王、コウタを追う、そしてマルコの後始末
消えたはずのコウタ。しかし王はそれを「逃げた」と思い込み、精鋭を捜索に投入し続けていました。
その執着が思わぬところで足を引っ張ることになります。静かに進むはずだった刺の冠捜査に、影を落とし始めていたのです。
蛮族の扱いの為の国際会議の帰り道で王は驚くべき報告を受ける。
コウタ行方不明
ただ事ではない、王はコウタがとんでもなくアホな男である事は十分に知っている。今はまだ王直属の暗殺部隊やイワオをはじめとした王国内の強者なら簡単に処分する事ができるがコウタの持つ「一度見た魔法を扱えるようになる能力」は強力だ。
世界には過去のギフト持ちの祖先が先祖がえりをして強力な魔法を発動させる事が往々にして起きる事である、放置して強力な魔法を手にされると手に付けられないと王は考えて非常に狼狽する。
(流石にこれを大っぴらに発表して捜索をするのはしたくない、一応コウタは野良のギフト持ちという事で決着がついている、私がアヤノの倅を死に追いやった原因を匿っていたと周囲に思われるのは面倒、ただでさえ今のイワオ・アヤノは周辺諸国の大英雄だ、王家とアヤノの間に亀裂があると思われるのは避けたい)
王はこの時は自分の精鋭部隊を使えばコウタくらいすぐ見つかると簡単に考えていた、しかしすでにコウタがイワオの手により処分され墓の中だ、絶対に見つからない。優秀な王の精鋭部隊をいない者の捜索に使う事で思わぬ影響が出始める事になる。
王がコウタ捜索を命じて約半年、珍しくイワオがマルコの家を訪ねてきた。
「すまんな、ちょっとだけ気になる事があって聞きたいことがあるのだ」
「なんだ、イワオ?神妙な顔つきで?怖くてうちのメイドが怯えるからやめて欲しいのだが」
「ワシは普通の顔をしているのだがな、そんな事よりも他国から移送されてくるはずの蛮族の投降者の人数が微妙に合わん、王に進言したのだが忙しいと一点張りで取り合ってもらえないのだ」
「誤差じゃないのか?たくさんの人数がいるのだぞ?」
「何故か若い女性と子供が多く乗った馬車だけが到着せんのだ、ルイが完璧な戸籍を作って住む場所と開拓する場所まで適材適所に配置するように手配しているから行方不明者の年齢と性別に間違いはない、同盟諸国の話し合いで蛮族の捕虜の奴隷化は厳しく禁止するようになっているはずなのだがな、そこらのマフィア程度じゃ売りさばく事なんかできぬはずだ」
解放の際に奴隷化はしないと約束をした、それを反故にした事がばれると最悪大規模な暴動が起きかねないのである。
「ワシの兵は戦う事は得意なのだが諜報とか治安維持は苦手でな、そっちで調べてもらえないか?費用はこっちで持とう」
「わかった、できる限り早急に手を打とう、せっかく勝ち取った平和だ、次は内乱なんてシャレにならない、とは言ってもこっちも人員不足だ。まずはこちらから王に話をしてみる。蛮族の扱いはほとんどアヤノに委託をしているが国家事業だ、国に動いてもらうのが筋だろう」
その頃、刺の冠の幹部宅で会議が開かれている。
「思いのほかうまくいっていますね、ブゥタが捕まって資金集めに苦労しそうだったがこれなら何とか穴埋めできそうだ」
「しかし、何故こうもうまい事女子供ばかり乗っている馬車を襲撃できるのだ?それもいつも見張りがいない時間を把握できていますね?」
「それだけ我々刺の冠の上の人間は情報通なのだろう、指示書通りに襲えば濡れ手に粟だな」
「でもその捕まえた人間はどのように処分をするので?同盟諸国内では投降した蛮族は丁重に扱えとお達しがでているはず」
「ジパンだよ、あの国は蛮族に2回も大規模な襲撃を受けている、撃退をしたとはいえ大損害を受けている上に捕虜をうまい事使っているようだ、ジパンの人買いと手を組んで輸出しているのだよ、3つも港を管理していたブゥタがいないから売り払うのに時間はかかるが我々が抑えている港はまだある」
