第35話『中央執行部』
「では今回も司会を務めさせて頂きますッ、光圀直刀ですッ! よろしくお願いしますッ!!」
ホワイトボードの前に立ち、七三メガネの男子が声を張り上げる。光圀って言えば……確か第5位『鶴丸』だったか。2年生では最上位だ。
見た目通り、クソがつくほどの生真面目らしい。パッと見で「あぁ、こいつ委員長なんだな」とわかるビジュアルだ。そして声がでかい! うるさい!
「今日の議題はほかでもありませんッ、新たな中欧執行部の仲間にご挨拶して頂きたいと思いますッ! では九頭龍君、よろしく頼むッ!!」
「あぁ、うん……」
その剣幕にちょっと引きながらも、言われた通りに席を立って挨拶する。
「あー、どうも。新しくここに入ることになりました、九頭龍巳禄です。この間までは色々とお騒がせしてたみたいで、すんません。これからよろしくお願いします」
変に真面目にやるのも柄じゃないので、適当にゆるーく挨拶を済ませた。
挨拶が終わると、ぱちぱちと覇気のない拍手が返ってくる。まぁ挨拶っつっても形だけのもんだし。こんなのに全力で拍手する奴なんて、前で背筋を正している光圀ぐらいだ。ほんとクソ真面目だなこいつ……。
「ありがとうッ! 九頭龍君は同級生から師として慕われていると聞いているッ! これからの活躍も期待しているよッ!!」
「そりゃどうも……」
光圀の熱い激励を軽く受け流していると、
「ねーぇ、光圀くぅん。そんなことよりぃ、早く本題に入ろーよー」
ぶりっ子を極めたみたいな甘ったるい声が上がる。俺の斜め前の席に座っている、小柄な女子生徒だ。
ただでさえ小柄なハユルちゃんよりも体が小さく、薄桃色のショートボブの上にはネズミのような獣人の耳が。
あ、この人知ってるぞ。確かアレだ、メアリーをしつこく付け狙ってる例の「ネズミ女」先輩。
第4位『閃針』の茶々丸寧々。こんな小学生みたいなナリでも3年生だ。
「ネネ、堅苦しいのはあんまり好きじゃないかもぉ。ね? 早く終わらそ?」
「そ、そうですか……わかりましたッ! 時間も惜しいので本題に入りましょうッ!!」
光圀はそう言って、ホワイトボードにペンで何やら書き始めた。えーと……「中央執行部相談窓口開設について」? 何だろう、目安箱的なやつ?
「さてッ、我々中央執行部は兼ねてより「生徒との距離が遠い」「意見が反映されていないのではないか」といった疑問の声を聞いてきましたッ! 九頭龍君の監視体制の件に関してもそうだったのは、皆さんの記憶にも新しいかと思いますッ!!」
「え、俺っスか?」
「そーなのぉ。「九頭龍くんは悪い人じゃない」とか「全員でハブるみたいなのはおかしい」みたいな意見は聞いてたんだけどぉ、結局テロ事件が終わるまで監視体制が続いてたー、ってやつぅ。ネネはずぅーっと「監視なんて解いちゃえ」って言ってたのにぃ」
「あ、そうなんスか。どもっス」
それ、どこまでが本当なんだろう……この人、平気で嘘とかつきそうなタイプだから苦手だ。
調べてる限りだと「女子にありがちな闇を体現したような人」というイメージしかないし。ネネ先輩こええ。
「生徒からの抗議の声があったにもかかわらずッ、我々中央執行部はそれを議論することなく却下したッ! このようなことは中央執行部の信頼関係にも影響しますッ! そして何よりッ、運営機関としてはあってはならない対応でありますッ!」
おいおい却下しちゃったのかよ。
さっきの「九頭龍くんは悪い人じゃない」っての絶対ハユルちゃんだろ。なにハユルちゃんの意見無下にしてんだ。ちょっと腹立ってきたぞ。
「よってッ、中央執行部がより生徒の声に耳を傾けッ、より良い学校運営を遂行できるようにッ、中央執行部相談窓口を開くことを決定致しましたッ!」
あ、もう決まってるんだ。その相談窓口とやらをやるかやらないかを話し合うのかと思ったんだけど。
あれ? じゃあなんで俺呼ばれたの? マジであの形だけの挨拶だけ? 嘘だろオイ、人使い荒くね――
「そしてッ、窓口の責任者を九頭龍君にやってもらいたいッ!」
「!?」
不意打ちかよ! 俺に押し付ける気満々で採用しちゃったのソレ!?
