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第11話『あとちょっとの辛抱』

 翌日、変化は早速現れた。

 教室に入ると、いつものようにギョッとした顔で皆が固まる。ここまではいつも通りだった。

 しかし、たまたま俺の近くにいた1人の男子生徒が、


「……おはよう、九頭龍」


 と、挨拶してくれたのである! 繰り返そう、挨拶してくれたのである!

 俺から一言も声かけてないのに! 何ならこいつと喋ったことすらないのに!


「お、おはよう! えっと、山田?」


「田中だ」


「おおう、悪い!」


 話したこともないし、これといった特徴も無かったから完全に名前忘れてたわ。

 すまんな田中、多分明日には忘れてると思う。


「おいおい九頭龍、 イメージ改善すんじゃねえのかぁ? クラスメイトの名前間違ってどーすんだよ」


「……よう」


「あ、ジョージに羽多野。お前ら今日は早いな」


「朝からガチめの小テストあっからな! ホームルームまであと5分強しかねえのに、お前は余裕そうだな?」


「えっ、何それ」


「……終わったな、お前」


「赤点だったら評定1らしいぞ」


「マジ!? 全ッ然聞いてなかった! やっべえ時間がねえ!」


「九頭龍、俺のノート見るか?」


「えっ、いいのか田中? ほぼ初対面なのに?」


「何かの縁だ。気にするな」


「神かよお前! 今後ともよろしくだぜマイフレンド!」


 突然の展開すぎて俺も戸惑ってるけど、これもハユルちゃんのおかげだ。改めてお礼を言わなくては。

 ちなみに小テストは田中の慈悲によって首の皮1枚で繋がった。助かった……。

 べ、別に勉強できないわけじゃないんだからね! エリート公務員なんだからね!





「……ってことがあったんだ。ほんと助かった!」


「いえいえ! 私なんかがお役に立てたのなら光栄です!」


 昼休み。

 メアリー不良撃滅事件の現場とはまた別の目立たない場所で、俺とハユルちゃんはお昼を食べていた。


 そろそろ目立たないとこで食うのも嫌になってきたわ。何が悲しくてコソコソせにゃならんのだ。

 だがそれもあと少し。このままの流れでうまいこと行けば……!


「でも田中くんですか……意外ですね」


「あいつあんまり積極的なタイプには見えなかったもんなぁ」


「ええ。それに田中くんは中執のメンバーですから、中執の決定に背くようなことをするとは……」


「中執……? 何それ?」


「中央執行部の略ですよ。生徒会みたいなものです」


 ハユルちゃんから中央執行部とやらについて話を聞いた。

 

 中央執行部。

 この学園が掲げる「実力主義」と「生徒主導」の象徴。

 学園の運営に関して、学園側が請け負う最低限のことを除いて細かい方針などを決める、生徒中心の組織だそうだ。

 

 メンバーは、その戦闘力・素行・頭脳などの総合的な実力が学園のトップ10にランキングしている猛者。

 素行と頭脳に関してはいくらでも誤魔化しが利くらしいが、戦闘力に関してはそうはいかない。現状、実質的には戦闘力トップランカーの集まりらしい。


「つまり……田中はあんなモブ顔に反してメチャクチャ強い!?」


「本人も若干気にしてるみたいなんでやめてあげてください……ちなみに彼は9位です」


「ふむ、なるほど。で、中執の決定ってのは?」


「これは本人には言わない方針だったんですけど……私が言ったってことは秘密ですよ?」


 女の子と秘密を共有するとか何それグッとくる。

 それはさて置き、ハユルちゃんは小声でその内容を話してくれた。


「九頭龍くんの前の学校での事件は、九頭龍くんの転入1週間前には中執は知っていたようでした。それを踏まえ、九頭龍くんの人格、もとい危険性を判断するに十分な情報が集まるまでは静観しろとのお達しが」


「つまり……情報が集まるまでは俺に関わるなと」


「いえ、元々はここまでオーバーに無視しろとは言ってなかったんです。でもウワサが1人歩きして、皆が九頭龍くんを過剰に怖がってしまって……それで中執も対応を変えざるを得なくなったようです」


 強者集団の決定を揺らがせてしまうとは……やっぱウワサってのは侮れないな。


 しかし、田中がここでスタンスを変えたということは、中執自体は当初の決定に従ってくれた方がよかったってことなのか? 

