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第31話『vs第10位「爆鎧」①』

 約束の放課後。

 俺は授業が終わってすぐ、溝呂木のパシリに大体育館へと連れて行かれた。


 連れてこられた体育館は、俺が体育の実戦訓練で使っている場所ではなかった。

 その造形は、どちらかというと「闘技場」と言った方が近かった。ここで決闘が行われるのは、極めてイレギュラーな場合のみ。


 1つは、秋の選抜戦とやら。

 もう1つは、学園ランクトップ10のメンバーが中執の座をかけて戦う時。つまり、今この時だ。


 闘技場の中心、満員の観客席に囲まれた円状のステージで、俺と溝呂木が睨み合う。


「よォ、逃げなかったってのァ褒めてやるよ」


「逃げたところでしつこく追ってくる癖に」


「ハッ、よく知ってるじゃねェか。どこで聞いたのかは知らねェが」


 溝呂木は硬い拳をガンガンと付き合わせながら、獰猛な笑いを見せた。聞いてた通り、俺のことは追い回してくるつもりらしい。

 本当に迷惑だ。そんなことされたら監察官の仕事にも支障が出る。迷惑千万だ。だから俺は、


「1つ、条件がある。今回俺が勝ったら、俺にしつこく再戦をふっかけんのはやめろ。邪魔だ」


「……ほォ。いいぜ、飲んだ」


「お、思ったよりアッサリだな……もしかして交換条件的なのがあったり?」


「ッたりめェだろ。オレぁハナからそのつもりだった」


 しつこさに定評のある溝呂木が、しつこさをかなぐり捨てて交換条件……どんな要求をしてくるつもりだ?

 それほど価値のある要求ってことなんだろうが、いったい何だろう。


「もしオレが勝ったら……九頭龍ゥ、テメエ卒業までオレの舎弟だ」


「は?」


「光栄に思えよ? 普通ならパシリにでもしてやるつもりだったんだが、テメエほどのやり手なら使いようもある。この第10位サマの舎弟だぜ? 単純に地位も上がらァな」


 溝呂木の奴、最初から俺のことを懐柔……いや、屈服させるつもりで接触してきたのか。

 ずっとこんなムサイ奴の下とか反吐が出る。どうせ舎弟になるならマリアさんの方がいい。……それもキツそうだな。


「残念だけどお前の舎弟にはなれねえな。今日は可愛いガールフレンドが2人も応援に来てくれてんだからよ」


「そうかィ、ならそのガールフレンドごとパシリにしてやらァ!」



『3、2、1――Duel start』



 電子音声と同時に、試合が始まる。

 まず最初に動いたのは――溝呂木の方だった。


 試合開始とほぼ同時に炸裂音が響き、土煙が上がる――と、認識した瞬間。20メートル弱離れていた溝呂木は、俺の真正面で拳を振り下ろさんとしていた。


「――ッ!?」


「あばよ、ノロマァ!!」


 その鉄拳を俺は間一髪で躱しきり、最小限の動きで反撃に出る。振動魔法を乗せた左の掌が溝呂木を捉え、その脳を激しく揺さぶ――


「ッ!!」


 一瞬、空気が収縮していくような感覚がして、俺は直感に身を任せて大きく飛び退いた。

 その刹那、溝呂木の拳が当たった地面が大爆発し、俺の鼻先を火の粉が掠める。


「……っぶねえ! 一撃で負けるとこだった!」


「ほォ、今のを躱すかよ。初撃をノーダメージで済ませたのは、10位ンなってからはテメエが初めてだ」


「そんな嬉しくねえバージンいらねえよ!」


 どういうことだ? 何が起こった?

 溝呂木の図体からは想像できないほどのスピードに、唐突な地面の爆発。

 アレは魔法なんかじゃなかった。魔法にしては周囲の魔力に動きが無さすぎる。あいつ、何をした……!?


「ボサッとしてんじゃァねェぞ!!」


「チッ!」


 溝呂木の拳が嵐のように俺に襲いかかり、その度に溝呂木の拳が謎の爆破現象を起こす。

 拳だけなら躱すのも簡単だが、爆発のせいで見かけ以上にリーチが長い。爆発の規模も読みながら回避し続けるのは至難の技だ。


 ここは作戦通り離脱してから遠距離で――と、爆発の煙に紛れて溝呂木から距離をとると、


「ヘッ、かかったなァ……!」


 た、溝呂木がほくそ笑みながら俺に手のひらを向けてきた。そして、再び爆音。

 けたたましい爆音とともに俺の目の前へと「何か」が猛スピードで飛んできて――


「やっべ!」


 嫌な予感がした俺は、反射的に俺の出せる最高硬度の障壁魔法を展開した。その嫌な予感は的中。

 飛んできた「何か」がさっきまでとは桁違いの爆発を起こし、障壁を破壊してしまったのだ。その余波で俺のHPが1割ほど削られる。


「クソ、遠近両方行けんのかよ……!」


「ようやくダメージ入ったなァ九頭龍ゥ……どうだ、ワケもわかんねえまま爆撃される気分はよォ」


「ドカンドカンうっせえんだよ。近所迷惑だぞコラ」


「ククク……ッ、いつまで近所迷惑程度で済むかねェ!」


 大爆発を起こし、猛スピードで接近してくる溝呂木。

 奴が爆発の推進力で突進してきてるのはわかった。だが爆発のタネは不明。

 魔力を使わずに爆発を起こす――考えられるとしたら、()()か?