この時点で王の直轄の調査チームが動いていれば刺の冠の資金源を断ち、主な犯行グループは全員捕まえる事ができただろう、裏の金の集まる所には裏のプロであるマフィアがかぎつける、そのプロがアドバイザーとなり大量の資金を得た刺の冠は徐々に手を付けれなくなるほど地下網を張り巡らせていく。
一方王城でマルコが王に陳情をしていた。
「このような理由で早急にこの問題に取りかからないと内乱が起きる可能性があります、どうか調査部隊と費用を出していただきたい」
「うーむ、次から次へと問題が増える、蛮族が消えても気が休まらないものだ、仕方がない。ロッシ以外の者は何も言わず、何も聞かずに今すぐ部屋から出ろ」
「人払いをしてまでの話なのでしょうか?」
「うむ、ロッシよ誰にも言うなよ。実はコウタが行方不明になった、今私の手の者はコウタの捜索をさせている、あやつの権能の一つの見た魔法を使える能力は危険すぎる。放っておくことはできん」
「はぁ、それは.....」
(お前の保身のせいで内乱がおきるかもしれないのだぞ、あいつはアホだから放っておいたらどこかで目立つだろうからその時に殺せばいいものを、見えないものに怯えて目の前の脅威から目をそらしてどうするんだ)
「それなら、化物には化物をぶつけましょう、私からうまい感じに言います。王はアヤノ家に不敬を働いたコウタを監禁していたが逃げたとイワオ氏に伝えましょう、アヤノの人海戦術で探し当ててイワオ氏に処させればいいのです、イワオ氏ならどんな魔法を食らっても死なないので大丈夫ですよ」
「そ、そうなのか?」
「そうなのです、イワオ氏の手にかかれば魔法ぐらいワンパンで砕きます、お任せください。なので捕虜行方不明事件に取り掛かってください」
その後マルコはその足でイワオと会う約束を取り付けてその話をした、のだが衝撃の事実が発覚する。
「もう殺しちゃった、貧民専用の墓場に埋めたぞ」
「そんな、ちょっと野暮用を片付けるような勢いでギフト持ちを殺すとか流石に思いつかないわ、でもそれなら話は早い、実は王に匿われる前のコウタの足取りは掴んである、出身地の港町のマフィアに殺されかけて逃げ延びたらしい、そのマフィアはまだコウタを懸賞金付きで追っている」
「マルコの事だ、そこまでわかっているならもう手は考えてあるのだろ?」
「ああ、思ったより簡単にいくだろう、早速指示を出すよ」
とある港町の酒場にて、荒くれ者が集う中に似つかわしくない男が交渉をしている。
「と、言うわけであなた達が探しているコウタさんはある貴族の逆鱗に触れてこの世からいなくなっています、探しても無駄ですよ」
「それだけで納得すると思っているのか?その貴族を出せよ、どうせコウタごときにいいようにやられる弱小貴族だろ?振り上げたこぶしの落としどころが無いとこっちもメンツがあるんだよ!」
「いいですけど皆さん皆殺しにあいますよ?大英雄と戦いたいなら止めはしません、勝手にアヤノ領に攻め込んでください」
「え?大英雄?アヤノ?」
「この話は忘れて、私が用意したあなた達のメンツ料金を受け取った方がいいと思いますがね?」
交渉人は金貨がぎっしり入った革袋をマフィアのボスに手渡す、このマフィアグループが1年は稼ぐレベルの金額だ。
「この金額、マジのようだな。俺は元はアヤノの脱走兵だ。当主どころか小隊長レベルでも俺達じゃ手も足もでねぇよ、で?俺たちに何をしてほしい?」
「ただ、コウタを見つけたから処分したと吹聴してくれればいいですよ、それだけですべてが解決してあなた達はメンツを回復して大金を手に入れる、悪くない話かと」
次の日の晩から港町周辺の酒場では「コウタと言う男は海底で優雅に海水浴をしている」と言う話でもちきりになる。
