第28話『マシュマロの魔力』
綾瀬真里亞。
『凶風』のコードネームを持つ、東京騎士団第2師団所属のA級最強の騎士。翼を見ればわかる通り、ハーピーの魔人だ。
モデル級の美貌に、佐伯の言っていた「型破り」を体現したような性格を持った嵐みたいな人。
なんでこんな人が監察官なんかを? なんでわざわざサバ読んでまで任命されたのか?
俺がぶつけた疑問に対して、マリアさんは白い歯を見せてニカッと笑いながら、
「いやぁ、ここって国内最大の魔導学園じゃん? そこの3年生ってなると10代の駆け出し騎士じゃ厳しいってことで、こうしてオレが監察官やってんだよ!」
「だとしてももっと適任がいるだろ!? なんでマリアさんなんだよ!」
「ん〜? なんだ、オレじゃ不満かぁ? こんな超絶美人といつでも会えるんだから光栄に思えよ〜!」
「ぐおっ!?」
マリアさんは突然俺の頭をヘッドロックしたかと思うと、がしがしと犬でも扱うみたいに俺の頭をガシガシ撫でた。
後頭部! 後頭部にマシュマロみたいな感触がするんですけど! 暴力的なまでの圧力を感じる!
「んで、佐伯ぃ? オレのなーにがエグいってぇ?」
マリアさんがの標的が佐伯に移る。佐伯は部屋の隅っこまで後ずさり、カタカタ震えながら、
「そっ、そういう所ですよ! 普段はお嬢様口調でセレブ演じてるくせに! ファンクラブまでできてるくせに! なのに報告会になるとコレだ!」
「ん〜? あ、もしかして佐伯、オレに嫉妬してんのか? ふふん、まぁオレの演技はカンペキだし! おめーももっと男らしくすりゃあモテんのにな!」
待て、今の佐伯の話はマジか? このマリアさんだぞ? そんであのマリアさんだぞ?
面倒だからってA級モンスターの群れを地形ごと爆殺しちゃうような超大雑把なマリアさんが? 完璧にお嬢様演じてる?
「さ、佐伯? 嘘、だよな……?」
「残念ながら……」
「む、何だよ残念って。オレは天才だから演技も完璧なんだよ! どーだ、センパイを敬えよ後輩ども!」
くっ! 佐伯の話が本当なら俺達の完敗だ……!
そうだよ、確かにこの人面倒臭がりなだけで、やろうと思えば何だってできる天才肌なんだよ! 演技ぐらいできてもおかしくねえ! そういつ意味では俺より監察官として適任だったわ畜生!
「佐伯はともかく、巳禄はコミュ障だもんなー? どーせまたスタートダッシュで空回りしたんだろ〜?」
「うっ」
「そんで「どうせ目立つなら好印象で目立とう!」とか思って張り切ってんだろ〜?」
「うぐっ」
「で、今度は中執に目ぇつけられそうになってんだろ〜」
「ぐはッ!」
全部お見通しかよ! そうだよ一字一句違わずその通りですとも! 間違いがあるとすれば「目ぇつけられそう」じゃなくて「目ぇつけられてる」んだけどな!
「……九頭龍さん? それ、どういう……」
佐伯が「うわ、こいつマジか」みたいな顔で聞いてきた。俺は仕方なく溝呂木の件を白状した。元から話すつもりだったしな。
俺が白状し終わると、佐伯は溜息をついて頭を抱え、マリアさんは目を輝かせながら、
「ぶちのめしたれ! 今こそ期待のニューフェイスの実力を見せてやる時だぞ!」
「駄目ですよ! 九頭龍さんは監察官なんですよ!? これ以上目立つのはやりすぎです! 棄権するか負けてください!」
「でも棄権したら巳禄のダチがあぶねーんだろー? それで立ち向かわないのは漢じゃねー!」
「それ十中八九ただの脅しですから! 九頭龍さんも間に受けないでくださいよ!?」
「あー……やっぱただの脅しなんだ」
「そりゃそうですよ! そんなことしたら、最悪中執クビになりますからね! 流石に溝呂木先輩だってそんなことはしませんよ……!」
だよな。俺もそうは思ってた。でもジョージの仇討ち(死んでないけど)はしてやりたいし、この学園のレベルも知りたいしなぁ。
「でもな、巳禄。コレはチャンスだぜ?」
「チャンス?」
「佐伯は裏からチマチマやってっけど、オレみたいに学年の主要人物になりゃあ監視も効率的なんだよ。今ここで10位をぶっ倒しゃあ、お前が10位になる。そうすりゃ中執に入れるんだぜ?」
「いや、俺あんな怖いとこ行きたくない……」
「いーや、行ってもらう。中執に潜り込みゃあ視野も広がんだろ? 中執の名前使えば多少の無理も通る。そうすりゃ学園掌握したも同然なんだ」
「掌握してどうすんスか……」
「オレ達の要望を倒しやすくする! そしたらオレも佐伯も監視しやすくなるから、監察官としてもっといい仕事ができる! 違うか?」
急にそれっぽいこと言われましても……確かにマリアさんの言ってることには一理ある。そりゃ運営側に立てば管理も監視も楽だろうよ。
でもね、俺にエリートヤクザ集団に入れと? 俺のメンタルズタズタだよ? 個人的に嫌すぎる。
「それならマリアさんがなりゃいいじゃん。マリアさんなら余裕で行けるっしょ」
「オレは病弱なお嬢様で通してっからパス」
「む、無責任な……佐伯はどうなんだよ。お前だってB級最上位だろ。溝呂木ぐらいなら勝てんじゃね?」
「いや、わかりません。中執の実力は一通り調べましたけど、溝呂木先輩だと五分五分です。ボクでは10位をキープできませんよ。やるなら九頭龍さんが適任だと思います」
こいつら、俺になすりつけやがって……!
俺だってヒュドラの特性頼りで特A級まで来たんだぞ? 俺からヒュドラの力取ったら、せいぜいA級下位ぐらいの実力しか残らねえよ。
「巳禄! 覚悟決めろって! 魔人の力頼りのお前が、素の実力鍛えられるチャンスなんだぜ!」
「九頭龍さん、お願いします。最初は反対でしたが、綾瀬さんの意見を聞いて気が変わりました。どうかよろしくお願いします」
そんなこと言われてもなぁ……よっぽどのご褒美でも無い限り、あんな罰ゲームみたいな組織に入りたくねえよ……。
「うし、わかった。そんなに悩むならオレが一肌脱いでやろう」
「な、何スか? 何を言われようが俺の意思は変わらな――」
「もし中執入りできたら、オレの胸を好きにしてもいいぜ」
「やります。任せて下さい、完璧な仕事というものを見せてやりますよ」
前言撤回。
俺の硬い意思は、巨大なマシュマロの魔力に負けた。




