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第12話『不穏な影』

【ノブさん視点】


 巳禄を監察官に就かせて1週間。

 俺の予想通り、あいつは四苦八苦しているようだった。報告書を見ればその苦労ぶりがよくわかるというものだ。


 あいつの1年前の監察官時代に起こった事件。

 あの事件のことが調査され、それがそのまま周囲の評価に結びついてるらしい。

 新聞部の人間か? 全く、大した調査能力だ。第10師団に来てほしいぐらいの人材だな。


 正直、あの事件のことは俺も反省している。人手不足を理由に、監察官経験皆無のあいつ1人に任せたのは失態だった。

 今回は巳禄を含めて学年ごとに1人ずつ、合計3人の監察官がいるから問題は無いだろう……と、言いきれないのがあの学園だ。

 あそこの生徒は優秀だが、それ以上にクセが強い。上手く慣れられるといいが。


「あれ、小野屋団長? どうしたんですか、そんなにジッと報告書睨んで。誰のです?」


 俺に話しかけてきたのは、第10師団副団長の穂波ほなみ光希みつき。まだ20代のガキだが腕は確かだ。

 穂波は赤銅色のサイドテールを揺らして俺に近寄ると、巳禄の報告書を覗き見た。


「あー……巳禄ですか。実際どうなんです? 去年のミス引きずってません?」


「本人はそこまでだが、周りに知られちまってるみたいでな。おかげで厳重な監視体制らしい」


「あらら……」


 穂波が渋い顔をした。コイツも過去に監察官をやってたが、同じようなミスで同じような状況になったことがある。

 巳禄の苦労がわかるんだろう。コイツはもっとスマートに切り抜けてたが。


「第6師団の佐伯くんとか、第2師団の絢瀬ちゃんと連携が取れてればいいんですけどね」


「佐伯はあの容姿で中々頑張ってるらしいぞ。成果だけで言えば九頭龍より上だ。綾瀬は……まぁいつも通りソツなくこなしてんだろ」


「巳禄、まだ綾瀬ちゃんには会ってないんですか?」


「だろうな。1年に佐伯、3年に綾瀬がいるって伝え忘れてたしよ」


「団長のせいじゃないですか……」


 誰にだってミスはある。そこまで重大な事でもねえし、佐伯と会ったなら綾瀬ともすぐ接触すんだろ。

 

「それにしても、監察官かぁ……懐かしいなぁ」


「なんだ、魔獣化した生徒3人ボコった時でも思い出したか」


「そうやってすぐ人の弱みに付け込もうとするからダメ人間って言われるんですよ。ほら、先週の禁煙の誓いはどうしたんですか」


「……記憶にねえな」


「団長から降ろされても知りませんからね」


 コイツも言うようになったなオイ。

 正論っちゃ正論だがもうちっと上司に対する言葉遣いとかあるだろ。ま、俺はそういうのどうでもいいが。


「そうじゃなくて、あの頃は私も調子乗ってたなぁ、って話です」


「そういや、丁度お前の時ぐらいからだったな。学生のレベルがインフレし始めたのは」


「ええ、自身も気力もボッキリ折られましたとも。才能に胡座かいてるとすぐに抜かされるって思い知らされましたね」


 まだ穂波が俺の部下になったばかりの時だ。

 当時の首席に抜かされて涙目になってたのも懐かしい。


「その点、巳禄は挫折ってことにはならなさそうですよね。むしろ燃えるタイプでしょ、あの子」


「ああ、そう書いてあったな。あいつのダチ、校内30位ですでにB級下位の騎士程度の実力はあるらしい」


「えっ!? 私を抜かした首席がちょうどそのぐらいでしたけど!? 最近の学生は凄まじいですね……首席の実力が気になります」


「渋谷第三の首席っつったら……ほれ、あいつだ。1()()長の甥」


「あぁ、もうA級相当とかいう天才児ですか……卒業したら一瞬で抜かされそうです」


「もう抜かされてんじゃねえか?」


「かもしれません……」


 あそこの血筋はバケモン揃いだからなぁ……流石、魔法界シャンバラ人の血が入ってると魔法適性が段違いだ。

 そう思うと、第1()師団団長とタメ張れる俺とか巳禄も大概だが。


「……ふふっ」


「何だ、頭でも打ったか」


「違いますよ。団長、何だかんだで巳禄のこと心配してるんだなぁって思いまして」


「……テメエの脳は腐ってんのか? 誰があんなクソガキ心配するか。心配してんのは別件だ」


「またまた照れちゃって。……別件と言うと、『マグダラ教会』ですか?」


「あぁ、奴ら最近活発になってやがる。しかも渋谷第三ともそう遠くねえ場所でな」


 マグダラ教会。

 最近できた新興宗教……という名のテロ組織みたいなモンだと推測してる。

 大きく動いてるワケでもないから取っ捕まえることもできないし、ただ注意深く動向を監視することしかできない。

 教義やら思想やらもよくわからんから予測も困難。巳禄の中央執行部じゃねえが、とにかく情報が揃うまでは監視しかできないのだ。


「過去に1回、マグダラの教徒による殺人事件がありましたか。犯人も殺害されたから聞き出すこともできませんでしたけど」


「ったく……状況的に責められねえとはいえ、犯人てがかりを殺したガキはやってくれやがったな」


「……あの子も被害者ですから、仕方ありませんよ」


「わかってる。わかってるから俺も苛立ってんだろうが」


 だからタバコだって吸いたくもなる。

 その辺は大目に見てほしいもんだ。最近、吸ってると周りからの視線が痛いんだよ。穂波の奴、周りに根回ししやがったな。


「警察側が警備を強化してっから、そっから情報が流れてくんのを待つしかねえな」


「巳禄、巻き込まれないといいですけどね」


「そうか? 俺は巻き込まれてほしいけどな。で、さっさとマグダラの奴取っ捕まえて情報を引き出す」


 あいつなら事件に巻き込まれようが問題ない。

 周囲に大きな被害を出すこともなく解決し、騎士団に犯人みやげを持って帰るに違いない。

 警察に持ってかれると捜査が滞るからな。あいつら、自分達の手柄にしたいだけだろうし。


「あいつに監察官をやらせたのは、その辺も含めて監視させるためだ。じゃねえと、わざわざ第1()0団のエースを駆り出さねえよ」


「巳禄に期待しすぎでは?」


「期待じゃねえよ、あいつはこのぐらいやれて当然だ」


 伊達に各師団団長以外で唯一の『特A級』なんて肩書き持ってねえんだから――。



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