表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/71

第19話『九頭の蛇王』

 背後からの殺気に気付いた瞬間。

 一瞬だけその姿が視界に映って、次の瞬間には殺されていた。


 俺の背後に現れたのは、まるで鏡が割れたかのようにヒビの入った空間・・

 そして、その中から現れた巨大な化け物。俺の身長の軽く5、6倍はある巨体に、鋼のように強靭な筋肉の鎧。

 その額からは鋭く尖った角が2本、天を貫くように伸びていた。


 AA級特別指定危険種――オーガ・ジェネラル。

 魔法界シャンバラに生息するオーガ種の中でも、最強クラスの個体。オーガの将軍。

 それだけじゃない。オーガ・ジェネラルが開けた空間の穴から、30体以上のオーガやハイ・オーガが押し寄せてきたのだ。


「うっ、うわあああぁぁぁッ!!」


 機動隊の数人が、その威圧感にパニックになって銃を乱射する。

 当然、そんなものではダメージ1つ与えられず。ただオーガ・ジェネラルを刺激するだけとなった。


「おい馬鹿やめろ!」


 と、騎士団の数人が止めるも、もう遅かった。

 オーガ・ジェネラルは非常に凶暴で短気だ。自分に対する敵意には敏感に反応し、気がすむまで暴れ回る超危険種。目の前の個体もその例からは漏れなかった。


 オーガ・ジェネラルの剛拳が振るわれ、機動隊が一度に10人以上叩き潰されて絶命する。

 それは訓練された機動隊であっても、パニックに陥らせるのには十分だった。

 だから、その前に強制的に落ち着かせる。


「《マインド・カルマート》!」


 俺はようやく吹っ飛ばされた上半身を再生しきり、この場全員に精神安定の魔法をかける。

 無理をして一度に何十人にもかけたことで、脳を直接刺すような激痛が走る。が、激痛なら慣れっこだ。

 鋭い頭痛を堪えながら、俺はその場の全員に指示をする。


「機動隊は人質とテロリストの安全の確保! どっちも死なせるなよ! 騎士団はスリーマンセルで散開して雑魚オークの殲滅! ジェネラルには手ぇ出すな! 俺がやる!」


 身を削って魔法を使ったおかげで機動隊はパニックから立ち直り、眠っている人たちを抱えて外まで運び出してくれた。

 取り巻きのオーガに襲われそうになったら、騎士団がカバー。思ったよりもスムーズに避難はできそうだ。


「で、コイツか……」


 俺が相対するのは親玉のオーガ・ジェネラル。

 オーガは個体によって危険度がピンキリだが、最上級のコイツはヤバい。A級騎士でも5人がかりじゃないと倒せない程だ。


 こんな巨体で暴れられたらこの辺りの全員が死滅するので、最高濃度の麻痺毒のガスで動きを止めている。

 しかしオーガは元来、こういう状態異常への耐性が高い。ジェネラルともなるといつまで動きを止められるか……。


「久々の大物……AA級ともなるとキッツイなぁ……!」


 それから時間にして10分ほど、体感で倍以上の時間、オーガ・ジェネラルの動きを止め続けた。

 しかしもう限界が近い。オーガ・ジェネラルが麻痺に耐性をつけてきたのだ。

 このペースだとあと3分と持たない。そうなればオーガ・ジェネラルが再び暴れ出し、死傷者が出てしまう――


「報告します! 取り巻きの殲滅、ただ今完了しました! 人質とテロリストの避難も完了しております!」


「ナイスタイミング!! 中に残ってる騎士も全員外へ! 今から俺がコイツを討伐する! 巻き込まれたら死ぬぞ!」


 殲滅を終えた騎士が、動き出そうとしているオーガ・ジェネラルを見て、大急ぎで出口へと駆け出す。

 そして俺以外の全員が外へ避難したのを確認し、オーガ・ジェネラルに向き直る。


「よう、待たせたな。詫びにひと暴れさせてやる……ってワケにもいかないんだよなぁ」


 これ以上ショッピング・モールをぶっ壊しまくるわけにもいかない。外にいる人たちの安全のためにも、最初から最大火力で。コイツを圧倒的な暴力で鎮める。



 そう決めた瞬間、精神が少しだけ――ほんの少しだけ、狂気に染まっていく。



「悪いが勝負は一瞬だ」


 俺は今まで隠し続けていた魔力を解放し――狂気の増幅に呼応するように肉体を魔獣モンスターへと近づけていく。


 青黒かった髪は、それとは対照的な血をぶちまけたような不気味な真紅へ。

 金色の瞳は今まで以上に爛々と輝き、両目の下から頬にかけて黒い鱗が浮かび上がる。

 

