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第36話『イケメン・キザ野郎・女たらし』

 その後、会議は滞りなく終了した。

 アッサリしすぎて俺も少し困惑したほどだったが、それだけ第1位の発言力は大きいものなのだろう。

 俺がそこまで拒否していなかったのもあって、返事をする前に相談窓口のチーフに任命されてしまった。


「ったく、俺にやらせるって決めてんなら事前に予告しとけよな……」


 屋上のフェンスに寄りかかりながら、ぼんやりと遠くの空を眺めてぼやく。


「そりゃ人使いの荒さには慣れてるけどさ。それにしたってホウ・レン・ソウぐらいはしてほしいもんだ」


 大きく溜息をつきながら振り返り、



「なぁ、冷泉?」



 俺の後ろに立つ人物に愚痴をこぼす。

 冷泉は俺の愚痴に対して悪びれることもなく、キザったらしく前髪をかき上げながら、


「酷い言いようだな。せっかく君のために新しくポストを用意してあげたというのに」


「余計なお世話だキザ野郎。テメエの助けなんざ借りなくても十分だったっつの」


 吐き捨てるように悪態をつき、冷泉を睨みつける。


 この男は、監察官であるマリアさんと佐伯を除いて例外的に――メアリーは除くとして――俺が騎士団所属であると知っている唯一の人物だ。

 コイツは学生の身でありながら、よく騎士団本部を出入りしている。叔父である第1師団長サマに稽古をつけてもらっていたそうだ。


 本部に出入りしているということは、必然的に俺と顔を合わせる機会もあったわけで。

 初めて会った時は気にくわない奴だと思ってたが、こうして付き合いが続くと――実際気に食わない。犬猿の仲というやつだ。


「なんで俺がお前なんかの下につかなきゃなんないんだよ! これだから中執に入んの嫌だったんだ!」


「そうかね、私は光栄だが。あの最凶にして最狂と呼ばれた特A級騎士殿を指揮下におけるのだから」


「嫌味かテメエ! どうせ最凶で最狂にはなれても最強にはなれねえよ!」


 騎士の階級というのは今までの功績も加味される。よって、どれだけ俺が強くてもキャリアの長い特A級騎士よりは下っ端ということになる。

 俺が特A級8位なんて地位に甘んじているのも、特A級が揃いも揃って超長キャリアの人ばかりだからだ。


 特にこいつの叔父――特A級1位、冷泉・ユーティライネン・時臣ともなれば別格。

 強さだけなら俺とそう変わらないが、キャリアも功績も段違いすぎる。地位も伴ってこその最強と考えている俺にとっては最大の目の上のタンコブだ。


「嫌味のつもりは無い。実力で叔父上に匹敵する時点で、君も十分最強を名乗っていいだろう。むしろ称賛に値するよ」


「うぜえ! キザ野郎うぜえ! あんま近寄んなキザが移る!」


 手でしっしっとやりつつ、理不尽すぎる罵声を吐く。

 本ッ当にコイツとはソリが合わない。


「俺はな、イケメンとキザ野郎と女たらしが嫌いなんだよ。つまり全部合わせ持ってるお前は大ッッッッ嫌いだ!」


「ふっ、手酷く嫌われたものだね。あと私は女たらしになったつもりは無い。紳士として当然の振る舞いをしているだけさ」


「そういう所だよ! あークソ、お前と話してると本当にイライラする!」


「会議後に呼び出したのは君なんだが」


「そりゃ文句言うためだっつの! 誰がお前なんかを呑気にお喋りするために呼ぶかよ」


 文句を言うだけ言ったので、冷泉に中指を立ててから退散することにした。

 これから忙しくなる手前、こいつにかける時間がもったいない。ま、呼び出したの俺なんだけど。


「文句はいいが……相談窓口のことは頼んだよ。できるだけ早くメンバーを集めてくれたまえ」


「言われなくてもわかってる」


 相談窓口は、中執の下請け組織という扱いになるらしい。リーダーを俺として、あと数名を部下として加えろとのことだ。

 情報収集要員としてハユルちゃんは確定。監察官として動きやすくするために佐伯とマリアさんもだな。ジョージと羽多野は……あいつらはやめとこう。きっとロクなことにならん。


 俺はムカつく冷泉を屋上に放置して、早速ハユルちゃんをスカウトしに行った。

 この時間だと図書室で勉強してるかな。試験も近いし。ハユルちゃん真面目だしなぁ…….努力に結果が見合わないのは、きっと試験当日でドジってるんだろうな。


 と、そんな想像をしながら図書室を目指していた、その時――


「きゃああああっ!?」


「ひゃあああああっ!?」


 2つの悲鳴が重なって聞こえてきた。俺の後ろからだ。

 何が起こったんだ、と急いでその場へと向かう。すると俺が歩いていた場所のすぐ近くの曲がり角で、


「安浦さん……!? 今日は風邪ひいてたはずじゃ……それに、そっちの子は……」


 ハユルちゃんが目を回して仰向けに倒れていた。そのすぐそばで、同じように目を回している少女が1人。


 ハユルちゃんと同じぐらい小柄な女の子だ。リボンの色からして1年生だろう。

 青、銀、翠が複雑に入り混じったような奇妙な薄水色のショートカットに、もう初夏だというのに手が隠れるほどのぶかぶかのセーターを着ている。


「何が起こったんだ!? おい、安浦さん!」


 肩をゆすり、ぺちぺちも頬を叩いてみるが「うーん……」と唸るだけで起きてくれない。水色の髪の女の子に関しても同じだった。

 周りには誰もいないし、冷泉を呼ぶのも癪だし……仕方ない、俺1人で保健室に運ぼう。

 幸い、2人とも軽くてちっこいので運びやすい。


「これでよし、と……行くか」


 少しアレな絵面だが、2人を小脇に抱えて保健室に向かった。仕方ないじゃん、これ以外に気絶してる2人運ぶ方法無いもん。


 その途中、


「くずりゅう、センパイ……」


 と、水色の髪の女の子が寝言を言っていたのが聞こえてきた。



やっと2章ヒロイン登場です

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