第51話『蛇王、韋駄天の如く』
今回は場面移動がドタバタしてるのでご注意下さい
時は少し遡る。
マリアさんからの連絡を確認した俺は、まず何よりも早く冷泉に連絡した。ぶっちゃけ単純な強さと組織力で言えば、教師(理事長除く)よりもあいつの方が上だ。
「動かせる奴はすぐ動かしてくれ。ただし相手の実力がわからないから、中執レベルの奴を必ず2人1組でだ」
『了解した。すぐに連絡しよう』
「それから、この手の奴らは必ず陽動と本命の2つがある。襲撃場所は少なくとも2つはあると見てくれ」
『陽動か……厄介だな。私が何も感知できないということは、何か結界の類を使われているかもしれない。その場合は解除に時間がかかるが?』
「場所さえ特定できりゃ結界は俺が解体する。すぐに行くからそれまで頼んだぞ」
『任せておきたまえ』
性格はムカつくが仕事は優秀な奴だ。俺が学園に戻るまでの約10分弱の働きには期待してやろう。
そして、俺は俺で――
「追加で団体さんご案内、か……しかもA級危険種が1、2、3……5体。はは、ガチの時間稼ぎだな」
やはり監察官を1人誘導する目的で魔物を解き放ったってことか。反魔法界過激派組織のくせに、めちゃくちゃ有効活用してんじゃねえか。
いや、実は反魔法界組織ではないのか? まぁ、今はそんなことどうでもいいか。
「A級危険種が5体……十分AA級の脅威に匹敵するって見ていいよな?」
巨大な翼のコンドルのような魔物。
長大な脚を持つクモのような魔物。
4本腕をした奇形のトロールの上位種。
大量の眼球をギラつかせる汚泥のような魔物。
そして、特筆すべきは中型の竜種。
こいつだけ明らかに強さが傑出している。あと少しでAA級にまで届きそうな化け物だ。
だが。
「この程度で時間稼ぎになると思ったら大間違いだぞ?」
半魔獣化の進行度をフェーズ1からフェーズ2に移行。
髪は赤黒く染まり、背中の蛇は3匹から一気に倍の6匹へ。
ショッピングモールの時ほどではないが、これでもこいつらを一瞬で葬るのには十分。
「――詠唱五節破棄。『頭を垂れよ』『此れは慈悲の刃である』」
詠唱の半数以上を破棄して、威力の減退を代償に展開速度を加速。血液を剣に形成し、呪いと猛毒を纏わせ――
「『悪性慈悲・赫蛟』――『抑制展開』」
形成したのは前回のような細身の長剣ではなく、俺の身長ほどもある大振りの黒剣。
詠唱破棄したため魔力の凝縮が甘く、威力の減退に反して無駄にデカい。だが今はこれで十分。
「邪魔だ、どけ」
大剣を勢いよく振り下ろし、同時に圧縮した魔力を斬撃として放つ。それだけでクモと汚泥の魔物を消滅させる。
そこへ背後からコンドル型が猛スピードで飛来し、空中で加速しながら俺に突進してきた。
「遅え。マリアさんのが3倍速い」
コンドル型を一瞥することもなく、後ろ向きに大剣を一閃。たった一撃でコンドル型は縦に真っ二つにされ、そのまま分解・消滅した。
息つく暇も無く、上空からドラゴンが火球を数発吐き出す。地面に当たれば道路と被害額がマズイことになる。
俺は軽く舌打ちをしてから、迫り来る無数の火球を全て斬り払った。火球は爆発することなく、「解体」の術式によって搔き消える。
「それで終わりか、AA級予備軍? じゃあ死ね。今すぐ死ね。まとめて死ね」
背中の蛇を鎖のように伸ばしてビルを駆け上がり、ドラゴンと同じ高度まで飛び上がる。そして、地に叩き落とすように一撃。
堅牢な鱗も全てを溶かし崩す猛毒の前には意味を成さず、ドラゴンは真下にいたトロールを巻き込みながら落下・絶命した。
「……チッ、手応え皆無だな」
AA級の脅威なんて1分でこのザマだ。全然足りない。
その物足りなさを、次は学園を襲撃したマグダラ教会へと向ける。
「ここまでつまんねえ真似したんだから、今度こそ楽しませてくれよ狂信徒どもが!」
つまらない事後処理をあとから来た騎士に丸投げして、来た時と同じようにビルを飛び移って学園へ戻る。
俺がようやく学園へ到着した時には、すでに事態が急変していた。
「パッと見静かだけど、ドタバタしてるっぽいな……微かに妙な結界の気配がする」
冷泉の憶測通り、学園全体を包む結界の中に異物の気配。確認できるのは――図書室と体育館の二箇所。
どちらも放課後にはよく使われる施設だ。どうやらマグダラ教会の狙いは生徒らしい。
「どうやって結界に干渉しやがった……? これじゃ白鐘の悲劇のまんまじゃねえか」
しかし、あれから8年だ。もしかすると、学園の結界に干渉できるレベルの転移補助器が秘密裏に開発されたのかもしれない。
