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第27話『豪快すぎる3人目』

 溝呂木に宣戦布告された夜。

 俺は寮の自室にいた。そして同じく俺の自室で居心地悪そうに座っているのは、1年担当監察官――オーガの魔人の佐伯だ。


 元々、今夜俺の場所でそれぞれの進捗を報告し合うつもりだった。溝呂木の宣戦布告はタイミングが良かったと言える。

 歓迎はしてないし、できれば溝呂木とは関わりたくなかったが、この先の方針を決めるのには丁度いいか。


「なぁ佐伯、3年担当の監察官は来ないのか?」


「今夜は来るってボクは聞きましたけど……遅いですね。言われた通りに窓は開けてるのに」


 3年の監察官は女子らしい。女子が堂々と男子寮に来ることはできないので、こうして窓を開けている。

 でもどうやって入るんだろう? 重力魔法で浮いてくる? でもそれはすごい目立つだろうし……。


「3年担当ってどんな人なんだ?」


「どんな人と言われますと……型破りな人、ですかね」


「ここの生徒だいたい型破りじゃね?」


「だいたいというか、ボクからしたら全員ですけどね」


「お前だって見た目はかなりファンキーだと思うぞ? しかも性格でギャップ狙ってくるとか卑怯だろ。どんだけキャラ濃いんだよ」


「ボクだって狙ってやってるわけじゃないですよ……」


 だろうな。なんだろう、コイツからはハユルちゃんと似た物を感じる。敬語とか、ちょっとビクビクしてる所とか。

 愛嬌を犠牲にコミュ力と筋力を得たハユルちゃんみたいな。なにそれ想像したくねえ。


「ハユルちゃんを汚すんじゃねえよ!」


「いきなり何ですか!? 訳わからないことを勝手にボクのせいにされても困りますよ!?」


「冗談だよ冗談。そんないちいち怒ってたら騎士やってけねえぞ?」


「別に怒ってませんし、そもそも誰のせいだと思って……はぁ、もういいです。それはそうと九頭龍さん、最近は調子良さそうですよね」


「ん、まぁな。色々あったし、中執が監視命令解いたのもデカい。お前のアドバイスも役立ったよ。ありがとう」


「ま、まぁ、お役に立てたんなら光栄ですけど……お役に立ってないような……」


 佐伯は歯切れが悪そうにそう言った。というのも、佐伯からは「押すときは押して、その他はなるべく目立つな」というアドバイスを貰っていたのだ。

 悪いな佐伯、常に押しっぱなしだった。アドバイス全く生きてなかったわ。


「お前はどうなんだよ? 1年の話って全っ然聞かねえけど、やっぱ上手いこと調整してんのか?」


「ええ、まぁ程々に。人の顔色窺いながら人間関係をいじくるだけですし、無難な学年にはなってると思いますよ」


「お前、中々腹黒いのな……後輩のエグい人心掌握術にびっくりだわ」


「そ、そんな言い方しないで下さいよ!? ボクだって真剣にやってるんですから! それにエグさで言えばあの人の方が――」


 と、佐伯が憤慨していた時。

 少しだけ、窓から感じる夜風がざわついた感覚がした。気のせいかと思うほどに小さな変化だったが、なぜか俺はそれを気にせずにはいられなかった。


 何だろう、と何となく佐伯の顔を見てみると……えっ、お前なんでそんなに顔青くしてんの?

 お前、オーガの種類で言えば赤鬼だよね? 青鬼じゃなかったよね? ブルーベリーみたいな色してるけど。


「う、噂をすれば……来た……!」


「噂って? あ、もしかして例の3年担当の――」



――キィィィンッ!!



「ッ!?」


 まるでジェット機が飛んできたみたいな音と風圧に、俺の耳が悲鳴を上げた。

 佐伯はそれが来るのをわかっていたかのように耳を塞いでいるが、それでも顔を顰めている。一体何事かと目を開けると、

 


「遊びに来たぜぇ、みぃ〜ろぉ〜くぅ〜ッ!!」



 そんな声と同時に、尻餅をついている俺の目の前の空間が歪む。

 すると次の瞬間、その空間から色が抜け落ちるようにして変色したあと、ぼんやりと人影が浮かび始めた。どうやら隠密魔法を使って高速飛行してきたらしい。


 次第に人影はハッキリとした輪郭を映し出し――やがて、ロングストレートの金髪をなびかせる美女が現れた。


 学園の女子制服に身を包み、腰に手を当てて仁王立ちしている。その背中からは巨大な白い翼。

 宙に舞う白い羽根が月光を浴びて、キラキラと煌めいているのが幻想的だ。だがそんな美しさよりも、俺は驚きの方が大きかった。


「なっ……」


「お〜? 何だよシケたツラしやがってよー! せっかくオレが遊びに来てやったんだぜ? もっとおもしれーリアクションしろよな!」


「な、なんで……アンタが……って痛い痛い!」


 金髪美女は俺の肩をバンバンと叩きながら、その美貌に似合わない乱暴な男口調で話した。

 その細腕のどこからそんな力出てんだ! 俺はたまらずそれを振り払い、


「痛ぇっスよ、()()()()()! なんでアンタがノリノリで監察官やってんだよ!? もう23だろ!?」


 そう、俺とこの金髪美女は面識がある。

 というか、普通に騎士として任務尽くしの生活を送っていた頃は、毎日のように顔を合わせていた。


「理由は色々あるが、改めて宣言させてもらうぜ!」


 金髪美女はその繊細なブロンドを豪快にかき上げながら、



「この学園の3年生は、この綾瀬あやせ真里亞マリアサマの縄張りだかんな! 手ぇ出すんじゃねーぞ!」



 その人は、東京騎士団のA級騎士最強の女だった。



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