表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/71

第59話『2つ目の能力』

 「窓口」での話し合いの翌日、俺は放課後ある場所へと一直線に向かった。

 見慣れた光景、歩き慣れた道、感じ慣れた独特の空気。もはや実家よりも「帰ってきた」感のある場所だ。


「騎士団本部……1ヶ月弱ぐらいしか空いてないのに、すげえ久しぶりな感じだな」


 本部内を進み、その奥の方へと向かう。「騎士団」なんて銘打ってはいるが、その内装は普通の警察署とそう変わらない。

 すれ違うスーツ姿の騎士と挨拶を交わしながら、俺は第10師団の事務室へと辿り着いた。


 ドアを開けると、ズラリと並んだデスクに慌ただしく動く騎士たち。マグダラ教会の件もそうだが、最近は何かと事件が多いので忙しいみたいだ。

 邪魔するのも迷惑だが、コソコソするのもかえって悪目立ちするも思ったので普通に入って普通に挨拶することにした。


「うーすお疲れーす」


「あぁ、お疲れ様で……って九頭龍さん!? 監察官任務はどうしたんですか?」


 その反応を皮切りに、事務室内の騎士たちに驚きが伝染する。

 まぁ、あれだけ「俺JKハーレム作ってくっから!」って息巻いて出てった奴が1ヶ月足らずで帰ってきたらそりゃ驚くか。


「まぁちょっとな。あれ、ノブさんいないの?」


「小野屋団長なら団長会議で席を外してますね。まだ少しかかるかと」


「あ、そうなんだ。じゃあミツキさんは?」


「穂波副団長も少し席を外してますね。すぐ戻るとは言ってましたけど……」


 2人とも不在とは、どうやらタイミングが悪い時に来てしまったようだ。

 仕方ない、ミツキさんが帰ってくるまで少し待っていよう……と思っていた時。ガチャリと事務室のドアが開いた。


「ん? なんか騒がしいわね。何かあったのかしら……って」


 入室してきた女性と目が合う。

 スラリとしたスレンダーな肢体に、実年齢より少し幼く見える童顔。そしてトレードマークである赤銅色のサイドテールを揺らす、この女性こそが――


「ミツキさん!! ただいまっス!!」


「なんだ巳禄、もう来てたのね」


「ザッと1ヶ月ぶりぐらいっスね! 元気でした? 最近どうスか? いやー、毎晩ミツキさんのこと思い出してましたけどやっぱ実物は違うっスね! ここ最近でまたキレイになったんじゃないスか!?」


「はいはいわかったから静かにしなさい。みんなの邪魔」


「ウス!!」


 姉にしたい女騎士ランキング堂々の1位(俺調べ)。

 一番綺麗だと思う女騎士ランキング第1位(俺調べ)。

 もうペットでもいいかなって思う女騎士第1位(俺調べ)。


 我ら第10師団が誇るみんなの姉御にしてアイドル、穂波光希副団長。

 俺はこの人が人間的に大好きだ。もはや崇拝してるまである。その懐きぶりは、部下の騎士から「九頭龍さんって副団長のペットみたいですよね」と言われるレベル。


「俺の報告書どうでしたどうでした!? 結構いい線行ってるっしょ!? 俺の解析能力も中々でしょ!? 褒めてください!!」


「静かにしろって言ったでしょ。言うこと聞かないと、コレ全部小野屋団長に丸投げするわよ」


「はい。静かにします。すんませんでした」


 無慈悲とも思える脅しに素直に従う。

 あのノブさんに仕事を丸投げするなんて、いつ返事が返ってくるかわかったもんじゃない……!


「よろしい。報告書って例の洗脳能力と黒い触手の考察でしょ? 私も団長も一通り目は通したわ」


「どう思います? 触手の方は解析班から結果出ました?」


「ええ、あなたの報告書の線で解析を進めて貰った結果が出たわよ。……すごいじゃない、巳禄の予想通りアレは血戦技能ブラッド・スキルの拡張・補助装置だったわ」


 それを聞いた俺がガッツポーズしかけたのを、ミツキさんの「ただし」という言葉で遮る。


「肝心の血戦技能ブラッド・スキルについては穴があったみたいね」


「穴? なんか見落としありましたっけ?」


「ええ。あなたは洗脳能力を「対象の持つ感情のベクトルを逸らす」能力って分析したけど、じゃあショッピングモールのマグダラ教徒がかけられてたアレは何?」


「え、何って普通の精神干渉魔法じゃ……あっ」


 完全に忘れていた。そうだ、そういえばアレも普通の魔法とは違ったんだった。


 普通の洗脳魔法では、洗脳対象のキャパを超える事や知らない事を強制することはできない。

 にもかかわらず、あの洗脳は銃火器の扱い方なんて知らない一般人に、スムーズな銃火器の使用を可能にさせていたのだ。


「その辺までできるように洗脳するには、対象の意識を完全に奪って物言わぬ傀儡状態にしなきゃならない。なのにあのマグダラ教徒たちは、普通に会話できていた……ね? おかしいでしょ?」


「そっか……それができるのは、元からラリってたサイボーグの奴だけのはずですもんね」


 じゃあ何だ? 洗脳には「感情のベクトル操作」以外にもバリエーションがあるって事か? それともまた別の能力?

