第40話『人脈の使い方』
ハユルちゃんとユエちゃんの「窓口」入りが決定した夜。
俺が寮の自室で課題に勤しんでいると、騎士団本部から通信が来た。若干面倒に思いながらも通話を開始する。
「もしもしノブさん? 今ちょっと忙しいんスけど」
『奇遇だな、俺も忙しいし時間も惜しい。無駄な会話で時間取らせたらぶった斬るからな』
いきなり物騒すぎてノブさんの人間性を疑ったわ。あ、疑うまでもなくこの人クソ野郎だった。
呆れながら溜め息混じりに返事をする。
「で、なんスか? わざわざこうしてかけてきたってことは……さては奴らが何か吐きましたか」
『あぁ』
いちいち確認せずともわかる。「奴ら」とは、この前のテロ事件で取っ捕まえたテロリスト共――マグダラ教会の奴らだ。
あれから結構経ってるが、やっと有用な情報を聞き出せたのか。その大した信仰心に反吐が出る。
『実はあいつら、ほとんどがタダの一般人だった。洗脳されてマグダラ教団に引き込まれてたらしい』
「はぁ? 洗脳? それにしちゃ随分と銃の扱いに慣れてたみたいっスけど」
いくら強力な洗脳でも、洗脳された人間が発揮できるポテンシャルは本来その人が持つものだけだ。
一般人が銃の扱いに慣れてるなんて、サバゲーやってる奴でも集めたのかね。
『身元を調べたが、近頃行方不明になってた奴ばかり。銃の扱いなんて慣れようもないシングルファザーまで混じってやがった』
「じゃあ行方不明期間で銃の訓練でも――」
『って考えるのが普通だろ? 違えんだよ、洗脳が解けたら奴らマジで何も覚えてやがらねえ。銃だって使えねえとさ』
そんな事があり得るのか……まさか本当に銃を渡して「使ってみろ」とでも言ったわけじゃないだろうな? ノブさんならやりかねないぞ?
ちゃんと嘘探知魔法使ったよね? 信じてるよ?
「でも収穫無しってことは無いでしょ? ほら、あのサイボーグ野郎は絶対元からマグダラのシンパのはずだ」
『そうだ。取っ捕まえた奴の中で真性のマグダラキチガイはあいつだけだった。で、今日そいつがようやく色々吐きやがったんだ……ったく、精神干渉魔法が通じ辛くて面倒だった』
乱雑にガシガシと頭を掻く様子が目に浮かぶ。それだけ情報を引き出すのに苦労したんだろう。
もしくは吐いた内容がそれだけ危険なものだったか……と思っていたら、どうやら両者とも正解だったらしい。
『マグダラの野郎共、次は渋谷第三を狙ってやがるとさ』
「は? マジっスか……いや、確かに奴らの思想を考えるとあり得るか」
『あぁ。根っからの魔法界嫌いのマグダラ教会は、国内最高峰の魔導学園を狙うことにしたらしい』
ハユルちゃんによれば、あのサイボーグ野郎は渋谷第三に恨みマシマシだったらしいからなぁ。
報復というわけではないだろうが、遅かれ早かれ狙われてはいたんだろう。
『で、こっからは奴の支離滅裂な発言を元にした推測になるが……恐らく校内に内通者がいやがる』
「内通者……!?」
『正面から堂々と侵入するなんてマネはできねえからな。何とかしてセキュリティを内通者に弄らせるつもりだそうだ』
「でもこの学園には例の結界があるはず……マグダラの内通者ごときが結界をどうこうできるとは思えねえっスよ」
『どうだかな。策が無けりゃそんな成功率の低い作戦なんかやらねえはずだ。タダでさえマグダラ教会は慎重だったからな』
どんな可能性も否定できないのがマグダラ教会の恐ろしさだ。ただでさえ情報が少ないのに、全身義体化の技術に正体不明の洗脳能力まであると来た。
いや、あるいはこちらに注意を引きつけるための罠か? もしかしたら本命は別にあるという可能性も……
