第33話『vs第10位「爆鎧」③』
溝呂木は一瞬、何が起こったのかわからないといった表情で呆け、一拍置いて強引に飛び退いた。
「なんッ……だ、今のはァ……! 確かに剣は、ぶッ壊したはず、だろォが……ッ」
「あぁ、壊れたさ。だから作り直したんだよ」
俺の右手には、ついさっき粉々になったはずの鋼の剣。それも、強化魔法と振動魔法を付与された状態の。
「フザけんな!! あんな一瞬で、あんだけの魔法をかけ直せるワケが……!」
「そりゃそうだ。あんなチマチマ強化魔法かけてるヒマなんざ無かった。だから魔法1つで全部作り直した」
「ンなことでき――」
「できる。この記憶魔法さえありゃあな」
俺が使ったのは記憶魔法と呼ばれるマイナーな魔法。その性質は「記憶」と「再現」。
記憶魔法《メモリア》で1つの事象を記憶し、再現魔法《リコール》で記憶した事象を擬似的に再現する。
「再現」には「記憶」した事象を再現するのに必要な魔力をゴッソリ持っていかれる。効果は絶大だが代償も大きい魔法なのだ。
だから俺は大魔法で一気に錬成・強化せずに、初級魔法のみでチマチマ強化していた。
「お前に剣を壊される直前に「記憶」して、それを「再現」しただけだ。便利なモンだろ?」
「馬鹿な……! 記憶魔法は適性のある奴が極端に少ねえ魔法のはずだろうが! ただでさえレアな振動魔法の適性持ちのお前が、記憶魔法の適性まで……ッ!」
「ねえよ、そんなもん」
「……は?」
「記憶魔法に適性なんかねえよ。適性も無いのに、ただひたすら記憶魔法ばっか練習させられて……その結果習得できたのが、基本の《メモリア》と《リコール》の2つだけだ」
ノブさんの無茶振りの最高峰だ。適性も無い魔法を鍛えろ? 無理に決まってるだろそんなモン……と思っていたが、結果的には基礎の基礎だけは使えるようになった。
もちろん並大抵の努力はしてない。身を削り、時間を削り、死にそうな思いをしながら――否、何度も死にながら習得した。
これが、小技ばかり覚えさせられた俺の集大成だ。
「ンな……無茶苦茶な事が……!」
「あるさ。現に今、目の前にいんだろ」
そう言って剣を構える。この距離ならいつでもトドメを刺さる。勝負は決まったも同然だ。
しかし溝呂木は諦めていなかった。溝呂木は全身を岩のように硬化させ、
「クソッ……フザけんな……オレはまだ、負けてねェェェァァッ!!」
溝呂木は皮膚の一枚、髪の一本に至るまで全てを硬化させ、同時に全てを爆発物へと変えた。溝呂木の肉体が変化するにつれて、サイズも一回り肥大化していく。
半魔獣化――国内屈指の魔導学園のトップ10とはいえ、まさか学生がこれを使えるとは。最後の最後まで驚かせてくれる。
「オレはッ、まだッ、があああァァァ……ッ!!
だが半魔獣化はリスクも大きい。
素人が使えば理性は飛ぶし、苦痛も伴うし、後遺症が残ることもある。だから、早くこの試合を終わらせなくては。
「お゛おおッ……おおおォォォッ!! オレが、勝つッ、九頭龍ゥゥゥゥッ!!」
「いや、お前の負けだよ、溝呂木。すぐに終わらせてやる」
理性が飛んだことで、溝呂木の武器でもあった悪知恵が吹っ飛んでいる。
攻撃力と防御力が跳ね上がったとはいえ、ただ暴れるだけの暴徒と化した溝呂木はむしろ弱体化したと言っていい。
「《リコール》――七重詠唱」
追加で復元魔法を唱える。
俺の足元に強化された鋼の剣が7本突き立てられ、合計8本の剣が俺の手元に現れた。
その数は、半魔獣化した俺の蛇の数と同じ。
俺の半魔獣化したあとの「猛毒以外での」戦闘スタイルを、強引に魔法で再現する。
「行くぜ溝呂木! 《グラズド》!」
7本の剣を土魔法によって宙へと舞い上げ、突進してくる溝呂木を迎え撃つ。
まずは渾身の拳を受け流しつつ一撃。あまりの衝撃に剣を手放しそうになり――そのまま剣を手放す。
続いて落ちてきた剣を1本キャッチして、無防備な溝呂木にまた一撃。その次に落ちてきて剣を拾い二刀流。
2撃目、3撃目と追い討ちしてから一旦離脱。それを追おうとする溝呂木の首元に剣が1本落ち、突き刺さる。
「ぐ……おおォッ……!」
「まだ終わりじゃねえぞ」
動きの鈍った溝呂木を素早く斬りつけ、また曲芸のように剣をキャッチしては斬りつけ、突き刺し、時には放棄し、8本の剣による怒涛の連撃を見舞う。
このジャグリングのような剣術こそが半魔獣化していない俺の戦闘スタイル――変則八刀流。
四方八方から予測不能の斬撃を浴びせ続ける、超攻撃的な剣術。
ただでさえ初見殺しのこの剣術に、さらに幻覚魔法を織り混ぜていく。溝呂木はもう自分が何をされているのかすら理解できないだろう。
一撃、また一撃と剣を受け続け、ついに溝呂木のHPが2割を切る。そこでようやく溝呂木は多少自我を取り戻した。
「チマチマ鬱陶しいンだよォォォォォッ!!」
体の至る所を無差別に爆破させ、剣の包囲網を強引に突破する。
確かにこの変則八刀流から抜け出すのには、全方位攻撃で剣を吹き飛ばすのが有効だ。
だが。
「もう遅い」
全方位爆撃のあとは、どうしても大きな隙ができる。
俺はそれをずっと狙っていた。煙が晴れると、すでに溝呂木の視界から俺の姿は消えている。
俺は溝呂木の背後へと忍び寄り、俺の習得している唯一の大魔法を解き放った。
「これでトドメだ――《レゾナンス》ッ!!」
凄まじい振動によって敵を内部から破壊し尽くす、防御力を無視した大魔法。
その前では自慢の鎧も意味を成さず、溝呂木はその場に前のめりになって崩れ落ちた。
そして、溝呂木のHPの表示がゼロを指す。
『K.O.――winner.Kuzuryu Miroku』
試合終了のブザーが鳴り、観客の大歓声が決闘場に響き渡る。
勝利したことを実感してドッと疲れた俺は、息を切らしながら観客席を見回してみた。
そこでいち早く目についたのは、最前列でぽかんとしているハユルちゃんと、その隣で同じような反応をしているジョージと羽多野。
その遥か奥では、メアリーが少しだけ目を丸くしている様子が見えた。
「やっと、終わった……」
しばし歓声を受けてから、疲れた体を引きずって舞台裏へと歩みを進める。その途中で、
「――っ」
例の視線を感じ、反射的に振り向く。
しかしこの喝采の中で、それが誰の視線かなんてわかるはずもなく……そのまま舞台裏へと引っ込んだ。
「くずりゅう、みろく、センパイ……面白い、です」