しかも元の結界を上書きして、外部との繋がりを断絶までするなんて……想像以上だ。
「とにかく今は現場に行かねえと……!」
図書室と体育館の両方から、微弱な魔力の乱れを感じる。どちらも交戦中のようだ。
どっちだ!? どっちにマリアさんがいて、どっちに佐伯がいる!? 実力的には俺が佐伯の所へ行くべきなのだが――
「俺そんなに魔力探知の才能ないからなぁ! もういいや、体育館の方が近いしそっち行こう!」
そうして俺は体育館へと向かった。
入り口まで辿り着いた俺は、早速結界の解除に入る。かなり複雑な術式だが……よし、俺の「解体」の呪術なら余裕だな。
勢いよく引き戸を開いて体育館に転がり込む。
体育館の中は、魔物や様子のおかしい生徒で溢れかえっていた。
そして、その中でたった1人で戦い続けているのは――
「っ! 先輩、来てくれたんですね!」
ビンゴ。こっちでは佐伯が得物の大太刀を振り回しながら、大群相手に何とか持ちこたえていた。
「どうなってんだこりゃ?」
「例の洗脳です! あの生徒が洗脳を受けて、さらにほかの生徒を黒い触手で操っているようです!」
「成程な……うわっ、魔獣化までしてんじゃん! タチの悪い……!」
体格の大きい男子2人が魔獣化し、中央にいる1人の小柄な男子を守っている。間違いなくアレが洗脳を受けてる奴だ。
その目は虚ろで、うわごとのように「マグダラに光あれ」「魔法界に鉄槌を」と呟いている。
「……なぁ、もしかしてアイツ1人片付けたら全部終わる?」
「触手の効果にもよりますが……少なくともだいぶ楽にはなるかと」
「わかった、ちょっとワンパンしてくる」
「手加減はしてあげてくださいよ!? それボクのクラスメイト……って聞いてない!」
俺は佐伯の叫び声を聞き流しながら、中央目がけて走り出した。
それを迎撃せんと、護衛の2人が動き出す。1人がカマキリのような腕伸ばしてきたが、それを躊躇いなくへし折る。どうせ再生するしいいだろ。
もう1人は肥大化した拳を武器に殴りかかってきたが、それも懐に入って振動魔法をぶつけてやると1発でダウンした。
そして護衛の手が緩んだ一瞬の隙を突き、「ひっ!?」と怯えている中央の男子の横っ面を、思いっきりぶん殴る。
「軽い振動魔法のオマケ付きだ。ちょっと寝てろ」
そいつがぶっ倒れると、ほかの触手付きの生徒たちの動きも明らかに鈍った。これなら佐伯1人でも大丈夫だろう。
「よし、あとは任せた!」
「えっ、ちょっ、まだ制圧しきれてな……」
「大丈夫! さっき軽く睡眠ガス撒いといたからお前1人でも行けるって!」
「それ先に言ってくださいよ!? 思いっきりボクのこと巻き込んでるじゃないですか!?」
と突っ込む佐伯を放置して図書室へと向かう。
その道中で何人か洗脳されたと思しき生徒を発見したが、みんなまとめてワンパンで沈めてやった。
「ワラワラと鬱陶しい! これだと時間が惜しいな……よし、ショートカットするか」
馬鹿正直に階段登ったり走ったりするのはやめだ。
校舎の壁を蹴り、ベランダを飛び移り、忍者のような身のこなしで進んで行く。
そして俺はある教室へと到着した。
その窓の外には、ちょうど図書室の窓。呪術の遠隔操作で結界の解体もあらかた完了したので、あとは強引に突入するだけ。
……と、その背後から、
「お? 九頭龍じゃねえか。そんな慌てて何やってんだ?」
「……相変わらず忙しそうだ」
「っ!? な、なんでお前らここに!?」
ジョージと羽多野とまさかの遭遇。それどころじゃねえんだって……と言おうとして気付く。
あれ? こいつら、なんか目が虚ろ――
「ってお前らも洗脳済みかよ! じゃあ寝てろ!」
「ぐほッ!?」
「……ッ!?」
マグダラの野郎、騙し討ちのつもりか。残念だったな、俺はダチを殴ることに一切躊躇しない男なんだ。
しかし流石は障壁魔法の天才。ジョージだけはワンパンでは沈まず、しぶとく俺に襲いかかろうとしてきた。
「九頭龍ゥゥ!! お前もォ、マグダラ教会にィィ!!」
「うっせえ! 宗教の勧誘はお断りだ!」
俺は飛びかかってきたジョージを躱し、その首根っこを捕まえる。
そして俺は教室の窓から飛び出し――
「オラァ!!」
「ぶッ!?」
ジョージの頭を窓ガラスに叩きつけて窓を割る。障壁魔法の鎧があるからケガは無いだろう。
友人を武器にするのは心が痛むが、緊急事態だから許せ!
そうして割った窓の奥――マリアさんとユエちゃんが対峙する図書室へと俺は降り立った。




