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第41話『相棒』

 翌日……あ、日を跨いだから当日か。

 目の下にクマを作りながらも、俺は待ち合わせ場所で人を待っていた。


 待ち始めてから10分ぐらいして、その2人は来た。

 その2人とは、言うまでもなくハユルちゃんとユエちゃんだ。


「おはよ、ございます、センパイ」


 相変わらずたどたどしい敬語で挨拶して、ユエちゃんはぺこりとお辞儀した。私服でも萌え袖はそのままだった。

 ユエちゃんらしい可愛らしさだ。妹的なものを感じる。


 そして、


「おはようございます、巳禄・・()()!」


「ハユルちゃんもおはよう。ごめんね、急に呼び出したりしちゃって」


 昨日のことがあってから、ハユルちゃんと俺は名前で呼び合うようになった。

 正直、心の中ではずっと「ハユルちゃん」呼びだったからいちいち「安浦さん」って言うのややこしかったんだよな。あっちも名前呼びとは驚いたが。


「それで、今日はどうしたんですか? 昨日の連絡によれば、単なる遊びじゃないみたいですけど」


「うん、まぁね。今日は4人目の「窓口」メンバーの家まで行こうかと」


「4人目、ですか……でも家ってことは渋谷第三の生徒じゃないですよね? うちは全寮制ですし」


「それなら大丈夫。冷泉……先輩からの許可は貰ってるよ。非公式のメンバーとしてならね」


 冷泉を先輩呼ばわりする時にすごいムカついた。

 あのキザ野郎の話題は出さないでおこう。


「センパイとはどういうご関係、なんですか?」


「俺の幼馴染。渋谷第三の割と近くに住んでるんだけどね。ほら、あそこの灘上なだかみ高校の生徒」


「巳禄くんの幼馴染ですか! しかも灘上って結構頭のいい人じゃないと入らないエリート校ですよね?」


 そして俺が去年、初監察官任務でやらかした学校でもある。こっちもあんまり話題に出したくないなぁ。


「それで、どんな人、です?」


「女の子ですかっ!?」


「はは、違う違う。男だよ。どんな奴かと言われれば……うん、普通に優しくて普通にいい奴とだけ言っとこうかな。俺の相棒みたいなもんだよ」


 なんたって生まれた時からずっと一緒だったしな。幼馴染と言うよりは家族みたいなもんだ。

 俺とは色んな意味で正反対の奴で、どうしてここまで付き合いが続いてるのかもわからない。けどそいつは俺の親友で、相棒なのだ。


「センパイがそこまで言う、とは……絶対すごい人、です」


「うん、あいつヤバい。コミュ力半端ない。コミュ力で弟子入りするならあいつの方が100倍いいと思う」


「まじ、ですか」


「マジマジ」


 なんて話をしながら移動していると、予定よりも少し早く目的地に到着した。

 辿り着いたのは、一見何の変哲も無いマンションだ。インターホンで呼びかけて鍵を開けてもらい、そいつの部屋まで階段を登っていく。


「ここだよ、407号室」


「表札は……えっと、なんて読むんですか?」


環舘かんだちだよ。おーい、来たぞとおる、早く開けろー」


 そう言ってしつこくピンポンしていると、ゆっくりと扉が開かれた。そして中から1人の青年が姿を現わす。


「巳禄……もうちょっと近所迷惑とか考えてくれないかな……」


「悪い悪い。久々だからちょっとテンション上がってて」


 俺の言葉にうんざりした様子を見せたこの青年こそが、俺の幼馴染にして「窓口」の非公式の4人目。


 全く光を反射しない漆黒の髪に、髪と同じ色をした深く暗い瞳。身長は俺よりも少し高く、黒縁の眼鏡やその所作からは、どこか理知的なものを感じさせていた。

 そいつはハユルちゃんとユエちゃんに目を向けると、にこりと微笑んで、


「やぁ、初めまして。随分と可愛らしいお客さんだね」


「ど、どうも。安浦葉由流と申します……」


「空海柚絵、です」


「うん、巳禄から話は聞いてるよ。僕は環舘かんだちとおる。巳禄の幼馴染だよ。……立ち話もなんだから上がろうか」


 そういって徹は俺たちを中に入れた。

 徹の家の中は、相も変わらず本、本、本、本。床抜けないか? と心配になるほどの本の山だ。どこにいても特有の紙の匂いが漂っている。


「そこにかけてくれてていいよ。あ、巳禄、例のやつはそこに置いてあるから」


 と言って、徹は俺たちをリビングに置いてキッチンへとお茶を入れに行った。リビングのテーブルには、徹の言う「例のやつ」――マイクロチップが1つ置かれていた。


「これ何でしょう?」


「この辺一帯に住んでる人……具体的には灘上高校に通ってる人たちのデータだね。性格やら魔法適性やら色々」


 そう言ってマイクロチップの情報を端末で読み取り、目の前にウインドウを出して確認する。

 俺が依頼した通りの内容がビッシリと表示され、ハユルちゃんとユエちゃんは面食らっていた。


「こ、これ全部あの人が集めたんですか!?」


「すごい、です」


 そう、この書類の山全てが徹が1人で調査し、1人でまとめ上げたものだ。

 徹は情報収集の鬼である。どんな場所でも謎の影の薄さを発揮し、情報を引き出し、次の瞬間には忘れられる……そうやって集められた情報を俺が活用するのだ。


 才能だけで言えば、ハユルちゃんには観察眼で、ユエちゃんには隠密性で劣る。しかし徹は仕事の早さと分析力でその数段上を行く。

 この膨大な情報量と高度な分析力無しでは、俺には監察官任務なんて1ヶ月と持たなかっただろう。


 それを忘れて「あれ? 1人でも結構チョロくね?」と調子に乗ったのが去年のあのザマだけど。


「俺がこいつに見せてくれるよう頼んだんだよ。最近はやたらと物騒だからね。中執としては渋谷第三ウチに降りかかりそうな火の粉は事前に警戒しときたいし」


「マグダラ教会も怖いですもんね……」


「そ、そうだね」


 サラッと核心を突いてくるあたり、ハユルちゃんはカンも相当いいな。監察官ってバレないか心配になってきた。

 ちょうどその時、コップを乗せたお盆を持った徹が帰ってきた。


「どう? なんか不備とかあったら見直すけど」


「いや、今回も完璧だ。ありがとう」


「どういたしまして。簡単な人物相関図なんかも作ったから、よかったらそっちも参考にしてよ」


「お前神かよ。すげえ助かる」


 相変わらず仕事の早さと丁寧さに定評がある。監察官じゃなかった時も、こうして徹に協力してもらってたっけ。

 もうほぼ第10師団の一員と言っていいぐらいの活躍はしてたな。脳筋の俺と違って。


「――で、だ。今回の報酬を貰いたいんだけど」


「あ、やっべ忘れてた」


「だろうね。今すぐ調達してきてもらおうか」


 溜息交じりに眼鏡を上げ、徹は冷ややかに俺に言った。急激な声色の変化に2人は戸惑っている様子だった。

 仕方ない、ここはいったん席を外すとしよう。俺がいない間に徹が何か吹聴しないかが心配だが。


「あ、あの、報酬って……」


「僕だって菩薩じゃないんだから無償でこんなことはしないさ。仕事には相応の報酬を。当たり前だろう?」


 ハユルちゃんにそう答えてから、徹はこちらにキッと鋭い目を向け、



「駅前のケーキ屋のモンブランで手を打とう」



 ……徹は超がつくほどの甘党だ。



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