第38話『ししょー』
「師匠……?」
予想とは違う要求が来て、俺もハユルちゃんも硬直する。ユエちゃんはというと、人形みたいに無表情なまま俺のことをじっと見ていた。
「師匠って何の?」
「なんだと思い、ますか?」
「んー……魔法戦以外に思いつかないんだけど」
「はずれ、です」
「じゃあ何だろう、全然わからないな……」
「ふふ、なんで、しょう」
俺はなぞなぞしに来たわけじゃないんだけど……まぁ女の子とこんな至近距離で話せるのは役得だな。
と、邪な考えでユエちゃんの質問を考えるフリをしていると、
「いっ、いつまで引っ付いてるんですかっ! 九頭龍くんはこっち、ユエちゃんはそっちです! もうっ!」
「え、いきなりどうし――」
「はやくっ」
「あ、はい」
ハユルちゃん、機嫌悪い……? 俺なんかした? もしかして俺の邪念が伝わったのか。ハユルちゃん鋭いな。流石は新聞部。
それから、ベッドに座る俺とユエちゃんの間にハユルちゃんが入る形となり、もう一度話を再開する。
「それで、ユエちゃんはどうして九頭龍くんの弟子になりたいんですか?」
「……」
その質問に、ユエちゃんは何か言いかけては口を閉じ……というのを何回か繰り返してから、
「こみゅにけーしょん、です」
「というと?」
「わたしは、いわゆるコミュ障というやつ、です。なので、九頭龍センパイから話術を学びたいと思った、です」
「なんで俺? 俺なんて入学早々自爆して数週間ぼっちになってたコミュ障だよ? 真似するとさらにタチの悪いコミュ障になると思うけど……あっ、思い出したら死にたくなってきた」
「早まらないでください! アレはウワサのせいですからね!?」
そうは言っても黒歴史ほど忘れられないものなんです。
ノブさんに首刎ねられるよりも深刻なダメージを負いつつも、ユエちゃんに色々尋ねてみる。
「この学園で俺よりコミュ力ある奴なんて500人ぐらいいるよ?」
「そんなこと、ないです。センパイは口がうまい、です。あんなに嫌われてたのに、ここまで人気者になるなんて、すごい、です」
「それはありがとう…….?」
確かに嫌われてたのは事実だけども。
俺が今みたいになったのはテロ事件があったからだし、あれだって騎士として職務を全うしただけだし。だから何となく後ろめたかったんだけど。
「おふたりみたいに、事件を解決したら、センパイみたいになれ、ますか?」
「危ないことしたらダメだからね!? あんな人気者のなり方なんて邪道中の邪道だから!」
「わかって、ます。だから、コミュ力を鍛えるしかない、と思ったの、です」
「じゃあ尚更俺に弟子入りする必要が……まぁいいや。それなら自分のアイデンティティをウリにすればいいんじゃない? 例えば……ユエちゃん魔人だったりする?」
「……はい、魔人、です」
と言って、ユエちゃんはぶかぶかのセーターから手を出した。すると、その小さな手がぐにゃりと歪み、葛餅のような質感の触手に似た腕になった。
「わたしはスライムの魔人、です。暑さに弱いので、魔法で冷気をまとって、セーターで逃がさないようにしてる、です」
「だからこんな暑いのにセーターなんか着てたのか」
ユエちゃんのスライム化した腕に触れる。ひんやりと程よく冷たくて気持ちいい。寝るときに隣にいたら快眠できそうだな。
「じゃあスライムをウリにすればいいじゃん。スライム可愛いって一時期人気だったしさ。あの頃は俺も癒されてたなぁ……」
「九頭龍くん? スライムブームは20年ぐらい前ですけど……私たちまだ生まれてませんよ?」
「えっ、あ、いや、それは……ほら! 親がね、スライムブームをいつまでも引きずってたから! それに影響されて俺もね!」
「そ、そうですか……でも確かにスライム可愛いですよね。クラゲに癒される人って結構いますけど、まさにそんな感じなんですかね?」
「そうそう。プニプニしてて可愛いんだよ。野生のやつは凶暴だからそのまま飲み込まれかねないけどね」
ユエちゃんの腕を無心でプニプニし続ける。これ「無限プ◯プチ」みたいな感じで「無限プニプニ」作ったら絶対売れるわ。
「んぅ……あっ、あの、センパ、イ……っ、そろそろ、やめっ……んっ」
「あ、ごめん我を忘れてた」
ユエちゃんが嫌がったので、名残惜しかったが中断する。……なんか息荒くない? 顔赤いし、悩ましい声上げてたし。
俺は腕触ってただけです。断じていやらしいことはしてません。ハユルちゃんからの視線が痛いけどあえて無視します。
「はっ、はぁっ、はぁ……っ」
「ほ、ホントにごめんね? 大丈夫?」
「だ、い、じょぶ、れす……」
「……九頭龍くんのえっち」
「違う、俺は無罪だ! 控訴を要求します!」
「却下です。九頭龍くんなんてもう知りません」
ハユルちゃんはぷいっ、とそっぽを向いてしまった。なんつー可愛い怒りの表現……あれ、なんでハユルちゃんが怒ってんの? やっぱり女心はわからない……。
「ま、まぁほら! スライムブームが過ぎた今でも十分通用するってわかったじゃん!? そこをもっと売り出してけばいいんじゃないかな!」
苦し紛れに、強引にまとめる。しかし依然としてユエちゃんの反応は薄く、ハユルちゃんの視線痛かった。
くっ……この状況を切り抜けるにはどうすれば……って、あれ? 元々俺、なんでこの2人と会ったんだっけ?
「あ、そうだ。アレだった」
「……?」
「な、なんですかいきなり?」
首をかしげる2人を勧誘する。
「2人ともさ、中執相談窓口って興味ない?」