王にもその話が届きホッと胸をなでおろすのであった。
「結局、男が逃げるのは昔の女の所だったという事でしたね、あいつはバカだから昔の女のところにマフィアが見張っているとは思わなかったようで、イワオ氏に頼むまでも無かったですよ」
「うーむ、アホだとは思っていたがあそこまでアホだったとは、私は元港の荷揚げ屋をやっていたと聞いたからその伝手でジパンにでも逃げたと思ってヒヤヒヤしたのだがな」
「アホの事は忘れて、捕虜問題に集中しましょう」
その頃いつの間にか刺の冠の会議に見慣れぬ人物がアドバイザーとしてつくようになっている。
会議に参加している貴族は仮面をかぶっていて誰かは分からない。一番偉そうにしている男にアドバイザーを名乗る男が声をかける。
「そろそろジパンに送る蛮族を捕えるのはやめたほうがいいと思われます、我々の調査では要所に見張りが大量に追加されています、手が読まれ始めたと思って間違いないでしょう」
「ふむ、お前の事は最初は怪しく思ったがお前が持ってくる情報と袖の下に間違いは無い。取りやめにするように通達しておこう、しかしそうなると資金集めも難儀になるな。税率をあげるか?」
「その事なのですが今税率を上げたり貧民街の人間を秘密裏に売りさばいても手に入るお金は一時しのぎにしかなりません、農民が死ねば来年からの税金は減ります、貧民を売りさばくのもリスキーです。まずは国の指針に従って下々の者にお金を持たせましょう、この場では損と思うかもしれませんがそこは我々にお任せください、人間とは欲深い生き物です。小金が手に入ると増やしたくなります。幸いまだ賭博は禁止されていませんので庶民に小金が行きわたると同時にカジノを作ります。そこでギャンブル中毒者を増やせば仮にギャンブル禁止令が出ても地下賭博場でもっと荒稼ぎできますよ。数年の辛抱です、必ず儲けさせます。その間はお小遣い稼ぎにしかならないでしょうが我々の密輸入に目を瞑っていただければそれ相応のお礼はしますよ」
「ふむ、仕方ないか。王直下の部隊が動いているかもしれん、この商売から手を引くか。それより私が用意した畑と奴隷で何をしているのだ?儲け話なら一枚噛ませろ」
「ちょっと気持ちよくなる薬を作らせているのですよ、これを使うと次々と使いたくなってどんな善良な人間でも大金を払って買い求めるでしょう、町にその薬を入れる際にスルーしていただければ割り増し料金を.....ね?」
「そうか、ばれずに金になるならなんでもいいぞ、好きにしろ」
「ありがとうございます、必ず儲けさせます、どうかそちらでもうまい事我々の商売を裏で支えてください」
(馬鹿め、自分の領に麻薬を入れて喜ぶ領主がいようとはな、吸い尽くすだけ吸い尽くして後は逃げるだけよ、担ぐ神輿は軽い方がいいとはうまくいったものだな)
王のちょっとした権力欲や隠ぺい体質で王国をはじめ近隣諸国に癌細胞が急速に広がろうとしている。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
コウタを巡る一連の騒動も、こうして静かに幕を閉じました。王の思わぬ執着が、思いがけない方向に物語を動かしていましたが、マルコの手腕によって無事に収束したようです。
さて、蛮族編・コウタ編が一区切りついたところで、次回は人物紹介回をお届けしようと思います。物語もかなり長くなり、登場人物も増えてきましたので、ここで一度みなさんの頭を整理していただければと思います。
新しく登場した人物、そして意外な素顔——この機会にぜひチェックしてみてください。
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次話もお楽しみに。




