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第15話『走る、走る、走る』

「んんっ、んんんんッ!?」


「落ち着いて! ――《サイレント》!」


 消音の振動魔法で俺とハユルちゃんのいる空間を包み、完全防音の空間を作り出す。

 ハユルちゃんがパニックになると叫び出しそうだったのでこうさせてもらった。これならどれだけ大きな声を出そうが問題ない。


「なっ、何ですかこれっ!? 今の銃声……っ!? 何がどうなってるんですか!?」


「強盗かテロリストか何かがショッピングモールを占拠ってとこかな……多分! あぁクソ、なんで俺はこうやっていつもトラブルに巻き込まれんのかなぁ!」


「テ、テロリスト!? ななななななんでこんな所に!? どっ、どどどうしましょう!? 私まだ死にたくな――」


「《マインド・カルマート》……落ち着いて、安浦さん」


 消音魔法を使ってるとはいえ、このままパニック状態のままだと満足に動くこともできない。

 なので、精神安定魔法で強制的に落ち着いてもらった。

 ハユルちゃんの呼吸がある程度落ち着いてきたのを見計らい、ゆっくりと諭すように話し始める。


「聞いて、安浦さん。多分この後、テロリスト共は1階の広場に人を集める。で、集めた人たちを人質に身代金でも要求するんだと思う」


 こういう奴の手口は一定だ。多分とは言ってるけど、確実に奴らはそうする。俺だって奴らの立場ならそうするからな。


「今、下手に抵抗すると周りへの被害が予想できない。動くなら人質が集められてからだ。人質が1箇所に集められたのを確認したら、安浦さんはそこのトイレに逃げ込んでほしい。奴らも1度確認した場所にわざわざ行かないだろうから」


「く、九頭龍くんはどうするんですか……?」


「俺は何とかしてセキュリティ管理室を奪還しに行く。あそこを掌握すりゃ立て篭もりなんてできないしね」


「そ、そんなの無理です! 相手は武器持ってるんですよ!? 九頭龍くん、死んじゃいますって!」


 死なないんだよなぁ、とは言えないしな。適当に理由をつけて誤魔化そう。ハユルちゃんを騙すのは忍びないけど。


「大丈夫だよ。俺は……再生特化のリザードマンの魔人だから。鱗も硬いし、怪我してもすぐ治るよ」


「でも……っ!」


「安心してよ。俺、こう見えて結構強いからさ」


 精神安定魔法が切れても大丈夫なように、ハユルちゃんの頭をぽんぽんと撫でて落ち着かせる。

 それからしっかりとハユルちゃんの両肩を掴み、


「安浦さんは奴らに見つからないように隠れてて。余裕があれば通報もしてくれると助かる。……できるね?」


「は、はいっ!」


「あと、もし捕まりそうになったら無理せず人質になること。奴らが人質を丁寧に扱うとは思えないけど、その場で射殺されるよりはマシだ。わかった?」


「……ウサギの足でも逃げられませんか?」


「数で勝る相手に逃げ足は関係ないからね。くれぐれも無茶はしないように。……そろそろ人質を集め終えた頃かな。じゃあ、行って! 早く!」


「はいっ!」


 タイミングを見計らってハユルちゃんの背を押し、指定したトイレまで一直線に逃がす。

 まずはこれでいい。次はセキュリティ管理室の奪還だ。


 見たところ、おおよその敵の総数は10人。

 覆面をしていたりフードを被っていたりして素顔はわからないが、全員が男。しかも銃器の扱いに慣れてる。

 俺がキャッチした血の臭いと、ハユルちゃんがキャッチした金属音――銃火器をスタンバイする音が無ければ、俺もすぐに対応できなかった可能性が高い。


 中々に訓練された、強敵だ。


 そんな奴らに勘付かれないように管理室に行き、さらに制圧した後で、素早く人質の見張りを片付けなきゃいけない。

 うん、人数不足すぎるわ。こんなんどうやって俺1人でやれと。ただボコればいいだけじゃ駄目ってのがツラいところだ。


 でも、俺がやらなきゃならない。

 俺だけにしかできない。

 俺がやらなきゃ人質が死ぬ。

 

「特A級騎士の意地……いっちょ見せてやるか」


 まずは俺の周囲10メートルの範囲に消音魔法を展開。遭遇戦での銃声を掻き消して、交戦そのものを悟らせない。

 次にノブさんに連絡。すぐに小隊を向かわせてくれるらしい。


 次に装備だ。

 俺は軍用空間魔法で、何も無い空間から黒いコート型の騎士団標準装備と、ヘビの頭を模した機械のマスクを取り出した。

 このマスクは認識阻害や感覚サポートをしてくれる優れ物。正体を晒せない監察官にとっては必須だ。デザインは俺専用。特に意味はない。


 その次にマップを確認し、管理室の場所を記憶。

 同時に、敵の大まかな配置を予測して、交戦する確率が低いルートを算出。

 

 準備は整った。

 あとは算出したルートを辿って――


「ッ!? まだこんな所にいやがったか!」


「やっべ……!」


 もう見つかった。ほんと、敵が本気すぎて面倒くさい!

 俺に向かってアサルトライフルが何発も発砲される。

 周囲の空気中の魔力の乱れから、恐らくあの弾丸は術式を解体する解術アンチ・マジック加工。障壁魔法は無意味。

 ならば――!


「ぐあ゛ッ――」


 弾丸が当たるのも気にせず、最短距離で突っ込む!

 当然、俺の体は穴だらけになり、顔面に当たった数発が脳漿を吹き飛ばした。


「ヘッ、脳天粉々だァ! 素手で立ち向かう奴がいるかよ、馬ァ鹿!」


「――そりゃこっちのセリフだね」


「っ!?」


 男はさぞや驚いたことだろう。

 さっき頭を吹っ飛ばしたはずの奴が、ほぼ無傷で殴りかかってきてるんだから。


「解術弾ごときで俺を殺せると思ったか、馬ァ鹿!」


「ぶぁッ!?」


 渾身の右ストレートと同時に、振動魔法で脳震盪を起こす。その一撃で男は気絶。全部終わるまでそこで寝てな。

 銃声は……よし、消音魔法の効果範囲内。俺のことはまだバレてない。

 だが、万が一にも異変を察知されないためにも急がなくては。


 走る、走る、走る。

 身を屈め、隠密魔法も駆使することで、バレないようにかつ最速で突き進んでいく。

 途中で何人かの敵に遭遇したが、走る勢いをそのまま乗せた体術と振動魔法でほぼ鎮圧。


 そして、ようやく俺は管理室のすぐそこまで辿り着いた。



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