第34話『バレてた!?』
溝呂木との決闘から1日経った放課後。
俺はすでに心も体も疲弊し、ヘロヘロの状態だった。
そりゃわかってたよ。こうなることぐらいは。だって学年のちょっとした有名人から、一夜にして学園中の注目を集める存在になったんだから。
どこに行っても喋りかけられるし、根掘り葉掘り聞かれるし、色んな所連れ回されるし、先生にも呼び出し食らうし。
「その状態で今から中執に行かなきゃならないんだぜ? もうやだ、帰りたい……」
「ハッ、ざまあ見やがれ! オレらの期待を裏切って勝つからそんなことになるんだよ!」
「……チッ、ネタキャラ扱いならずかよ」
「お前らさぁ! 人が弱ってる時に辛辣すぎだろ!? もっと気遣えよ!」
予想に反して俺が勝ったことで、ジョージは露骨に俺の扱いが悪くなった。羽多野もさらに口が悪くなったし。
何なのコレ。俺もう疲れたよ。これからもっと疲れるのに。
「いっそ殺せ……」
「お、おい冗談だろうが。そこまでガチヘコミされるとどうすりゃいいかわかんねえだろ……」
「……ま、疲れんのは有名税ってやつだ。責任持って気張れよ」
「それはそうだけどさぁ……」
マリアさんの「ご褒美」とやらはいつものようにヘッドロックされて終わりだったし。
ハユルちゃんは体調不良で休みだし。昨日の試合で大興奮して寝られず、そのまま体調を崩したらしい。
そしてなぜか屋上にいなかったメアリー。
「俺の癒しが全滅ってどういうことだよ! 頑張った甲斐ねえよチクショォォ!!」
「まぁ、なんだ。ここは踏ん張りどころってやつだ! せいぜい頑張れよ!」
「……中執入りしたんだから校則決め放題だろ。女子はスカート膝上15センチ強制な」
「馬鹿野郎! スカートは長めの方がチラリズムした時に映えるだろうが! これだから童貞はよォ!」
「……童貞はテメエもだろクソゴリラ。スカート長いと脚が見えねえだろ」
「出たよ脚フェチ! そんなに脚が好きなら自分のでも延々眺めてやがれ地味野郎!」
「……あ? 戦るかゴリラ」
「上等だコラァ!」
あぁ、なんてどうでもいい口論……そんなことしてる余裕があるのが羨ましい。
俺はギャーギャーいがみ合っている2人を放置して、とぼとぼと中執の本部へ向かった。
一番デカい棟の2階だったか? 全く、呼び出すなら案内の1人でも呼ぶなりすりゃいいのに……こんなクソデカい校舎なんだから。
1人でブツブツと文句を垂れながら歩いていると、曲がり角で見知った赤髪のポニーテールが揺れた。
「メアリー?」
「……何」
「あ、いや、今日は屋上にいなかったから、どうしたのかなーと」
「中執の緊急呼び出し」
「へぇ、そんなのあるんだ。面倒臭そうだな……なんで呼び出されたの」
「あんたのこと」
「あっ……」
そりゃそうだった。学園のトップメンバーが1人入れ替わるんだから、ドタバタもするか。
もしかして面倒事の種である俺にイラついてるんじゃ……? うん、今日はあまり話しかけないでおこう。
「あんたも呼び出し食らったでしょ」
「ま、まぁね。今ちょうど本部を探してたところで」
「そ。付いてくれば?」
「一緒に行く」じゃなくて「付いてくる」なあたり、やっぱりまだ壁を感じる……。
「……」
「……」
2人とも無言で 歩みを進める。気まずいけど我慢。ここで下手に話しかけてイラつかせるのも申し訳ない……と思ってたら、意外にもあっちの方から話しかけてきた。
「ねぇ」
「ん? どうかした?」
「あんたさ、実はあんなもんじゃないんでしょ?」
「うぇ!? な、何のことかな……?」
「とぼけなくていいから。昨日の試合、その気になれば一瞬で終わったんでしょ」
なっ、なななっ、なななな何を言ってるのかサッパリわかりませんなー! 気のせいだと思います、アレが俺の全力です!
……と、誤魔化すこともできず。俺は黙りこくってしまった。それが肯定の証であるとはわかっていたが。
「最初に負けかけたのだって、どうせ勝てると思って手抜いてたんでしょ」
「ど、どうしてそう思ったの?」
「あたしもそうだったから」
なんと。メアリーも実力を隠しているらしい。まあ、何となく予想はしてたから驚きはしないけど。
しかし、なんでそれを俺に言った? 何か目的でもあるのか……メアリーの考えはイマイチ読めない。
「あんたが実力隠してる理由は聞かない。けど、これだけは言っとく」
メアリーは足を止めて振り向き、
「ここの生徒は実力隠してる奴が多いから。単純な順位だけ見てると、足元掬われるよ――監察官」
バ、バレてたぁぁぁぁ!
え、どうしよう? これ任務失敗? 監察官に就いて1ヶ月でクビとか前代未聞なんだけど? 俺どうなんの?
「あ、あの、メアリー……?」
「バラすつもりは無いから。今のはタダの助言」
そうは言われても、俺としては不安でたまらない。
ただでさえ心身ボロボロなのに、新しいストレスの種増やさないでくれるかなぁ……本当はメアリーが珍しく助言をくれたことを喜びたいんだけど。
それ以来、お互い無言で歩いていると、メアリーがある扉の前で立ち止まった。
ほかの教室と比べて少し大きめの木製の扉だ。その上には「中央執行部」と書かれたプレートが壁に貼り付いている。
「ここ」
メアリーはそう言って扉を開き、中に入っていった。
俺もそれに続いて入室する。定刻より10分早いが、すでに俺とメアリー以外のメンバーが揃っていた。
その視線の全てが、一斉に俺へと向く。
8人に観察されてギョッとしながらも、黙って空いている席につく。その奇妙な沈黙を1人の男子生徒が破った。
「定刻より少し早いですが、全員集まったようなので定例会を始めましょうッ!」
この瞬間から、俺の監察官としての生活が大きく変わる。俺は無意識のうちに背筋を正さずにいられなかった。
……監察官、続けられるよな? 大丈夫だよな?




