第13話『デートのはじまり』
約束の日曜日。
俺は待ち合わせの1時間以上前から待ち合わせ場所で座っていた。なぜかって? 普通に楽しみすぎたからだよ!
早く来すぎたか?
早く来すぎたな。
せめて30分だろ。なんだよ1時間って。俺だけ舞い上がってしまって恥ずかしすぎるだろ。通り過ぎてく人がチラチラ俺のこと見てるのが辛すぎる……。
「く、九頭龍くん?」
「……ん? あれ!? 安浦さん!? なんでこんな時間に!?」
「それは、その、こういうの今まであんまり無かったから楽しみすぎて……あぅ……」
どうやら安浦さんも同じ気持ちだったらしい。
何となく気恥ずかしかったのと、顔を赤くしているハユルちゃんが可愛かったので からかってみる。
「へぇ〜? ふ〜ん? そんなに楽しみだったんだ?」
「なっ、なんですか悪いですか! それを言うなら九頭龍くんだってそうなんじゃないですか!?」
「うん、そうだよ。いやぁ、俺だけ舞い上がってたのかと思ってたから嬉しくて」
「そそっ、そそそうですか……わっ、私も、です」
ハユルちゃんは、ぺたん、とうさ耳を寝かせて顔を隠した。何そのポーズ可愛い。あざとい。だがそれがいい。
私服もガーリーで可愛らしくよく似合っている。センスがいいな。眼福眼福。そして何といっても……
「……もしかして安浦さん、着痩せするタイプだったり?」
「うぇ!? わ、私そんなに太ってましたか!? た、確かに最近ちょっと体重が……ってなんてこと言わせるんですかっ!?」
いや、そういう意味じゃなくてね。ふくよかなのは、もっとこう……局所的に。小柄な身長に見合わぬ大層なモノをお持ちで……。
これジョージと羽多野に見せたくないなぁ……ってなんか彼氏面してるみたいで気持ち悪いな。自重しよう。
「あいつらが来るまでまだ40分以上あるけど、どうしようか?」
「あ、その2人なんですけど、さっき連絡がありまして」
そう言ってハユルちゃんは俺に携帯端末のチャット画面を見せてきた。
『すまん、俺風邪引いたから行けねえわ」
『オレも今日は補習だったわ!』
『完ッ全に忘れてたぜ!』
『これだから脳筋ゴリラは』
『殴り倒すぞ』
『つーわけだ、行くなら九頭龍と2人で行ってくれ』
えぇ……お前らから誘っといて行かないのかよ。羽多野はともかく、ジョージは補習あるのわかってただろ……。
いや待て、これはハユルちゃんとさらに仲良くなれるチャンスなのでは?
「あれ、俺にも通知来てる」
羽多野からだ。何だろう?
『安浦から聞いただろうが、俺と柳沢は休む』
『いい機会だから安浦のこと懐柔しとけ』
『風邪ってのは嘘だから気にせず楽しんでこい』
『ちなみに柳沢の補習はガチだ』
うおおおおお! 流石は羽多野! 痒いところに手が届く働きをしてくれる! あいつのことは孫の手系男子と呼ぼう。それに引き換えジョージ、お前……。
「どうしました? ガッツポーズなんかして?」
「いや、何でもない。それよりあいつら来ないならもう行こうか。どっか行きたいとこある?」
「そうですね……とりあえずお腹が空きました。どこかで食べてからお買い物しましょう」
「だな。じゃああそことかどう? 最近人気のパスタ専門店。カルボナーラが大人気っていう」
ふっ、今日が楽しみすぎて人気店はだいたいリサーチ済みさ! 人気メニューからちょっと通なメニューまで何を聞かれても問題無し!
さぁ、俺のリサーチの成果が発揮される時――
「そこもいいんですけど……実は私、行ってみたいお店がありまして」
「ッ!?」
まさかのリクエスト!? マズい、ほぼ人気無い店とかだったら全然わかんないぞ!?
頼む、リサーチした範囲内であってくれ――!
「コレです! この特盛激辛ラーメンが食べてみたかったんです!」
「……お、おう」
変化球すぎるわ。
こんなちっこい体で食べるの大好き&辛い物大好きとか予想できるか! 胸か。全部胸に行ってんのか。
つーか、このラーメン普通のラーメン5杯分は軽くあるんだけど!? しかも地獄の釜みたいな色してるし! コレもはや兵器だよ!
「い、意外によく食べるんだな……驚いたよ」
「えへへ。この店、前から行ってみたかったんですけど、女1人で入るのは心細くて! 九頭龍くんと一緒に来られて嬉しいです!」
「そ、そう……」
本人がそれでいいならいいけども。
店員さんも俺のチャーハンセットと見比べて困惑してたよ。「え? コレ頼むの? しかも男の方じゃなくて?」って感じで。
「いただきます!」
満面の笑みでそう言って、嬉々として激辛ラーメンを口に運ぶハユルちゃん。
汗ひとつかかずに、それでいて物凄いスピードで激辛ラーメンが消費されていく。ダイソンかな?
「辛くないの? ってか痛くないの?」
「辛いですけど、思ってたよりマイルドですよ? 一口どうですか?」
「え、遠慮しておく……」
女の子からの「あーん」とか理想以外の何物でもないんだけど、それは俺の口内と胃腸と肛門が死んじゃう。
俺はハユルちゃんの食べっぷりを眺めるだけで満足だ。
「あ、あの……そんなに見られると流石に食べづらいといいますか……」
「あぁ、ごめん。なんかハユルちゃんの食べてるとこ見てると元気になってくるよ。食べっぷり的な意味で」
「そう、ですか? たまに言われますけど……すみません、お見苦しいところを」
「いや? 可愛いと思うけど」
「へぁっ!? かっ、かかかかかかかっ、かわわわわわわっ!?」
あ、ハユルちゃんが壊れた。
いやぁ、本人には悪いけどこの子からかうの面白いな。もちろん、可愛いってのは本心から思ってる。小動物的な。
「も、もう! 恥ずかしくて食べられないじゃないですか!」
「あれ、食べないの? 伸びちゃうよ?」
「……食べますけど! もう、ばかっ」
明らかに食べるペースが遅くなったせいで、結局最後にはラーメンが伸びてしまっていたようだ。
顔が真っ赤になっているのを指摘してみると、さらに顔を真っ赤にして「げ、激辛ですから! それだけですから!」と言い訳された。
多分、俺は店から出るまでずっとニヤついてたと思う。