「な、なんで俺? いきなりすぎません? つーか俺、中執についてまだ何も……」
「むッ!? 田中君にその説明はお願いしたはずなんだけれどもッ!?」
「……すいません。忘れていました」
おい田中ぁ! 同じクラスなんだし話すタイミングなんていくらでもあっただろ!?
「もーぉ、田中くんったらぁ、うっかりさんだなぁ」
「……すいません」
「ま、仕事任されるだけ、どっかの留学生よりは信頼されてるからぁ、安心していーよぉ」
ネネ先輩がチラリとメアリーの方を向いて、クスクスと嫌な笑いを浮かべながら言った。
出たよメアリーいびり。話には聞いてたけどマジで陰湿だなオイ。メアリーは全く気にも留めてないようだが。
「……」
「あれぇー? ダンマリぃ? その口は飾りですかぁー? 黙ってるだけの置き物なんていなければいいのにぃ」
「……下らない話で会議止めてるあんたよりはマシだと思うけど」
「はぁ? 誰に口答えしてんの、魔法界人のメアリーちゃんってばぁ。調子乗ってるとぉ……潰すぞ? あ?」
こええ! ネネ先輩こええ! できるだけ関わりたくねえ!
あとあんまりメアリー刺激しないで! その子、俺の監察官任務の生殺与奪権持ってるから!
みんな「あぁ、いつものが始まった」みたいな呆れ顔してないで止めてくれ! 俺の胃が死んじゃう!
「静粛にッ! 会議に関係の無い発言は控えて下さいッ!」
「……ふふっ、冗談だよもぉ〜。それでぇ? 相談窓口のことだけでも教えてあげたらいいんじゃなぁい?」
「承知していますッ! では九頭龍君ッ、説明しようッ!」
光圀が相談窓口とやらについて熱く説明してくれた。
色々と回りくどかったので簡単に言うと……まぁ「何でも屋」みたいなもんらしい。生徒からの些細な悩みを聞いて、その解決のために動く。場合によっては定例会でも議題として出すと。
あれ? これ要は監察官任務じゃね?
なんかやらされるって聞いた時は「めんどくせえ」って思ったけど、結局いつも通りじゃん。
「少しばかり多忙な役割であることはわかっている……が、しかしッ! 九頭龍君以外にこれを果たすことはできないッ! 僕はそう思っているッ!」
それはそうだろうな。だって中執のメンツ見てる感じだと、そういうお悩み相談とかできそうな奴いないもん。
全員個性が尖りすぎて向いてない。その点、俺は現時点でも交友関係は拡大中だし。監察官としても動きやすくなる。
「それにこれに君を任命したのは他でもないッ、我らが中央執行部部長なのだからッ!」
光圀の言葉に、俺以外の全員がある1人の男子生徒を向いた。
丁寧に整えられた金髪に琥珀色の瞳。日本人離れした高めの鼻梁に整った顔立ちをした、非の打ち所のない容姿をした美青年だ。
そいつは視線を受けて少しだけ肩をすくめてから、
「おや、私か。あぁそうとも。これを提案し、君を任命したのは部長の私だ」
高校生離れした落ち着きのある口調に、優雅な仕草。そして隠しきれない猛者の気配。
俺はこいつのことを知っている。東京騎士団でも、こいつのことを知らない奴なんていないだろう。何せ、この青年は――
「改めて自己紹介させてもらおうか。私は冷泉霧也。この学園の第1位『零騎』だ。よろしく頼むよ」
冷泉霧也。またの名を、冷泉・ジュリウス・霧也。
魔法界人の血を引いた天才にして――東京騎士団第1師団長・特A級第1位の男の甥なのだ。




