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第37話『可愛らしいストーカー』

 保健室のベッドに2人を寝かせ、濡れタオルを絞って見守る。

 保健室の先生が不在だったのでベッドとタオルを勝手に拝借したのだが、まぁ問題は無いだろう。


 問題があるとすれば。


「ぅうん……違うんです九頭龍くん、それはペンギンじゃなくて漬物……それも違うんですってば……それネギです……」


 ハユルちゃん、どんな夢見てるんだよ。純粋に脳内が心配になってきたぞ。

 でも何だろう、寝言の内容に反してすごいうなされてるんだが。一応起こしとくか。


「おーい、安浦さーん。起きて起きて、これ以上夢の中の俺を意味不明な目に遭わせないで」


「んん……むりですよぉ……いくら柳沢くんでもAP◯X4869をイッキは……ああっ、羽多野くんイッキコールはダメです……若返りすぎて白亜紀まで行っちゃいますよぅ……」


「ジョージィィィ! 夢の中でまで変なハッスルすんな! ってそうじゃない、安浦さん起きて!?」


 ハユルちゃんの中にとんでもない闇が隠れてるんじゃないかと心配になってきた。もしかするとこの子の本性はハジケリストかもしれない。

 

「……こさ……ん……」


「え? なんて?」


「エクスポージャーインデックスッ!!」


「ぶッ!?」


 意味不明な叫び(カメラ用語だった気がする)とともにハユルちゃんが目を覚まし、ガバッと一気に起き上がった。

 その顔を覗き込んでいた俺は、ハユルちゃんのヘッドバットをモロに食らって悶絶。とんでもない石頭……ッ。


「んぅ……あれ? 九頭龍くん? なんで頭押さえて……それに私いったい……」


「おはよう、安浦さん。……なんか悩んでるなら相談乗るからね?」


「は、はぁ、どうもありがとうございます……? えっと、どうして保健室に?」


「俺もよく知らないんだけどね。叫び声が聞こえたから行ってみたら、ハユルちゃんと女の子がもう1人倒れてて」


 なんで休んでたはずのハユルちゃんがあそこにいたのか? あそこで何が起こったのか? あの女の子は誰だったのか?

 それを聞いたところ、ハユルちゃんはしおらしそうにして、


「実は……その、九頭龍くんものすごく疲れてるみたいだったので。なんとかしてストーカーの正体を掴まないとって思って……」


「それで仮病まで使って探し回ってたんだ? 全く……その優しさはありがたいけど学校休んじゃダメでしょ」


「すみません、居ても立っても居られず……あ、でもストーカーの正体は掴みました!」


 しおらしい様子から一転して、パッと ドヤ顔を浮かべる。反省してるのかこの子……と呆れながらも、ストーカーの正体を突き止めてくれたのはありがたい。


「どんな奴だったの? 中執のパシリ?」


「それはわかりませんけど……多分、私といっしょに倒れてた女の子です」


 なんでも、ハユルちゃんがストーカー行為を発見して呼び止めた時、あの子はたいそう驚いて大絶叫したらしい。

 そして、それに驚いたハユルちゃんも叫びながらショックで気絶。その現場を俺が抑えたと。……なんつー間抜けな話。


「……で? その話は本当かな?」


 そう言ってベッドの仕切りのカーテンを開く。すると、カーテンの奥……もう1つのベッドから降りて逃げようとしている女の子の姿が。

 いきなり話しかけられて動揺しているようだ。「どうして起きたとバレた?」「どうして逃げようとしてるとわかった?」「いつバレた?」……といった感情が瞳で揺れている。


「あ、あぅ……わ、わたし、は……」


「安心していいよ。俺は怒ってないから……今のところはね。とりあえず名前とストーキングの理由を聞かせてもらおうかな」


 その子はしばし瞳を泳がせ、考えを巡らせてから……観念したようにベッドの上に正座した。


「ごめんなさい、です……センパイのことが、気になってた、ので……空海うつみ柚絵ユエといい、ます」


「オーケー、ユエちゃんね。俺のことが気になってたってのは……まぁ、うん。そりゃ気にもなるわな」


 転入前からとんでもない不良と目をつけられ、転入早々学園ランク上位の奴を一撃KO、テロ事件解決に大貢献し、さらに10位の溝呂木をも下して中執入り……わぁ、振り返ってみると俺の功績すげえ。

 そりゃ佐伯も頭抱えるわけだ。目立ちすぎだろ。


「センパイのウワサを聞いて、ずっと気になってた、です……いつもセンパイのこと、考えてて……そしたらずっと見てたくなった、です……それでセンパイを付け回してた、です。ごめんなさい」


 ……ん? あれ? これ告白? 

 流石にコレは言い逃れのしようもない告白だよね? つまり俺モテてたってことだよな!?

 ヒャッハァ、ザマァ見ろジョージと羽多野! 俺はお前らとは違ってモテてんだよ!


 と、調子に乗ってたら横からヒヤリとした空気が流れてきた。物理的な温度じゃなくて、もっとこう精神的な。

 チラリと横目でハユルちゃんを見る。わかりやすく頬を膨らませて怒っていた。え、俺が何をした!? とりあえずスルーして話を進める。


「ええっと、ユエちゃん? それはどういう意味かな?」


「そのままの意味、です。ずっと、ずっとセンパイのこと見てた、です」


 そう言って、ユエちゃんは俺にずいっと詰め寄ってきた。その静かな圧力に驚いてバランスを崩し、不覚にもユエちゃんに押し倒される体勢となる。

 それを見たハユルちゃんは顔を真っ赤にして「ちょっ、何をっ」と驚いていた。


「ちょ、ちょっとユエちゃん? いきなり何して……って普通逆じゃね?」


「わたしの……に、なって、ください」


「な、何だって? 何になるって? てか近くね? もはや抱きついてね!?」


 どんどんユエちゃんとの距離が縮まり、息が触れ合う距離にまで顔が近づく。あまりの押しの強さに俺は混乱し、ハユルちゃんは「はわわわわわわわ」とショートしていた。


 そしてユエちゃんは俺の耳元に顔を寄せ、




「わたしの、ししょーになってください」




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