第14話『デートの終わり』
ショッピングモールのセキュリティ管理室。
数多くの機材が置かれた薄暗い部屋で、大量のモニターを警備員たちが監視していた。
このご時世、どんな事件や事故が起こってもおかしくない。だから厳重なチェックが必要だ。
しかしそれはモニターに映るものしか確認できず、隠密魔法や迷彩魔法を使われると見破るのが難しい。
今回の事件は、そこを見事に突かれたことで起こってしまった。
「ん? なんか妙な足音がしないか?」
「……いや、何も聞こえない。疲れてるんじゃないか? 最近、働き詰めだしなぁ」
「そうかな。はぁ……さっさと終わらせてゆっくり休――」
ズドン。
と、突如として管理室に銃声が響く。
この一発の弾丸が、ショッピングモールを大混乱に陥らせることとなった。
◇◇◇
昼食を食べて少し休憩したあと、ハユルちゃんがカメラが見たいと言っていたので、少し見ていくことにした。
無駄になったと思ってたカメラの知識、ここで活かさせてもらおう。
「安浦さんは写真好きなんだよね?」
「はい。新聞部で使う以外にも、風景とかを撮りに行ったりもするんです。先週も植物園に行ったところでして……ほら、これです」
ハユルちゃんは写真データをウインドウに浮かべ、俺に見せてくれた。
写真の良し悪しはよくわからないが、素人目で見ても上手く撮れているものばかりだった。
色とりどりの花や鳥や蝶、青々と茂った木々が、時には可愛らしく、時には雄大に映し出されている。
それに――
「何というか、楽しそうだな」
楽しくて楽しくてたまらない、そんな伸び伸びとした気持ちが伝わってくる。そんな写真だった。
「はい、とっても楽しかったです。綺麗な風景を、綺麗に撮ってあげられると……なんか誇らしくて。よかったら今度ご一緒しましょうよ」
「行きたい行きたい! カメラ持ってないけど、いい機会だし、今買っちゃおう」
「え!? た、高いですよ!? そんなにポンポン出せる値段で買えるものでは……」
「大丈夫! これでも割と金持ちだから!」
仕事バリバリしてた時もあったし。危険と隣り合わせだから給料もいいんだよな、東京騎士団。
ハユルちゃんは俺の家が金持ちだと取ったようで、「ブルジョワ家系だ……」と驚いていた。
「実は前からカメラには興味あったんだよね。だから欲しいのも目星付けてるんだ」
「そうなんですか? どれどれ……デジタル一眼レフですか。私はミラーレス一眼レフなんで、そこまで詳しくはないんですが……ちなみに予算はどれぐらいですか?」
「15万」
「じゅっ!? お、お金持ちだ……」
ふっ、騎士団の財力を舐めてはいかんよ。
それから2人でカメラを選び、納得のいくものを買うことができた。
元々カメラなんて興味無かったけど、調べていくうちに本当に欲しくなってたので、いい買い物ができた。
「ほ、ほんとにポンと10万出しててビックリしましたよ……」
「が、頑張って貯めてたから……」
嘘です。
貯めたんじゃなくて、使い道が無かったから貯まってただけです。
「じゃあ今度一緒に写真撮りに行きましょうね! えへへ、仲間が増えてうれしいです。いっつも私1人なので」
「新聞部の人とは行かないの?」
「あの人たちは、あまりそういうのに興味が無いので。それよりゴシップ記事を作るのに忙しいって……そう、言ってました」
少しだけ、ハユルちゃんの表情が曇る。
ゴシップ記事――単なる興味本位のウワサ。嘘だろうと真実だろうと、ただ楽しめればいいというだけのもの。
その多くは、ハユルちゃんが嫌う「真実を覆い隠す嘘」。
「絶対、九頭龍くんのウワサは払拭してみせますから」
「……ありがとう。でも無理はしちゃ駄目だからね?」
「大丈夫ですよ。九頭龍くんのためなら私、頑張っちゃいます」
俺のため、か。
嘘を正すという理由から進展してのを喜ぶべきか。
短時間でここまで接近してしまったことを反省すべきか。
付かず離ずが基本の監察官的には後者なんだろうけど、俺個人としては前者。
もっとこの学園で色んなものを見たい。色んな人と触れ合いたい。色んな景色を見たい。
「俺……どうすりゃいいのかな……」
「え?」
「あぁいや、何でもない。ただの独りご――」
――ゾクリ
と、悪寒のようなものが走った。
フワリと、どこからか……恐らくは今さっきすれ違った男からだろう。嗅ぎ慣れた匂いがした。
つい最近まで、俺の身近にあった匂い。それを察知できたのは、恐らくこの場には俺だけだっただろう。
それは微かな、しかし確かに存在する――血の臭いだった。
「……安浦さん、ちょっと付いてきて」
「はい? な、なんでしょう? そんなに眉間に皺を寄せて……」
「できるだけ静かに」
「?」
足音と気配を殺し、血の臭いがした男とは逆の方向に歩き出す。
あれが何者かは知らないが、できるだけハユルちゃんは遠ざけておくのが吉。
俺はできるだけ目立たないようにその場から離れた。
「急にどうしたんですか? 体調が悪いんでしたら……」
「安浦さんって耳いいよね?」
「え? はぁ、まぁ……ウサギの獣人ですし」
「何か変な音とか聞こえてこない?」
「い、いきなりそう言われましても……一応、確認はしてみますが」
ハユルちゃんがうさ耳をピョコピョコと動かしながら、周りの音を拾う。
そうやってしばらく耳をすませていたが、特に変化なし。どうやらさっきのは杞憂だったらしい……と判断しかけた時。
「……ん? 妙です」
「何か聞こえた?」
「よくわかんないですけど……急にあちこちで金属音みたいなガチャガチャした音が」
それを聞いて、戦慄する。
マズい、俺の嫌な予感が当たってれば、その金属音は――
――ドドドドドドドッ!!
その瞬間、ショッピングモールのあちこちで悲鳴と破壊音が起こり始めた。




