第30話『敵戦力調査、屋上にて』
「……あっそ」
と、メアリーは昼食の惣菜パンを齧りながら、さして興味もなさそうに言った。
どうやら俺が溝呂木に勝とうが負けようがどうでもいいらしい。周りはその話で持ちきりだったというのに。
「そういう話聞いてたりしてた?」
「中執なんて定例会以外で集まんないし。そういうの興味ないから。……見苦しいとは思うけど」
「どういうこと?」
「情報集めるヒマも与えずに一方的にケンカ売ったこと」
「え、そんなヒマいる? やるならすぐの方がよくない?」
「情報収集させた上で何人も潰してる溝呂木に勝てる自信があるなら、まぁいいんじゃない?」
あー……少なくともB級上位だもんな。生徒のレベル高いとは言っても、やっぱそのぐらい強いとキツイよな。
俺は事前情報無しの相手にぶつけられることが多かったから、そんなの気にしたこともなかった。
どうせ初見殺しの技とか来ても死なないし。あの時のノブさんはほんと人使い荒かった。
でも考え直して見るとヤバイかもなぁ。決闘ってことは体育の実戦訓練と同じHP方式だろうし、俺自身まだ戦えてもHPがゼロになれば負けなわけで。
被弾覚悟のゴリ押し戦法に慣れてる俺だと、そのまま無謀な特攻かまして負けるかもしれない。
「あれ? 意外と状況悪くね?」
「……安請け合いした自分を恨みな」
「いや、まだ負けたと決まったわけじゃないからね!? それに俺も溝呂木のことよく知らないけど、それはあっちも一緒だし!」
現時点であっちが知ってそうな情報と言えば、「振動魔法の適性が高いこと」「下級〜中級魔法の小技が多いこと」ぐらいだろう。
ぶっちゃけそれがほぼ全てなんだけど、100パーセントそれだけってわけでも無い。
「奥の手さえ決まれば勝てる……と、思いたい!」
「……ま、せいぜい頑張ったら? 中執に入るにしても、溝呂木よりはあんたの方がマシだし」
「溝呂木になんの恨みが……」
「単純にデカいから邪魔」
判断基準が理不尽。その理不尽の対象にならなかったことを喜ぶべきか、そんな理由で「マシ」扱いされたことを嘆くべきか。
俺が微妙な気持ちで微妙な表情をしていると、
「溝呂木のこと聞きたいなら、少しぐらいは答えられるけど」
相変わらず遠くの空を眺めながら、メアリーはそう零した。
「えっ、何、急にどうしたの? 完全に興味ありませんって感じだったじゃん。やっぱり何だかんだで俺のこと心配して――」
「そ、じゃあ帰るから」
「待ってくださいメアリー様! 哀れな俺にご教授ください!」
古武術の歩法に風魔法、重力魔法を加えたアクロバティック土下座を発動。
その誠意が伝わったのか、メアリーは呆れたように溜息をついてから口を開いた。
「詳しくはあたしも知らない。けど、ヒントならある」
「そのヒントってのは?」
「……コードネーム」
「へ?」
「学園ランクトップ10にはコードネームがつけられんの。将来騎士団に所属するとコードネームは必須だから、コードネームで呼ばれるのに慣れとけ、ってことらしいけど」
騎士団に所属することは前提なのか……まぁトップ10なんて高い実力持ってたら、そりゃ大抵は騎士団にスカウトされるか。
確かに俺も『蛇王』って呼ばれんのにはしばらく抵抗あったな。なんか恥ずかしくて。
「あたし達のコードネームは――」
メアリーが1人1人、思い出すようにして言葉を連ねた。
第10位『爆鎧』溝呂木大和。
第9位『万指』田中篤。
第8位『紅荊』メアリー・サンプソン。
第7位『虹姫』世良琴歌。
第6位『深焔』日下部夜行。
第5位『鶴丸』光圀直刀。
第4位『閃針』茶々丸寧々。
第3位『魔弾』進藤鋼。
第2位『奇博』唐子麗奈。
第1位『零騎』冷泉霧也。
「お、覚えきれないんだけど……」
「溝呂木のだけ覚えてればいいでしょ」
「あー、何だっけ? 『爆鎧』だっけ?」
「爆」ってことは火炎系統の魔法が得意なのか? 「鎧」部分は何となくイメージがつく。
やはり見た目通りのゴリ押しパワータイプと見ていいだろう。遠距離からチマチマ削るのがベターか。あとは振動魔法で揺さぶって気絶を狙うのもアリだな。
問題は溝呂木が魔人かどうかってことか。その辺の特性もちゃんと見破らないと。
「ありがとう、色々参考になった。良かったら放課後見に来てよ」
「……行けたら行く」
「それほとんど来ないやつ! やっぱ絶対来てくれ! お願い『紅荊』ちゃん!」
「死ね」
コードネームで呼ばれたくないのか、罵倒と共に氷塊が飛んできた。そしてすたすたと去っていくメアリー。
女心ってのは中々に難しいもんだ……。




