目に入った女 後編 ロックとマーガレットの邂逅
後編です。苦労をして色々な経験を積んだロックがマーガレットの話を聞いて何を思うのか?
今夜アップする本編に少しだけ関係する話なので投稿します。将来的にマーガレットは少しだけ報われます。
マーガレットが遮音魔法を発動させて果実水が届いたのちに話始める。
「昔は聖職者らしい事をしてたのよ、才能もあってとんとん拍子にゴールドランクまで上がってダンジョンでたくさんお金を稼いだわ、私は修道院が運営する孤児院の出身よ、修道院が運営すると言っても環境は劣悪だった、才能の無い子供たちがどうなるかなんていっぱい見てきた、だから私は私の理想とする孤児院を運営しようと思ったの」
「いい事じゃないか、それで夢が叶ったと?」
「最初はね、でも私だって暇じゃないダンジョンにアタックし続けなければお金は湯水のごとく消えていく」
「湯水っていくらなんでも俺たちシルバーでも半月程度で1年以上暮らしていけるくらい稼いだぞ」
マーガレットはロックの話を聞かずに話し続ける。
「私は凄く頑張った、たくさん死にかけた。それでも孤児院のためと思えば苦じゃなかった、でもパーティーメンバーの一人がおかしいって言ってくれて調べたら管理を委託していた修道院に横領されていたわ」
「そりゃ神も信じられなくもなるわ」
「それでも私はまだ神を信じていた、大昔にギフトと言う強大な力を持った者を召喚して今の回復術の基礎を作ったのは彼らだしね」
「今度は仲間にもお願いしてなるべく信用できる商人にお願いして孤児院の運営を委託したの、別途賃金も支給する条件も付けてね、それからはお金の減り方は劇的にいい方に変わった、生活にも余裕ができてランクも上がってプラチナになった」
(近くに孤児院があるが別に他の孤児院と変わらないと思うがここはマーガレットの話の続きを聞くか)
「最初は順調に行っていると思ったわ、何回も抜き打ちで視察をしたけど変わりはない、下手したらそこら辺の庶民の家の子よりいい生活をしていたと思うわ、行くたびに子供達からお姉ちゃん、お姉ちゃんって笑顔で寄ってきて私は幸せだった、もっといっぱい稼いで、できれば私と同じ志を持つ人間を探し出して私は引退して孤児院の院長として子供たちと過ごすのが夢だったのよ」
いつの間にかマーガレットの果実水が空になっていたのでロックは遮音魔法の外に出て氷の入った水をピッチャーに入れてもらい持ち帰って来た。
「ありがとう、気が利くわね。商人は狡猾だった、私は戦いは強いけど商売は下手なのね、商人の盤面では何もできなかったし知らなかった、子供は順調に子供のいない夫婦の家や他の商人の丁稚として引き取られて行ったわ。あの時は本当にそこらの庶民の子より将来が明るいと思ってた」
(あーこれは嫌な予感しかしないな、第六感が働くまでもない、マーガレットは孤児院育ちで才能が恵まれた冒険者だもんな、世間知らず過ぎる)
「私のパーティーの斥候がちょっと暇だし見て来るって言って孤児院を偵察してくれたの、そうしたら怪しい商人が出入りしているって言うの、斥候の制止を振り切って孤児院の院長に詰め寄ったけどうまく言いくるめられて、そのまま院長の勧めで子供達と少し遊んでやって欲しいと言われて数日滞在してダンジョン街に帰ったの、その事をパーティーに報告したら斥候が今すぐ孤児院に戻れって言うの、もう遅いかもしれない早くしろってね、孤児院に戻る馬車の中で斥候から絶望的な話を聞かされたわ」
(だろうな、数日の滞在で商人側は準備を完了させたわけだ。本当によくあるクソみたいな話だ)
「孤児院に行ったらもぬけの殻だった、誰一人もいないの、聞き込みをしたらたくさんの馬車が来て引越しをしたって聞いた、斥候の仲間も手伝ってくれて調べたけど北の国の港を経由したところで情報が途切れた、北のどこかの貴族が関係しているらしくて高位冒険者のプレートの色なんて何の役にも立たなかった、こっちの国と北の国の司法機関に訴えても、賄賂を渡して情報を集めようとしたけどダメだった、私の子供たちは一人も見つからなかった」
(貴族がらみか、準貴族でも俺一人の人生を簡単に狂わせた、港を管理するレベルの貴族相手じゃ冒険者ごときがどうこうできるわけがない)
「もう、私は神を信じる気は無くなった、でもお腹もすくし、無駄に才能はあるし冒険者を続けているわ。私だってそこまで馬鹿じゃない、年を取ったらこんな稼業が続けられないって分かっているからお金を貯めたら引退して遠い田舎町で過ごそうと思ってるの」
(その割には修道服は捨てられないんだな、本人は気が付いてないけどほんの少しだけまだ神を信じているのかね)
「あなたの事を調べたら偶然だけど知ったのよ、私より多くの子供を救っている、元カッパー程度の職人が私の夢を体現しているって、だから話を聞きたかったのよ、私のどこがいけなかったの?私は子供たちが笑って暮らせる普通の家の子のように過ごして欲しいだけなのに」
「俺だって善人であるわけじゃない、善人でありたいと思っているけどな。もしかしたら知らないところで見る人によっては悪事を働いているかもしれない、でも俺も冒険者になって搾取される子供を黙って見てきたって罪悪感はある、すべてを救えるわけじゃないけど働きたいって言う子供に仕事をやっているだけだ、全員を助けようなんて大それたことを思っていねえよ、目に入った奴に手を差し伸べてるだけだ」
「そう、全員は無理だったのね。目に入った子だけでも救えればよかった、本当に神は不条理ね、私にこんなに才能を与えてくれたのにそんな簡単な事を教えてくれなかった」
「仕方ねえよ完璧な人間なんてこの世に存在しない、マーガレットは......」
ロックは「よくやったよ」と言いかけてそれ以上言うのはやめた、実際によくない方向になったと気が付いたからだ。
「マーガレットは今は自分の事を考えればいいと思うぜ」
しばらく沈黙が続きロックが口を開く。
「もう昼飯の時間か、飯でも食うか、奢るぞ」
「……なぜですか」
「目に入ったから」
マーガレット、初めて小さく笑うがロックはそれに気が付く事は無かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回からはオリバーの妹ルイ視点の話になります。
全員を救おうとしたマーガレットと目に入った一人だけに手を差し伸べるロック。
二人の出会いはこれで終わりではありません。ロックとマーガレット、またどこかで登場します。
フラグ立ててやったぜ、若い子だけの恋愛は甘酸っぱくしょうがない。
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