 変化はそれだけで終わらない。むしろここからが俺の変貌の最も顕著なところだ。

 背中の肉を突き破り、8本の触手のようなモノが揺らめき始める。ソレは次第に形を変え、漆黒の鱗に覆われ――8匹の大蛇の姿を取った。


「ま&jp@ィg@9t殺s?」

「戦ぁm2¥49@mement?.戦mori闘9tぇqgtたpkゥ&殺?」

「■■■――――■■■■――■■!!」

「32'w2jAwGtt24.死677ヲ094[[想……」


 8匹が全て、意味不明な金切り声のようなものを発していた。俺にもその言葉は理解できない。

 しかし、言葉がわからなくても何を言ってるかはわかる。

 このおぞましく、不気味で、不可解な8つの首もまた、俺の体の一部なのだから。


「あぁ、後悔させてやろうぜ。この俺に――俺たちに喧嘩売ったことをな」


 SS級接触禁忌種の神話級モンスター。

 魔法界シャンバラでもモンスターとひての枠組みを超え、神獣の域に達しているとされる蛇の王――



――ヒュドラ。



 9つの首と、およそ生物ではあり得ない不死性、英雄ヘラクレスを死に追いやったとされる猛毒。

 それら全てを持ち合わせた最強クラスのモンスター。

 俺はその魔人。

 俺の半分は、神話でできていた。


「グオオォオォォアァァァ!!」


「へぇ? 俺のこの姿を見てもまだる気なのか。大した勇気だな。でもそれは「蛮勇」って言うんだぜ?」


 オーガ・ジェネラルが鉄拳を振り下ろす。

 俺は無防備にただそれを眺めていた。どうせ不死身だから、潰されても大丈夫――という余裕ではなく。


 その拳が俺に届く寸前、オーガ・ジェネラルの腕は、じゅうっ、と音を立てて溶解・霧散した。

 流石のオーガ・ジェネラルも突然の異変に驚愕し、数歩後ずさる。


「おっと、言い忘れてた。この姿の俺は最凶最悪の猛毒ガスを身に纏ってる。近付いただけで死ぬぞ?」


「ガルルルッ……ォオ゛……オオオオオオッ!!」


「まだ懲りないのか? これだから脳筋は……」


 がむしゃらに向かってくるだけじゃ、俺にダメージを与えることはできない。

 俺に傷を付けたいなら、最強クラスの浄化能力を持つ聖剣でも無いと不可能。それもすぐに再生できる。

 この程度の相手なら、このまま突っ立ってるだけでも勝てるだろう。


 ただ、さっきも言った通り勝負は一瞬で終わらせたい。

 最大火力で叩き潰す――その宣言を実行するとしよう。


「なぁ、知ってるか? 不死身ってのは防御だけじゃなくて攻撃にも使えるんだ。例えば――肉体的な代償を伴う呪術。俺ならその凶悪な呪術を、ノーリスクで使えるんだ」


 そう言って俺は、背中の蛇の1体に手首を噛みつかせた。

 噛み砕かれたと言った方が正しいか。夥しい量の血液が噴き出し、フロアを赤に染めていく。


「剣になれ、《ソル・ブラッド》」


 俺はそれを鮮血魔法によって、一振りの細い剣の形状に凝縮した。

 ただの血の剣じゃない。全身が猛毒の俺の血液から生成された、この世に2つと無い死の刃だ。

 そしてその剣に、深く、暗く、濃厚な呪いをかけていく。俺が独自に編み出し、改良したオリジナルの呪術だ。


「――『我は悪意なり』『始祖を誑かし、堕落させ、死を与えた長蟲なり』」


 詠唱を紡いでいく。

 怒りも、悲しみも、享楽も無く。

 ただ淡々と、目の前の獲物への死のみを込めながら。


「『命の失落あれ』『虚無を謳え』『黒死を嘆き給え』『堂巡り、目眩み、零に還れ』」


 四肢を焼かれ、心臓を蝕まれ、脳を溶かし崩されるような苦痛が俺を襲う。

 しかし、屈しない。

 何度も何度も体験した苦痛だ。もう慣れた。

 心の痛みに比べれば、こんなの些細なモノだ。


「『頭を垂れよ』『此れは慈悲の刃である』――」


 詠唱が終わり、血の剣が禍々しさを増す。

 鮮血の赤は酸化したような赤黒となり、さらに呪いを吸ってドス黒くなった。


 これこそが俺が持つ最凶最悪の一撃。

 1つは、腐食を超えて解体・霧散の域に達した腐蝕毒。

 1つは、魂を痛みも苦しみも無く解体する呪術。

 その2つが絡み合った、「解体」という概念が刃の形を成したモノ。


 それを俺は、「神の悪意」と呼ばれた天使になぞらえてこう名付けた。



「――『悪性慈悲サルヴェイション赫蛟サマエル



 そう呟くと同時に、呪いの剣を一閃する。

 直後、オーガ・ジェネラルの膝から下が侵食され、塵となって消え失せた。

 支える足を失った巨大が前のめりに崩れ、図らずも俺に首を差し出す姿勢となる。


「ォオ……オ゛オォォ……ッ!?」


「これで、トドメだ。安心しろよ、痛みは感じない。一瞬で逝かせてやる」


 俺は呪いの剣を掲げ、オーガ・ジェネラルに言った。

 その直後に、音もなく腕を振り下ろす。


「ォオ゛オオォォ――」


 その呻き声が、首を両断されたことで途切れる。

 そしてオーガ・ジェネラルは、両断された首の断面から呪いに侵食され、塵と化し、無に帰した。


 こうして、ショッピングモールの戦いは終わりを迎えた。


「ふぅ、任務完了……後の処理はよろしくっス」


 呪術と半モンスター化を解いた俺は、外にいる騎士に無線でそう伝える。

 そして黒衣を脱ぎ、今までの戦いなど無かったかのようにアッサリと――「特A級騎士『蛇王カーネイジ』」から「ただの学生の九頭龍巳禄」へと戻った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