 確かに、観察するだけなら、腫れ物扱いするよりも普通に接した方が遥かにリスクが低い。それは監察官経験のある俺が一番よく知ってる。


「ってことは、思ってたよりも流れはこっちに来てるってことなのか……?」


「恐らく。中執の定例会は毎月の初めに1回行われます。このまま何も問題を起こさなければ、来月の頭……だいたい2週間後に九頭龍くんの監視体制は解かれます。……多分」

 

 それはいいことを聞いた。

 この監視体制に期限が無かったら、下手な行動をしてたかもしれなかった。危ない危ない……。

 

「こんな扱いもあとちょっとってことだな! それまで楽しみに大人しくして――」


「オォォォッス、九頭龍ゥゥゥッ!!」


 めっちゃデカイ声がしたので驚いて振り向いた。

 そこにはニヤついているジョージと、無表情の羽多野がいた。まぁ、お前らだろうなとは思ったよ。


「な、なんだよいきなり出てきて……」


「お? あんま驚いてねえのな。脅かし甲斐がねえなお前」


「バッカ野郎、ハユルちゃん失神しかけてんだろうが。おーい大丈夫? 帰ってこーい?」


「……ハッ!? わっ、わわわわわ私は何を……って柳沢くんに羽多野くんっ!? いいぃぃいぃぃいつの間にっ!?」


 あーあー、ハユルちゃんのアガリ芸が炸裂しちゃってるよ。

 で、何だよこいつら。何しにきたんだよ。なんで俺の情報収集兼癒しタイムを邪魔してやがんだこの野郎。


「で? 何の用だよ、このお祭り男共」


「……俺まで一括りにすんなよ」


「オレはちょっかいかけに来た!」


「帰れよバリアーゴリラ!」


「バリっ……!? ま、まぁ落ち着けよ。オレぁ何もちょっかいかけるためだけに来たワケじゃねえ。1つ誘いがあって来たんだよ」


「誘い?」


 こいつらの誘いってだけで嫌な予感がするんだけど。俺だけなら歓迎だけど、ハユルちゃん巻き込むなよ?

 なんて俺の考えも読めてたかのように、

 

「……別に何もしねえよ。ただのメシだ」


「そう! ただメシを食いに行くだけだ! 非モテ同盟の新たな同胞の誕生を祈ってな!」


「ひっ、非モテじゃねーし! 俺だって来月ぐらいにはモテまくりだしー!」


「まぁ、そんな幻想は置いといてだな。ぶっちゃけ親睦会みてーなモンだ。なんなら安浦も加えて九頭龍イメージ向上委員会だ!」


「ふぇっ!? わっ、私も!?」


「それに安浦なら「モテない主な原因トップ30」ぐらいの情報集めてんじゃねえのか? 女子目線で、ぜひオレらにアドバイスをッ!」


「……あるわけねえだろ」


「ト、トップ20なら……」


「……あるのかよ」


「結局巻き込んでんじゃねえか……! 安浦さん、無視していいから」


「いえ、これも度胸付けの一環と考えれば……! ぜひ、参加させていただきます!」


 おい、この子普通に楽しむ気ゼロだぞ。

 お人好しなのか、アホの子なのか……どっちもあり得るな。


「っしゃ、んじゃ決まりだな! 日程は次の日曜! 場所は……ま、近くのモールでいいだろ! 集合時間は……」


 全部前もって決めてたのかってぐらいスムーズに詳細が決まった。

 どうやらメシだけじゃなくてちょっと買い物とかもしてくらしい。学生らしいイベントだ。


 この一週間を過ごすモチベーションがちょっと上がった。



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