をおびき寄せといてコレで終わり? そんなわけがない。この程度は俺じゃなくても圧勝できる。
なんで俺を対象に絞っておいて、この程度の戦闘力の3人しか配置しない?
「く、はは、ははははっ……察しがいいな」
俺が倒したはずの男たちが、笑いながらのそりと起き上がる。ただの当て身では倒しきれなかったか。
それともさっきまでは全く本気じゃなかったのか。
「我々の目的は時間稼ぎ。そのための手段は選ばん……それが凡百の雑魚の演技だろうとな」
「オレたちをただの雑魚だと思って手を緩めたな? だがオレたちはまだピンピンしてる……ククッ、これで二度手間だな」
「……みみっちい真似しやがって」
「その積み重ねが時間稼ぎの真髄だぜ? ヒヒッ」
確かに俺はこいつらがただの雑魚だと思って、必要最低限の攻撃しかしなかった。再起不能にしては尋問ができないからだ。
しかし、どうやらこいつらは少々タフだったようだ。それでも雑魚なことに変わりはないが……時間を稼ぐだけなら雑魚でもできないことはない。
俺はユエちゃんを見つける重要な手がかりであるこいつらを殺さない。
そこを突けば、圧倒的な実力差があっても仕事はできるのだ。嫌らしい作戦だ。
「勝負はここからだ、九頭龍巳禄……お前の弱みには徹底的に付け込ませてもらうぞ!」
「名前から何から全部調査済みってわけかよ。めんどくせえな……!」
しかもこいつら、洗脳されてるにしては人間味がある。似たような発言をしてるでもなく、普通に会話しているのだ。
全員があのサイボーグ野郎と同じく、素でマグダラ教徒だ。もしかするとこいつらも――
「死ね!」
1人がそう叫んだと同時に、そいつの腕に変化が訪れる。
その皮膚を突き破って姿を現したのは、機械のパーツ。それが腕全体を覆い、巨大な機関銃の腕となった。
「斉射ァ!!」
「やっぱりこいつらもサイボーグかよ……! どうなってんだよマグダラの科学力は!?」
周囲の塀や壁を飛び移りながら弾丸を躱す。あれだけ俺の対策をしてると言ったんだから、この弾丸に何か仕掛けがあってもおかしくない。
するとほかの2人も同じように機械の腕を展開し、弾幕はさらに濃くなった。こうなると弾切れを狙うのにも時間がかかる。
「こうなりゃこっちも手段は選ばねえ! 半魔獣化――フェーズ1!」
背中からは蛇が1匹。蛇の数が増えれば増えるほど強化される俺にとっては最小限の半魔獣化。
フェーズ2以降に比べると制圧に時間がかかるが、フェーズ1でないとこいつらを殺してしまい、尋問ができなくなってしまう。つまりこれが最善。
蛇の口から腐食毒のガスを散布させる。奴らのサイボーグ部分を無力化する狙いだ。
同時に弾丸も無効化できないかと思ったが、この状態では最大出力にしても無理なようだ。
「クソ……結局持久戦になるか……!」
弾丸を警戒していると下手に接近もできない。ダメ元でごり押ししてみるのもアリか? ……いや、それで余計に時間がかかったら本末転倒だ。
そうなるとこっちも魔法で撃ち合うしかない。
「《ヘファイス》――十重詠唱!」
鋼魔法によって槍を大量に錬成し、それを強化魔法と振動魔法で補強。回転を加えながら射出する。
威力は申し分なく、槍が着弾した地面が肌に瓦礫を巻き上げながら崩れた。
槍の威力の高さを目の当たりにした男たちは、槍を回避しようとして銃撃の手を少し緩める。
今がチャンスだ。俺は槍を引き続き射出しながら男たちに急接近する。
「もう手加減なしだ! 寝てろゴミが!!」
「ぐあぁッ!」
一番近くにいた男の機関銃を振動魔法で破壊し、顔面に強化した拳を3発。気絶したそいつを別の男に投げつける。
一瞬怯んだところに、さっきと同じように強化魔法と振動魔法を乗せた回し蹴りをお見舞いしてやった。
これで2人一気にKOだ。今度はしばらく再起不能だろう。
「あと1人――ぐっ!?」
と振り向いたところで、大量の弾丸をモロに浴びてしまった。舌打ちをしながら再生しようとする。
が、明らかに再生が遅い。何事かと傷口を確認すると――傷口に埋まった弾丸から、ツタのようなものが伸びて再生を妨害していた。
