第18話『コードネーム: 『蛇王』』
異変を察知したのは、管理室で空調の細工が終わり、狙い通りにテロリストを眠らせた頃だった。
監視カメラのモニターに、動く影が1つ。
俺の策が成功していれば、あり得ないはずの光景。
どうしてコイツは起きてる? ガスマスクも着けてないのに? 俺はモニターを拡大して、その男の様子を観察した。
ヒラリと翻った男の外套の下。そこに微かに銀色の光が反射したのを、俺は見逃さなかった。
コイツ、全身を義体にしてやがる。科学と魔法技術を結集させた義体化被験体だ。
安全性や倫理の面から現在は違法のはずだが……法外の手術を受けたのか。それも全身。
「相当キナ臭いな……なんか嫌な予感もする……」
この催眠ガスの中でも行動できるなら、コイツはこの異常事態の原因を探しに行くだろう。
隅々まで、余すことなく。1度見た場所も、何度だって見直す。
ハユルちゃんが危ない。
そう直感した俺は、管理室を飛び出した。
本当ならここでシャッターを開いて外の騎士団を突入させる予定だったが、シャッターのセキュリティの復帰に時間が必要だったため、すぐに断念した。
あいつが俺より早くハユルちゃんを見つけたら、ハユルちゃんは死ぬ。
早く、早く、早く。
1秒でも早く、ハユルちゃんを見つけなければ――!
そうやってハユルちゃんを探して飛んできたのが、ついさっきのこと。
結論としては、あいつの方が俺よりも早くハユルちゃんを発見してしまっていた。
しかしハユルちゃんは勇気を出して時間を稼ぎ、生き延びることに成功した。
彼女を助けられたのは間一髪だったが、それでも何とか間に合った。きょとんとした顔で俺を観察しているのは……あぁ、認識阻害の術式のせいで、俺だってわからないのか。
ハユルちゃんからすれば 「突然現れた謎の黒ずくめ」なワケだけど……これじゃ安心感皆無か?
仕方ない、得意の話術で誤魔化そう。
「あ、あなた、は……?」
「俺は東京騎士団の騎士だよ。さっき管理室付近で、君と同じくらいの青髪の少年も保護した。彼も無事だよ」
「っ! よかった……ありがとうございます、騎士、さ、ん……」
それを聞いた瞬間、ハユルちゃんはその場に崩れ落ちて意識を失ってしまった。
何かされたのかと一瞬慌てたが、どうやら催眠ガスが効いたらしい。
よく頑張った。
ここからは俺が頑張る番だ。
「貴様ァァ……何者だ……ッ」
「おお、まだ起き上がんのか。結構強めにぶっ飛ばしたつもりだったのに……流石はサイボーグ」
「その紋章……騎士団の連中か!」
「大正解。ご褒美にブチのめしてとっ捕まえてやるよ、マグダラのシンパめ」
コイツは自分のことをマグダラの信徒と言っていた。
マグダラ教会は今まで謎に包まれていた宗教結社。いつ暴れ出してもおかしくない爆弾だったが、ついに行動に出たのか。
丁度いい、全員生け捕りにして洗いざらい吐かせてやる!