 しかしネガの残滓からして、血戦技能ブラッド・スキルであることは間違いないのだ。


「んー……ダメだ、ここからはヒントが無さすぎて推測できねえっス。せめて何か1つでも手がかりがあれば……」


「それがね、あったのよ」


「マジっスか!? いったいどんな……?」


「コレよ」


 ミツキさんが取り出したのは1枚のメモリーカード。

 端末でそれを読み込むと、中に入っていたのは洗脳でマグダラ教徒にされていた人々の取り調べの様子だった。


 全員、最初はいかにも狂信者といったような言動をしていたのだが、一定時間経過すると全員が正気に戻っている。

 全員が同じタイミングで正気に戻っているのは、単純に効果時間の問題だろう。しかし俺が驚いたのは――


「全員が全く同じことを喋ってる……?」


 全員が質問に対して一字一句同じ言葉を喋っている。個人情報を聞かれても、答える内容が全て同じなのだ。名前も、年齢も、その他諸々が全て。

 まるで、そういう風にプログラミングされた機械みたいだ。


「それだけじゃないのよ。音声だけじゃわからないけど、実はこの全員が「感情が昂ぶると激しく頭を掻き毟る」って癖を持ってたの。同じ名前を名乗って、同じ素性を話して、同じタイミングで怒って、同じタイミングで頭を掻き毟る……取調室で見てて、ちょっとしたホラーだったわよ」


 言動だけじゃなくて癖も完全に一致……? そんなのいよいよ機械みたいじゃないか。


「この異様な習性を見て、団長が出した結論が――「意識のコピーと上書き」よ」


「コピーっすか……?」


「そう。ある特定の人物の意識をコピーして、全く別の人の意識に上書きする。こうすると、思考も行動も言動も全く同じパターンを持った人間が量産されるのよ」


 なるほど、そういうことか。

 俺がさっき比喩として出した「プログラミングされた機械」という表現……その「プログラム」の部分が「特定の人物の意識」だったわけだ。


「まるで同一人物みたいに、じゃない。見た目は違っても、実際に中身は同一人物だったってわけなのよ」


「コレ、もしかして俺が報告書出す前から知ってたんじゃ……?」


「まぁね。正直、こっちとしてはコレのほかに能力のバリエーションがあったことの方が驚きよ」


 全く、厄介な能力だ。


 どんな人間でも強制的にマグダラ教徒の兵士にしてしまう「コピーと上書き」。

 本人の意識を保ったまま、存分に対象の魔人の力を利用したいなら「感情のベクトル操作」。

 これらを通しやすくするための、熟練した精神干渉魔法。


 この3つでも十分厄介なのに、さらに別のバリエーションがある可能性もあるのだ。

 これだから精神干渉系の血戦技能ブラッド・スキルは嫌なんだ。何をしてくるかわかったもんじゃない。


「はぁ……面倒くせえ敵と当たっちまったっスね……」


「そうね。被害がこれ以上拡大しないうちに片付けたいけど、そう簡単に行くかしら……」


 何せ、あっちの目的も未だ不明瞭なのだ。

 魔法界シャンバラの排斥にあれだけ拘っていながら、普通に魔物けしかけてきたりしてるし。魔法だってバンバン使っている。

 こういうカルト組織はその辺も徹底してそうなイメージがあるから、手段を選んでいないのには疑問が残る。


「サイボーグ野郎は相変わらずっスか?」


「うん。ずっとマグダラ万歳とか言ってるだけ。多分だけどあいつは何も知らされてなくて、単純に話術で手篭めにされた尖兵なのかも」


「それじゃあ聞くだけ無駄ってわけっスね……早いとこ教祖か幹部あたりから聞き出せればいいんですけど」


 ふりだしに戻ったわけではないが、被害に対して進歩が少ないのがもどかしい。


 そうして俺が少し焦りを見せ始めた時。


「あれ、電話だ。ちょっとすんませんね」


 事務室から出て、端末を確認。佐伯からだった。

 俺が本部にいる間、あっちのことは佐伯とマリアさんに任せたのだが……何かわかったことでもあったのだろうか?


 そんな軽い気持ちで電話を取った。

 そして、この電話がただでさえ焦っていた俺を、さらに焦らせることになった。


『大変です、先輩』


「どうした、そんな慌てて。何かあったのか」


『はい。実は――』


 その内容を聞いて、俺は一瞬凍りついてしまった。

 その後、俺の焦りと不安感はピークに達した。



「溝呂木とユエちゃんが昨晩から行方不明……!?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