「おいおい、動きが鈍ってるンじゃねェか!? それともHP削られてビビっちまってンのかァ!?」


「うるっ、せえ……なぁ!」


 溝呂木の動きをよく観察する。

 基本の構えは拳を高く構えたボクシングスタイル。最小限の動きで最大火力を出すことに特化している。思っていたよりは洗練されてるが、対処できないレベルではない。


 ボクシングスタイルを取っている以上、ボクシングスタイルの弱点があるはずだ。

 例えば、拳を高く構えている所。そしてあまり腰を落としていない所。ここから導き出される弱点は――


「これで終わりだ、九頭龍ッ!」


「そりゃこっちのセリフだぜ。足元がお留守なんじゃねえの?」


「あァ? ……んなッ!?」


 溝呂木の動きが強制的に止められる。

 下級の振動魔法によって地面を高速振動させ、簡易的な液状化を引き起こしたのだ。認識外からぬかるみに足を取られ、溝呂木は体勢を大きく崩す。


「終わりだ!」


「ク、クソッ! 畜生ォォォッ!」


 仕留めるなら確実に。俺は振動魔法ではなく、鋼魔法によって剣を錬成し、溝呂木の首に突き立てた。

 本来なら死ぬようなダメージは、この決闘の「システム」に吸収・HPの減少に換算されて肉体的なダメージはゼロになる。

 だから俺は溝呂木の首を狙うのに戸惑いが無かった。全力で突き刺した――そのつもりだった。


「……なァんてな」


 しかし、溝呂木の首には剣が刺さっていなかった。

 そればかりか、剣先がボキリと折られている。


「……おいおい、どんな皮膚してんだよお前」


「どんな皮膚かって? そりゃァ自分の体で確かめてみやがれ!!」


 爆発によって超加速された、至近距離からの一撃。

 俺はソレを避けきれず、鳩尾に鉄拳をモロに食らって決闘場の壁まで吹っ飛ばされた。

 拳のダメージと壁に叩きつけられるダメージによって、俺のHPが一気に半分以上消し飛ばされた。


「ぐっ……クソ、やっぱりそういうことかよ……! その爆発も、鎧みてえな皮膚も……!」


 溝呂木は爆発にはもちろん、皮膚の硬化にも魔力を使っていなかった。ジョージみたいに障壁魔法の鎧を形成しているわけでも無いのだ。

 魔力を使わない現象。つまりそれは、魔法の関与しない科学反応。


 もしくは、()()体質・・


「溝呂木てめえ、希少種の魔人か……!」


「大正解だ。気付いたところで勝負なんざついてっけどなァ」


 気が付かなかった。気が付けなかった。

 溝呂木が魔人って可能性は考えてた。ただ、その特徴を見て「あり得ない」と決めつけてしまっていたのだ。

 その特徴を見るに、溝呂木の「混じりモンスター」が幻とも言われる希少種だったからだ


 その名も、ブラスト・ゴーレム。

 魔法界シャンバラで最も希少で、最も危険なゴーレムだ。その危険度はオーガ・ジェネラルと同等のAA級特別指定危険種。

 本来ならば、本気の俺が一瞬で消し飛ばさなければならない強敵だ。


 ここまで追い詰められて、ようやく俺は自分の認識の甘さを自覚した。溝呂木は強い。舐めてかかってたら負ける。

 ヒュドラの力を封印している今、トップ10相手に舐めプしてる場合じゃない。気乗りはしないが……仕方がない。


「……ったな」


「あァ?」


「悪かったな、って言ったんだ。正直、お前のこと小物だと思ってたからよ。手ぇ抜いてたわ」


「ハッ、手抜きだったから負けましたってかァ? そンなに叩き潰されてェなら――」


「わかってる。俺、今すごいダサいわ。勝手に舐めプしてボコられてんだもん。うわぁ、言葉にすると余計恥ずかしい……」


 ほんと、何やってんだ俺。

 最初にジョージと羽多野を見て学んだだろ。ここのレベルは尋常じゃなく高いって。舐めプとかふざけてんのか。


「だから、こっからは名誉挽回だ」


 よろよろと立ち上がり、溝呂木に拳を向ける。



「決闘はまだまだこれからだ。今度こそ本気で戦おうぜ、溝呂木」

 

 

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