「死ねエェェェァァァ!!」
まず動いたのはマグダラ教徒。
外套の下から現れた右腕――大口径のマシンガンが一斉に弾丸を射出する。
「――《エレ・ウォール》」
障壁魔法をハユルちゃんを囲うように展開して、彼女の身の安全を守る。
俺自身への防壁はいらない。そんなもの前に進むのに邪魔なだけだ。
俺は全身を穴だらけにされるも、瞬時に再生し続けながら強引に弾丸の嵐を突破。
「なッ……!? 化け物め……ッ!」
「そりゃお互い様だろうよ、鉄屑野郎!」
慌てたマグダラ教徒が乱暴に機械の腕を振るう。
近接戦でも鈍器として使える右腕のマシンガンに、近接戦に特化した左腕のチェーンソー。
そして生半可な攻撃ではビクともしない鋼の装甲。
それら全てが人間にとっては脅威となり得るが――残念ながら俺には通用しない。
叩き潰されても、ぶった切られても、全身を貫かれても、俺には全く痛手にならないんだから。
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァ! この俺が……司教様に授けて頂いた神器が効かないだと……!?」
「神器? 勘違いしてんのか知らねえが、それはタダの鉄屑だ。俺と戦おうってなら聖剣クラスのマジモンの神器持ってきやがれ!」
振るわれた鈍器の右腕を、腕がひしゃげるのも気にせずに受け止める。
そして腕をぶっ壊されたお返しと言わんばかりに、俺もコイツの右腕をぶっ壊しにかかる。
「まずは1本! 《ギガス・クエイク》!」
ジョージに使った振動魔法の強化版。
内側からの超振動によって、どんな強固なモノでも内部から破壊し尽くす魔法。
それによって、ご自慢の右腕は粉々に砕け散った。
「ぬあっ……あああぁぁぁッ!? 腕が……腕がァァァッ!!」
「うるせえ黙れよ。《サイレント》《ギガス・クエイク》」
消音魔法でやかましい叫びをシャットアウト。
それと同時に、無防備になっていた左腕も捥ぎ取ってやった。
ブチブチと魔力導線が切れ、ネジや金属の破片が散らばっていく。
「――ッ! ――ッ!?」
「どんだけ叫ぼうが、もう俺には届かねえよ。……そうだ、知ってるか? お前みたいなサイボーグって、脳と心臓が無事なら何やっても生き延びられるらしいな」
「――、――ッ、――ッッ!!」
「1つずつ、お前の体の部位を破壊する。安浦さんを襲った恐怖、何倍にもエグくして返してやるよ」
腕を。指を。膝を。踵を。脚を。腰を。腹を。内臓パーツを。擬似筋肉を。鉄骨を。伝達神経を。耳を。鼻を。舌を。
全て、全て、丁寧に丁寧に潰していく。
「――ッッッ!! ――ッ!!」
「痛いか? 痛いよな。痛いって言えよ、なぁ?」
切断された機械の四肢の継ぎ目を執拗に抉り、突き刺し、刻み、神経に直接拷問のような痛みを与え続ける。
俺がどんな表情でそれをしてたかなんて知らない。知らなくていい。今はこの鉄屑野郎に制裁を加えるだけだ。
「その顔、痛そうだなぁオイ……でも俺だって痛かったんだぜ? もう慣れたとはいえ、毎回毎回殺されんのは痛いんだよ。……だから、さ」
ハユルちゃんと同じ恐怖を。
俺と同じ痛みを、味わえ。
淡々とした静かな、しかし残酷な追い討ちの末に、マグダラ教徒の男は意識を手放して沈黙した。
「ふぅ、制圧完了っと。……おっ、丁度セキュリティも復帰したみたいだな。シャッターが開いた」
ショッピングモールを封鎖していたシャッターが上がり、外から大量の騎士や機動隊がなだれ込んできた。
しかしその全員が、人質・テロリスト全員が仲良くオヤスミしている光景を見て唖然としていた。
「な、なんだコレは……? 一体どうなって……」
「あぁ、わざわざご苦労様です。でももうあらかた片付きちゃいました。とりあえず皆病院送りで」
「そ、その認識阻害ヘルメットに第10師団のエンブレム……まさか『蛇王』か!?」
「はいはい、コードネーム『蛇王』っスよ」
群衆から「おお」という歓声が上がる。
どうだ見たか、コレが第10師団のエースの実力とネームバリューだぜ。
「後の処理は任せてもいいスかね? 俺も久々に死にまくって疲れたんで――」
と、俺が伸びをしながら言った時。
俺の背後で、バキリというガラスの割れるような音がした。
そしてその次の瞬間――俺の腰から上は消し飛んでいた。