「おいおい、木魔法使えるなんて聞いてねえぞ……!」
木魔法は物質界において、雷魔法と並んで扱える者の少ない魔法だ。
後者と違うのは、魔法界では割とメジャーな魔法だということ。つまりこいつは――
「やっぱりお前ら、魔法界人だな……?」
「ククッ、バレては仕方ない。ああそうだとも、我々は魔法界の民だ。……《ジュレイグ》」
男がそう唱えると、俺に絡みついていたツタがさらに強靭になり、俺の動きそのものを妨害し始めた。
対策ってこういうことかよ。確かに俺は再生力なら飛び抜けてるし、どれだけ傷を合わせても無意味だ。
しかし動きを封じることはできる。全身を縛り付けてしまえば再生力など無意味なのだ。これが俺の唯一弱点だ。
「気分はどうだ? 雑魚と侮った相手に手も足もでなくなるのは」
「……」
「クハハッ、羞恥と後悔で言葉も出ないか! ああ、そうだろうとも。これは貴様の油断と慢心が招いた結果なのだからな! 無様にも程があるものなぁ! クハハハハッ!!」
男は勝ち誇ったように高笑いした。
それに対し、俺は肩と拳を震わせながら男に睨みつける。
「お前らは何がしたいんだよ……! 何が魔法界の排斥だ! なんで反魔法界組織の中枢に魔法界人がいるんだよ! 何が目的だ!」
「……フン、そんなもの教えるわけがないだろう? お前はそこで這いつくばって全てが終わるのを見ていればいい! それが敗者の末路だ!」
男は地面に這いつくばった俺を踏みつけながら、下卑た笑いを浮かべた。
俺はそれを見上げながら歯を食いしばり、しばらく男を睨み続け――
「……はぁ、やっぱ無理か」
悔しげな表情から一変させ、溜息をつく。
男はその変わりように一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにまた下卑た笑いを貼り付け、
「なんだ、自暴自棄か? ここまで来ると無様すぎて憐れみすら――」
「あぁ、もうそういうのはいいから。調子に乗らせて目的やら聞き出せないかと思ったけど……無理だったな」
俺はそう言って、何事もなかったかのように立ち上がった。それと同時に、俺を縛り付けていたツタも一瞬にして枯れ落ちる。
「な、何だと……!?」
「いやお前ら馬鹿だろ。俺の不死身体質を警戒しすぎて毒の方は全く無警戒じゃねえか。……いや、一応警戒はしてたのか? ツタに対毒の術式がかけてあったけど」
「そんな……あの対毒のルーンは魔法界でも最高峰の……!」
「あぁ、やっぱり馬鹿なんだな。毒避けのルーン程度で神話の猛毒を無効化できるわけないだろ」
俺が抜け出した方法は至って単純。
ツタに拘束されながらも半魔獣化をフェーズ1からフェーズ2に進め、毒をツタに送り込んだだけ。
その証拠に、拘束された時は1匹だった蛇が3匹に増えている。
というか特A級相手にそんなの効くわけないだろ。
あ、騎士だってことは知らないんだったか? ヒュドラのことは知ってて騎士のことは知らないとは、なんて雑な情報収集……ハユルちゃんと徹を見習えよ。
「ま、魔法界人の自作自演だったって事はわかったから良しとするか。じゃ、お前は用済みだ」
「くっ……まだだ! こっちにはまだ――」
と叫び、機関銃の腕を振り上げる……が、今度はその機械の腕が肘のあたりでボキリと折れてしまった。
ようやく腐食ガスが効いたようだ。この様子だとほかの部位も使い物にならなくなっているだろう。
「ま、待て! わかった! 全部話す! ガキの居場所も全部話すから命だけは……!」
「わかってるって、安心しろよ。最初からそのつもりだったから」
その後、俺は「ただ……」と前置きして、
「俺は有言実行を心がけてるからよ。あの時素直に喋っとけばよかったって思わせる――って宣言したよな」
「ひっ……」
「じゃあ、宣言通り後悔させてやる。尋問じゃなくて、俺の大、大、大得意な拷問でな」
「や、やめろ、来るな……う、うわあああああっ!!」
それから、路地裏には延々と男の悲鳴が響き渡った。
全てを聞き出すまで、幾度となく、果てもなく――




