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第47話『嵐の前の静けさ』


「――で、手ぶらで帰ってきたわけか」


「いやぁ、申し訳ない……」


 マンションに帰ってきた俺を、とんでもなく不機嫌そうな徹が迎える。

 徹はしばらく「せっかくケーキに合うコーヒーを淹れたのに……」とか「僕がどれだけ楽しみにしてたか……」とか「僕だけじゃなく安浦さんまで……」とかブツブツとぼやいていた。


「……まぁ、空海さんが無事だったから良しとしようかな」


 最後には納得したというか、もう諦めた様子で引き下がった。するとちょうど奥からハユルちゃんが出てきて、とたとたと駆け寄ってきた。


「みっ、巳禄くん無事でしたか!? なんかすごいことになってたみたいですけど!」


「大丈夫。ユエちゃんも今は疲れて寝てるけど、ケガとかは無いよ。たまたま通りがかったメアリーに助けてもらったから」


「そうですか……それは良かったです」


 ハユルちゃんはホッと胸を撫で下ろす。だが安心するにはまだ早い。

 マグダラ教会があんな大規模なテロをしてきたってことは、あっちの計画も本格的に動き出したってことだ。いつどこにいても油断はできない。


「とりあえず今日は空海さんを寮に帰してあげるといい。魔獣化は体力の消費が激しいからね」


 そう言って徹は俺たちを帰した。本当はもう少し相談したいことがあったのだが、仕方あるまい。

 俺はユエちゃんを負ぶりながら、ハユルちゃんと一緒にそれぞれの寮へと帰った。



◇◇◇



 翌日の放課後。

 俺は空き教室に「窓口」のメンバーを招集して今後の方針について話すことにした。ユエちゃんが欠席しているのは仕方ないか。


「こうして全員集まるのは初めてだね……あ、1人欠席してるか。これからこのメンバーでやっていくから、一応自己紹介だけしておこうか」


 俺が端っこの方の席の佐伯にアイコンタクトを送ると、佐伯はそのやたらデカイ図体を起き上がらせ、


「1-C、佐伯優斗です。まだまだ未熟者ではありますが、よろしくお願いします」


「あ、佐伯くんお久しぶりです。相変わらずおっきいですね……」


「安浦先輩もお変わりないようで」


 ああ、この2人は面識あるんだったか。しかしハユルちゃんが先輩やってると違和感が……。

 しかし、その隣にはもっと違和感バリバリの人がいた。


「3-B、綾瀬真里亞ですわ。学園のため、生徒のため、そして皆さんのために尽力致します。よろしくお願いしますわ」


 思わず吹き出しそうになるのを堪える。確かにコレは詐欺だ。タチの悪い詐欺だ。佐伯が「エグい」って言うのもわかる。

 そんな俺と佐伯の内心など知らないハユルちゃんは、少しどころかかなり緊張している様子だった。


「安浦さんとはお会いするのは初めてでしたわよね。九頭龍君からお話は聞いておりますの。よろしくお願いしますわ」


「こっ、ここっ、こちらこそっ! あ、あの綾瀬先輩とお話しできて光栄ですっ!」


「あらあら、そう言ってもらえると嬉しいですわ」


 そう言いながらチラッとこっちを見た。一瞬、すごい勝ち誇ったような顔をしていたのは見なかったことにした。

 ここにいるのは戦闘民族筆頭のマリアさんじゃなくて、お嬢様の綾瀬先輩だ。実質別人。


「やっ、安浦葉由流ですっ! 精一杯頑張るのでよろしくお願いしますっ!」


 ガチガチに緊張したハユルちゃんが座ると、改めて俺は生徒のデータを開いて3人に見せた。

 

「さて、早速だけど3人にはこの学園に出入りしてる人を徹底的に調べ上げてほしい。生徒も、教員も、その他の職員も、全員だ」


 マグダラ教会の息がかかった奴がどこにいるかわからない。この学園がその毒牙にかかる前に対策しなくては。

 ノブさんに言われた期日まであと2日。ここにユエちゃんと徹が加わることを考えても、全員を完璧に洗うには少し厳しい。だから、そのための冷泉だ。


「冷泉……っ先輩には根回しを頼んでるから、何かと融通が効くようになってるはずだ。みんなで情報共有しつつ、効率よく進めていこう」


 こうしてこっちも本格的な調査に乗り出したわけだが――何このメンバー、優秀すぎる。

 

 まさかみんなを招集したその日中に、もう生徒全員洗い終わるなんて思わなかった。元からデータがあったことを考えてもすごいスピードだ。

 そして自分も動いてみてわかった。俺としては不本意だが……すっっっごく不本意だが! 冷泉の根回しが優秀すぎたのだ。


 どうやら窓口を「中執に次ぐナンバー2の組織」「メンバーは全員準幹部」という扱いにしたらしく、俺の思ってた以上の権力が与えられていたのだ。

 おかげでどんな質問でも答えてくれる。ちょっと言い辛い人間関係とかも洗いざらい。


 その次の日からはユエちゃんも復帰した。

 ユエちゃんは何やら気まずそうにしていたが、俺の「魔獣化のことは気にしなくていい」「事情は話したくなったら話してよ」という言葉で元に戻った。


 そこからのユエちゃんの働きぶりは目を見張るものがあった。

 本人曰く「魔獣化でご迷惑をかおかけした、ので、そのぶん、です」とのことだ。そのおかげで情報収集は俺の思っていた以上のスピードで進んでいた。





 そして、調査開始から3日。

 とうとう無茶振りにも等しかった「教師やその他の職員まで全員洗う」という目標を達成した。



 その結果――



「全員シロじゃん……」


 なんだったの俺たちの3日間。無駄ではなかったんだろうけど、徒労感がすごい。一気に脱力した。

 全員に怪しい動きもなく、素性も明らかで、100パーセント全員がシロだと断言できる。


「じゃあ学園を狙ってるってのは何だったんだ……? まさかあのサイボーグ野郎、あれだけ精神干渉魔法使われてまだ嘘つけたのか……!?」


 そんなはずは無い。ノブさんは騎士団随一の精神干渉魔法のスペシャリストに頼んだと言っていた。

 国内トップの精神干渉をあんな奴が突破できるわけがない。いや、その思い込みがいけないのか?


「例の洗脳が影響してるとしたら……クソ、マズイな。あれの正体がわからないと対策のしようもない」


 その夜、俺は寮の自室でひとり頭を抱えていた。


 まさかすでに多くの生徒が洗脳されていたのか?

 それで口裏を合わせていた?

 だとしても全員を調べてシロなのはおかしい。

 しかし学園を狙ってるのは確かなはずだ。


「学園を狙ってるのは嘘じゃないけど、内通者がいるわけではない……ってことなのか……?」


 でも学園を狙うなら、内通者がいなければ侵入すらできない。 それ以外に学園に侵入する方法が考えられない。

 侵入しなくても目的は達成できるのか……あるいは、まだ動き出していないだけなのか。


――もしくは。


「そもそもコレが誘導だった可能性は……?」


 俺たちに学園内に目を向けさせることで、それ以外への警戒を緩めた……あり得ない話じゃない。

 もしほかの場所で重大な事件が起こっていたら? そちらに対処してる間に学園を狙われたら?


「……もう一度、対策を考え直さないとな」


 どちらにしても今日はこれ以上何もできない。行動するなら明日からだ。

 




 そしてその翌日、俺は知ることになる。

 俺のこの予想が間違いではなかったことを。



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