『今は後手に回るしかできねえってのが癪だが仕方ねえ。巳禄、お前は佐伯と綾瀬と一緒に、徹底的に学園内を洗え。生徒も、教師も、警備員も、全員だ』
「それも大概無茶振りだな……冷泉の野郎も使いますけど、いいっスよね」
『俺に聞くな。あのキザ師団長の甥の責任なんざ取りたくねえ。お前が頼るってんなら問題はねえだろうが』
「大丈夫だと思いますよ。どうせ人動かすことにしか使わねえっスから」
いくら戦闘力が高くても、一応はあいつも一般生徒。騎士団の事情に過度に巻き込むわけにもいかない。
ここは中執のトップとしての人脈だけを利用させてもらおう。あいつはそれで十分だ。
あとは、早速相談窓口の新入り2人の手も借りるか。
あの2人に頼れば作業効率は数倍に跳ね上がるだろう。
「それでも学園全員ってなると5日ぐらいはかかりますけど」
『構わねえ。早くしねえとそっちも夏休みに入って調査し辛くなんだろ。こっちも出来る事はやる。 5日……いや、3日で終わらせろ』
「うっへぇ、キツイなぁ……できないことはないっスけど」
3日で全部洗うとなると、俺の持ってる生徒のデータ・残りの監察官2人・相談窓口・冷泉の全部を使っても厳しい。
そうなると俺も色々と手を託さざるを得なくなるわけだが……それも仕方ない。やるなら徹底的にやってしまおう。
『マグダラ教会、今回で押さえるぞ』
「ウス、そのつもりっス。んじゃ早速取りかかりますね」
そう言ってノブさんとの通信を切る。
そうと決まれば、早速頼れる人脈全てに連絡だ。
まずは――癪だが一番確実な方法を取ろう。
端末内の連絡先から、登録したばかりの番号を選択して呼びかける。
「……起きてっか? 起きてるよなキザ野郎? よし、じゃあ聞け」
『何もかもがいきなりだな君は……で、どうかしたか? 君から連絡が来たということは火急の用なのだろうが』
冷泉に一方的に用件を伝える。
すぐに事情を把握した冷泉は、二つ返事で俺への協力を了承して作業に取り掛かった。うん、やっぱ便利だ。
「あ、あともう1つあるんだが」
『む、どうしたのかな?』
「窓口って学外の奴入れてもいいのか?」
『……何を言うかと思えば。普通、他校の生徒を生徒会に入れるかい?』
ですよねー。こいつの指示に従うのはアレだけど、一応は中執のボスだしな……。クソ、面倒くせえ。
俺が軽く舌打ちすると、冷泉は恐らく端末の向こう側では肩をすくめながら、
『……しかし。あくまで「協力者」として非公式に協力を要請するのならば構わないがね』
「なら最初からそう言えよ……わかった、ちゃんと「協力者」として力を借りることにする」
『好きにしたまえ』
その了承が得られれば十分だ。俺はさっさと冷泉との通信を切り、さらに別の端末へと繋ぐ。
何コールかしたあとで、その相手は眠そうに俺の通話に応じた。
「もしもし? 遅くに悪いな、ちょっと頼みがある……おい待て切るな。いいだろ、どうせ明日土曜なんだしよ」
事情を説明すると、ガサガサと何かの書類を整理する音がしたあとで、快く要求を飲んでくれた。
快く、というよりは諦めたように、と言った方が近いか。どうやらあっちも暇ではないらしいが。
「じゃあ頼む。明日の昼頃にそっち行くから……あぁ、それもよろしく。じゃあな、おやすみ」
明日の昼に会うアポを取り、今度はさらに別の端末へとメッセージを送る。
これを何度か繰り返しながら色々やっていると、ついには日を跨いでしまった。通りで眠いはずだ。
さて、これからまた忙しくなるぞ。




