第24話『ビビる蛇の諜報活動』
ジョージと羽多野の忠告から3日が経った。
その3日間で、俺は軽く人間不信みたいな状態になっていた。
なんでかって? 3日間ずっと誰かからの視線を感じるからだよ!
最初は俺も気のせいかと思った。しかし明らかに誰かがずっと俺のことを見ている。
羨望や敵意でもなく、ただ俺を観察しているだけという感じの視線。事件直後に感じていた好奇の視線とはまた別のものだ。
「……自意識過剰かよ」
「マジなんだって! 人混みにいるとそうでもないんだけど、1人になると視線がやべえの! でも振り返っても誰もいないし……!」
「じゃあ誰もいねえんだよ! これだから注目されてるヒーロー様はよぉ! ペッ!」
「お前ホント辛辣になったな!? そういうのじゃないんだよ! なんか、こう……視線の種類が怖いんだよ!」
と主張するも、ジョージと羽多野は全く信じてくれない。ジョージはメチャクチャ辛辣だし。
「……心当たりが無いでもない」
「ホントか羽多野!」
「……あぁ。可能性が高いのは、中執のパシリだな。近々ケンカ売りに行くから偵察してるんじゃないか?」
「だから怖えよ中執! 普通に正面から来いよ!」
なんで普通に学園生活送ってるだけで偵察されなきゃならないんだよ! 殺伐としすぎだろ!
それともここじゃコレが普通なのか? いや普通じゃないよね!?
「……それだけお前はイレギュラーってことなんだろ。そんなに心配なら偵察し返せばいい。安浦あたりに頼んで」
「でも安浦さん巻き込みたくないしなぁ。もし人質にでもされたら手出しできないし」
「……流石にそこまでやらねえよ。お前、中執のこと何だと思ってんだよ」
「エリートヤクザ集団!」
「……そのうち普通に怒られるぞ」
うーん、この妙な状況をどうにかしないと俺のストレスが溜まっていく一方なんだけど……。
こうも監視されまくってると監察官としての仕事にも集中できないし。どうにかならないものか。もうこっちからケンカ売りに行くか?
「あっ」
「……どうした」
「いや、わざわざ偵察返しなんてしなくても確実な方法があったなぁ、と」
なんで気が付かなかったんだろう。中執に関わりたくないって気持ちが強すぎて、無意識に考えないようにしてたのか。
でもまともに喋れそうな奴いたじゃん、中執。あいつに色々聞いてしまおう。
「……で、俺に聞きに来たのか」
「頼む田中! お前しか頼れないんだ!」
中執メンバーなのにクラスの地味オブ地味。
そして俺の小テストの恩人。
ジョージ曰く「モブ顔キング」。
その実態は、学園内ランキング第9位の猛者。
その名も、田中篤。
クセが強い奴ばっかのこの学園の中では貴重な一般人だ。こいつならいきなり襲いかかってくるとかはしてこないだろ。
「実際どうなんだ? 俺、尾行されてるのか?」
「……わからない。そんな話は聞いていないが、もしかすると誰かがやっているかもな」
「中執がやってるんじゃなくて、あくまで個人ってことか?」
「そうだな。だが……妙だな。そういう事する人は大体決まってるんだが、今回その人はお前に無関心だ」
無関心なのか……嬉しいような嬉しくないような。
「九頭龍に興味がある人は全員、そんなことせずに真正面から来るようなのばかり。もしかすると、今回中執のメンバーは関係ないかもしれない」
「中執以外にも俺のこと狙ってる奴いるのか……それはそれで怖いなぁ」
「……いや、大穴もあり得るか。あいつは気まぐれだし、もしかしたら……」
「それ誰!?」
田中が軽く顎に触れて考えながら、新たな可能性を提示する。「流石に無いかもしれないけどな」と前置きしてから、
「……サンプソン、かもしれない」
田中が口にしたのは、意外すぎる名前だった。
学園内ランキング第8位、メアリー・サンプソン。
魔法界からの留学生で、初対面で不良共をフルボッコにしてた恐るべき女子。
そして、本来俺が1番観察しとかなきゃいけない生徒だ。
「でもあの子、全くそういうタイプには見えないけど……周りに興味ありませんって感じだし、大穴以前の問題じゃ?」
「いや、わからない。アレは面倒事を嫌うから、サンプソンにとっての面倒事筆頭の九頭龍を警戒してる可能性もある。あいつは面倒事を避けるためなら手段を選ばない奴だ」
それ本末転倒じゃね? クールでサバサバした印象にドジっ娘属性がプラスされたんだけど?
しかしどうだろう。確かに中執のネームバリューを使えば尾行させるなんて簡単なこと。自分は何もせずに情報を集めるなら、これ以上ない手だ。
「ただ、もしサンプソンなら警戒する必要は無いだろう。あいつ自身、模擬戦ふっかけるなんて面倒な真似はしないはずだ」
「かと言ってこのまま放置するのもツラいというか……」
「……わかった。そこまで言うなら、さり気なく中執の人達に伝えておこう」
「そうしてくれると助かるわ……」
よし、田中は味方につけた。もうどうせなら、このまま1人ずつ中執の人達を1人ずつ懐柔しちゃおう。
争いを避けるには仲良しが一番だ! エリートヤクザ集団と仲良しになるの怖いけど!
そして田中が立ち去ったあと、
「……っ」
また視線を感じて振り向いた。
しかしそこには誰もいない。曲がり角に隠れているかもしれないと思って見てみたが、数人のグループが会話しているだけだった。
「……話しかけたいけど話しかけられないシャイな子ってことにしておこう」
何事もプラス思考。
小さいことを気にするな。コレ東京の掟。




